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第三話 ようこそ新世界へ

「うん……ここは?」


 神様と別れた私が目を開くと、そこに広がっていたのは、都会では見る事ができないような広い草原と、木々が生い茂る森の境界線だった。

 それを見て、私がまずした事は、自分の頬をつねる事だった。


「いひゃい……夢じゃない……か」


 どうやらこれは現実らしい。

 まあ、正直夢の中で頬をつねっても、痛いってなった事があるから意味は無いんだけど、自分の精神状態を切り替えるためになんとなくやっていた。

 気分を落ち着けた私は、取り敢えず周囲の状況を確認する。

 神様がこの世界には魔物とかもいると言っていたから、いきなり戦闘になるかもと不安だったけど、どうやら周囲に魔物はいないようだ。

 それならばと私は、自分の格好を確認する。


「うっわ、えっろ」


 神様は私に服を用意してくれると言っていたけど、用意された服は、肩や背中が丸出しで胸を強調する為だけにあるような腰の装飾――コルセットが悩ましく、アームウォーマーとリボン付きニーソックスと二段フリルミニスカートという冒険での実用性を無視した、黒が基調の若干ゴシックファッションっぽい衣装だった。

 因みに下着の上は無しで下は黒のレースだ。

 うむむ、私は胸が大きい方なので支えが無いと安定しないはずなんだけど、何故かとっても安定している。これは異世界補正なのだろうか? まあ、深くは考えないようにしよう。


 それにしても、剣と魔法の世界だと言っていたのにこの服装はどうなんだろうか。

 こんな肩と背中丸出しの格好で森の中に入ったら絶対に傷や虫刺されだらけになると思うのだけど、その辺も異世界補正で何とかなるのかな?

 異世界に来てまでそんな事を気にしてもしょうがないのかもしれないけど、どうしても気になってしまう。


「うん、でもまあ、結構可愛いかな」


 しかし、文句は言っても私も女の子。可愛い衣服は好きだし、この手の衣装も結構好みだったりする。

 まあ、コスプレなら何度かこっそりした事があるし、その延長だと思えば悪くないかな。

 そう思い始めた私は、スカートを摘まんでクルクル回転したりしながら、服の着心地なども確認する。

 本当なら、鏡も用意して色々とチェックしたいのだけど、鏡どころか民家も無いので諦めた。


「よし、服はこれで良いとして、お次は魔法の実験と行きますか」


 私が今いるのは野外なのでこのままいつまでも安全とは言えない。取り敢えずいつ魔物がやってきても良い様に、自分の武器のチェックはしておかないと。

 という事で、私は早速魔法を使ってみようとしたけど、使い方が分からない。

 どうしようかと考えていると、頭の中に魔法の使い方が思い浮かんでくる。

 絶対に今までの人生で覚えていないような内容が、元々知っていたかのように思い浮かんでくるのは少し気持ちが悪いけど、便利なので我慢する事にする。

 頭に浮かんだ内容を整理した私は、まず、肉体強化の魔法を発動させてみる事にした。

 肉体強化系の魔法は何をするにしても必要になるものだし、使える状態なら真っ先に覚えておきたい。


「うーん、こんなものなの?」


 頭で魔法を想像して発動してみたけど、あまり違いが分からない。

 なんだろう。想像力が足りてないのかな?

 私は色々と考えてみて一つの結論に至る。


「やっぱり、カッコイイ名前が必要だよね……」


 そう、魔法と言えばやっぱりカッコイイ魔法の名前を叫んで発動させないと私のやる気が出ない。

 そうと決まればカッコイイ魔法の名前を考えて……。よし!

 私は思いついた魔法の名前を高らかに叫ぶ。


肉体活性(ブースト)!」


 その瞬間、私の体は軽くなり、全身から力が溢れてくるのを感じる。

 『肉体活性(ブースト)』と名づけた魔法、それは身体能力強化と肉体強度強化、二つの効果を同時に発生させる魔法だ。

 二つがセットなのは、身体能力だけ上がると、自分の腕力の所為で腕の骨が折れるとかがありそうだったからだ。

 肉体活性と書いてブーストと読む。

 よし、完璧だ。


 そのまま私は、『肉体活性(ブースト)』を何度か発動させたり解除させたりを繰り返す。

 数回繰り返すうちに、魔法を発動させるコツがつかめてきたのか、段々と効果も上がり、最終的には魔法名を叫ばなくても発動できるようになった。

 でも、やっぱり名前を叫んだ方が効果が上がるみたいで、叫ばずに――いや、無詠唱で発動すると効果が半分くらいに落ちていると感じる。


 まあ、半分に低下してても十分効果はある事だし、『肉体活性(ブースト)』についてはもしもの時の為に常に発動状態を維持して、必要な時に名前を叫んで――詠唱して発動し直すという形で良いと思う。

 因みに、魔法に使う魔力? については、体の奥に何かの力が満ちているといった感じで残ってるのが伝わってくる。

 正確な残量はわからないけど、少なくとも『肉体活性(ブースト)』を発動するくらいでは減ってる感じがしない。たぶん、『肉体活性(ブースト)』で消費してる魔力より、自然回復する魔力の方が多いのだろう。

