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第三十三話 パラダイス・ロスト

 突然、目の前がぼやけていく。

 原因は分かっていた。

 私の中にある魔力が尽きかけているのだ。


「――!」


 アリスが私を呼んでいるのが分かるけど、その声が遠い。

 ダメだ。このままじゃ……。

 もし、ここで私が倒れたら、エリュシオンを維持できない。

 仮に、もうエリュシオンの魔力が限界まで回復していたとしても、相手の船に予備の魔結晶があれば、それだけで勝ち目が無くなる。

 だから……。


ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行」


 私は自分の中にある、かけがえのないものを代償に、魔力を高める。


「大丈夫なんですか!? お姉さま!」

「大丈夫……!」


 魔力が回復したお陰で、アリスの愛らしい声も聞こえてくる。

 でも、増えた魔力はまたすぐに無くなる。ダメだ。まだ足りない。


ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行」


 一回ではすぐに無くなってしまう。まだ足りない。


ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行」


 まだダメ。全然足りない。


ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行

ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行

ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)発動

 私の人間として大切な何かを代償に、神格化レベルアップを実行」


 繰り返す。繰り返す。私は繰り返す。

 そうやっていったい何度繰り返しただろうか。

 三桁を超える回数、大切な何かをすり減らし、私は魔力を注ぎ込んだ。

 そして、その瞬間が訪れた。



『白雪 沙耶の神格化レベルアップ回数が一定数を突破しました。

 これより白雪 沙耶は、人間である事を放棄します』



 ――ドクンッ


 私はその瞬間。自分を構成する何かが、決定的に変わっていくのを感じた。

 目がおかしい。魔力は十分なのに意識が朦朧とする。

 でも、意識を失うわけにはいかない。


「お姉さま! これだけの魔力があれば艦首の兵装が使えます! 指示を下さい!」


 朦朧としている状態で、アリスの声が聞こえてくる。

 そうだ、あれなら魔法障壁があろうとあいつを倒せるかもしれない。

 艦首・連鎖式次元崩壊砲ディメンション・ブレイカー

 それは、魔結晶何個分か計算するのも嫌になるほどの大量の魔力と引き換えに、次元すらも破壊する力。

 その力なら、同型艦だって消し飛ばせるはず!

 私は朦朧としながらも、アリスに指示を出した。


「使って……!」

「了解!」


 私の指示に従って、アリスが手元のパネルを操作する。

 あれ、何故だろう。とても嫌な感覚に支配される。

 何か、大切な事を忘れているような……。


「対象との距離は問題無し! 機関解放。チャージ開始!」


 アリスの操作に従って、エリュシオンの艦首の装甲が開き、中からリング状の物体が出てくる。

 その物体は、エリュシオンの双頭の艦首でグルグルと回転し、中心に魔力を収束させていく。

 それを確認したであろう敵は、発射を阻止しようと砲撃してくるけど、その全てが魔法障壁によって防がれる。

 魔法障壁の展開によって消費した魔力は、すぐに私が補充した。

 その時私は、さっきまでと違って自分の魔力がまったく減っていない事に気が付く。

 いったい何が起こったのだろうか。そんな事を考えていると、アリスがチャージの完了を伝えてくる。

 そして、アリスはそのまま、手元のパネルを操作した。


「艦首・連鎖式次元崩壊砲ディメンション・ブレイカー発射!」


 その時私は自分が何を忘れていたのかを思い出した。

 そうだ、あれはノイシュタットの方から飛んできたのだ。戦闘中に自分たちがどういう風に移動したかは思い出せないけど、もしかしたら。


「あ……」


 そう思って、私が目を凝らすと、艦首から漆黒の光が放たれ、エデンへと吸い込まれていく。

 そして、エデンに光が接触した瞬間、目の前の空間がまるで崩れるように歪んでいった。

 それは、幻想的光景。

 何も無い空間にひびが広がり、ガラスのように砕け、次元が崩壊していく。

 それは、美しい光景。

 キラキラと崩壊した次元が降り注ぎ、まるで粉雪の舞う空のよう。

 それは、見たくなかった光景

 その美しい光景はそのままノイシュタットまでたどり着き、ノイシュタットの街さえも粉々に崩壊させた。


「あ……あぁ……」


 それは、受け入れがたい現実。

 あれは私が指示をした結果だ。

 たとえそれがアリスの提案だったとしても、私がやれと言った事には変わらない。

 あの街にはいったいどれだけの人間が住んでいたんだろう。

 今まで出会って来た人々の顔が私の中に浮かび上がる。

 殆どの人は、名前すらもわからなかったけど、そんな事は関係ない。みんな等しく死んだのだから。


「ああ……あああ……」


 もういやだ。もうイヤだ。もう嫌だ。

 何なのこの世界は、何で私がこんな目に合わないといけないの。

 私の中を支配するのは後悔や罪悪感ではない。もっと単純な感情だった。


「もう……疲れちゃった……」


 そう、私はもう生きることに疲れてしまった。

 その事を自覚した瞬間、私の身体は地面に崩れ落ちる。

 その音を聞いて、私の方を振り向いた二人は驚きの声を上げた。


「おねえちゃん!」

「お姉さま、その姿はいったいどうしたんですか!」


 二人は私に駆け寄ると、私の事を心配そうに見つめて、何かをしゃべっている

 そして、アリスは私が言葉を理解していない事に気が付くと、私に向かって、ポケットに入っていた手鏡を差し出してくる。


「えっ……?」


 ぼんやりとしながら手鏡を覗き込むと、そこには銀髪に深紅の瞳を持った女の子がいた。

 その顔は間違いなく見慣れた私のものなのに、黒髪も黒い瞳もまったく違うものに変わってしまっている。

 そう、それはまるで、いつか見た神様のようだった。



『ああ、意外と早く終わりが来たみたいだね』



 頭の中にそんな声が響いたと思った瞬間、私の意識はぷっつりと途絶えた。

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