 MPが多くてすぐ回復するのは良い事だ。

 ゲームならMPの管理をうまくするとかいう楽しみ方が出来るけど、現実じゃあそんな事気にしてる余裕なんて無いからね。


 魔法についてわかってきたところで、次の魔法の練習を開始する。

 次に覚えるべきなのは魔力の放出だ。

 元々平和ボケした国で育った私が、いきなり魔物と接近戦というのは辛い。だから、まずは遠距離から戦える方法を知るべきだ。

 『肉体活性(ブースト)』に遠距離攻撃を合わせれば、遅い敵なら走り回りながら倒せるしね。

 私は体の奥にある魔力を、外に撃ち出すようイメージし、右手を近くの木に向ける。

 この時、想像力を更に高めるため、具体的な効果と放出の仕方を思い浮かべ、詠唱する。

 イメージするのは飛ぶ斬撃。そう、かまいたちのような攻撃。

 そして、魔力の放出――いや、魔力の解放を行い目標を切る。


魔力解放(リリース)カット!」


 詠唱と同時に、私の右手から白みを帯びたかまいたちの様なものが飛び出し、目の前の木に衝突する。

 結果、木には大きく切りつけられた様な跡が出来上がって、木の葉が舞い降りてくる。

 うん、うまくいった。でも、威力はそれほど高くは無いみたい。木に入った切れ込みは精々3cmくらいで両断とはいかない。

 まあ、人間相手だったら十分痛そうだし、これくらいで十分かな?


 私は魔力の放出はそれで良いかと考えて、今度は魔力の固定化の練習を始める。

 固定化は魔力を好きな形に実体化させて、切断能力とかも持たせられるらしい。

 ただし、うまく想像できないと持つ部分に切断能力がついて、持った瞬間指が飛ぶかもしれないみたいだ。うわ、怖い。今まで以上に集中しないと。

 私は気合を入れなおして魔力を操り始める。


 イメージしやすいのはやっぱり剣かな?

 私はシンプルな剣の形を想像すると共に、魔法の名前を考える。

 えっと、魔力の固定化。いや、固定化じゃなくて、具現……、そう具現化が良い。

 そしてもちろん、読み方はカッコイイ当て字にして……。


魔力具現化リアライズブレイド!」


 その詠唱と共に、私の右手に白一色の純白の剣が出来上がる。

 形はシンプルなもので、刃渡りは大体70cmくらいを設定。柄は両手でも片手でも握れるくらいにした。

 うんうん、初めてにしてはよくできたと思う。私はそのまま何度か剣を振り回してみる。

 剣は大きさに比べてかなり軽くて簡単に振り回せるけど、これはたぶん軽いんじゃなくて、私の筋力が『肉体活性ブースト』で上がっているからだと思う。

 その証拠に、試しに地面に放り投げてみたら、それなりの重さを持った落下音がした。


 私はしばらく空気を斬った後、実際の切れ味を試すために私の腰くらいの太さの木の前に立つ。

 剣道とか剣術とかを習っていた訳ではないので、私は棒で殴るみたいに適当に剣を木に叩きつけてみた。

 すると、剣は気持ち悪いくらいにスーっと木に吸い込まれていき、そのまま木を両断してしまう。

 正直切れ味が良すぎて怖い。これだとたぶん、間違えて刃が自分の体に当たったら、そのまま切断されてしまうと思う。

 やっぱり刃物の扱いには気をつけないと駄目だね。

 私はすっかり怖くなって、そのまま剣を魔力に戻す事にする。

 その作業自体は簡単で、消えるように念じただけで、剣は白い粒子になって大気に溶けていった。


「あれ?」


 その時私は不思議な感覚に見舞われる。

 『魔力解放(リリース)』や『魔力具現化リアライズ』を使用した際、私は自分中の魔力が減るのを感じていたのだけど、『魔力具現化リアライズ』を解除した瞬間、自然回復ではない量の魔力が一気に回復するのを感じたのだ。

 どうやら『魔力具現化リアライズ』は、解除すれば魔力をすぐに回収できるらしい。

 もしかすると、回復にある程度のロスがあるかもしれないけど、『魔力解放(リリース)』と違って効果も高いし使い勝手も良さそうだ。これは怖いとか言ってないで早く使い慣れるようにしないと。


 あと、練習してない魔法は回復魔法だけだけど、回復魔法は怪我をしてないと発動しても効いてるかわからないから、取り敢えず効果と名前だけを考えておくだけにしておいた。

 そうして回復魔法の名前を考え終わった私は、もう一度一通りの魔法を楽しみながら練習する。

 元々私は、こうやっていろんな物の設定とかを考えるのが大好きだったし、想像力によって効果が左右される魔法との相性は抜群だ。

 この魔法の力を授けてくれた神様には感謝しないとね。


 それからしばらくして、そろそろ魔法を使いこなせる自信をもった私は、いいかげん木の相手をするのにも飽きてきて、別の目標は無いかなと考え始めた。


「グフッ、ゴフッ」

「ん?」


 そんな時、私の目の前に、見るからにゴブリンといった姿の生き物が、ご都合主義の展開みたいに突然やってきた。

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