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第二話 目が覚めるとそこは

「さあ、目を覚まして」

「……ん、んんっ……」


 私は誰かの声で目が覚める。でも、なんだか頭が重くて、意識がはっきりしない。

 私は頭を押さえながら上半身を持ち上げ、瞼を開き辺りを見回す。


「は……?」


 辺りを見回した私の目に飛び込んできたのは、地平線の彼方まで真っ白な謎の空間だった。床も白、空も白、何もかもが白一色でどこからが地面でどこからが空なのかもわからない。

 何これ、ドッキリとかいうレベルじゃない。ここはどこ、私は……いや、自分の事はさすがにわかる。

 でも、あれ? 自分が直前まで何をしていたのか思い出せない。確かザマス先生に怒られて、ゲームを買いに行けなくなって、それで……。あれ? そのあと何か重大な事件があったような……?


「おはよう」

「うっ……!」


 考え事をしていると、私の真後ろから声が聞こえた。たぶんさっき私を起こしてくれたのもこの声だろう。

 その声はとても可愛らしくて、普段の私なら声を聞いただけで興奮を覚えたに違いないけど、何故か今は心臓を鷲掴みにされた様な恐怖を覚えた。

 何故だろう、私はこの声をどこかで聞いた事があるような気がする。ごく最近……、今と同じ背中越しに……。

 考えても答えは出ず、仕方なく私は声の方へと振り向いた。


「うあ……」

「うん? ボクの顔に何か付いてるかい?」

「あ……いや……別に……」

「そう? ならいいや」


 そこにいたのは、私の好みの美少女だった。

 小柄で幼さを残した体つき、血の様に赤い真紅の瞳、絹糸の様に美しく足元まで届く銀髪、白い陶器のように美しく滑らかな肌を持った、何もかもが完璧な美少女だった。

 その美しさによる衝撃は、私の中から恐怖心を消し飛ばしてしまうくらい強烈だった。

 少し落ち着いてから私は、明らかに日本人ではないこの美少女が日本語で話している事に違和感を覚えた。だけど、そんな事もすぐに気にならなくなる。何故なら目の前の美少女が全裸で、髪の毛が体の一部を隠しているだけというような格好をしていたため、そちらに気を取られてしまったからだ。


「調子はどうだい? ちゃんと元通りにしてあるはずだけど?」

「元通り?」


 そう言われて私は自分の体を見下ろした。

 そこにあったのは、散々鏡で見慣れた自分の体で、おかしいところは何も無い。強いておかしなところを上げるとすれば、私も少女と同じく全裸である事だろうか。


「えっと、問題は無いけど……なんで裸なの?」

「よし、問題が無いようなら、それも含めて、君が何故ここにいるのかを説明しよう」


 そう言って少女は語り始めた。

 何でも私は不幸な事故に遭い、そのまま死んでしまうところだったらしい。

 でも、それでは可哀想だと思ったこの少女が私を助けてくれて、この空間に保護し傷も治してくれたそうだ。

 ただ、その時のショックで、私は記憶の一部を失っているらしく、その不幸な事故の内容までは思い出せない。

 まあ、服に関してはその事故の所為で使い物にならなくなっていたから脱がしたという事だから、相当酷い事故だったんだとはわかる。


「この空間? 傷を治す? えっと……あなたって何者?」

「ボクかい? ボクはとある世界を管理する神様さ」

「神……様……?」


 一瞬私はこの少女が自称神様の痛い子なのかとも思ったけど、この状況や人間離れした容姿を見ていると冗談だとは思えなかった。

 あと、ドッキリという線は私の身包みが剥がされている時点でありえないと思う。こんなの実際にやったら犯罪だからね。

 私はこの少女の言う事を全面的に信用して、自分の状況を確認する事にした。


「あなたが……いや、あなた様が神様って事は理解しましたけど……私はいつまでここにいれば良いんですか?」

「あ、話し方は気にしないで友達と話すようにでいいよ」

「……わかった」

「ありがと。あと、君には一つ謝らないといけない事があるんだ」


 この少女は神様なのだから、私が友達がいない事も知っているのでは無いのだろうか。正直、友達と話すようにと言われてもピンとこない。

 いや、この神様はとある世界――異世界の神様って事だから、私の私生活までは知らないのかな?

 まてまて、今はそんな事を気にしている場合じゃない。神様が謝罪する事があるなんて絶対普通の内容じゃない。心して聞かないと。


「ボクは君を不幸な事故……から救う為に異世界から干渉して君を助けた訳だけど、これは本当はルール違反でね。君を元の世界に帰す事が出来なくなってしまったんだ」

「元の……世界……に帰れない?」


 つまり私は勝手に異世界に連れてこられた上に、帰れなくなったという事か。

 まあ、そうしないと私は死んでいたそうだし、神様を恨む気にはなれないけど、もう少し柔軟な対応は出来ないものなのだろうか。


「神様って言うのは君達が思い浮かべるほど万能じゃなくてね。色々と面倒な立場なんだよ」

「いや、こっちは命を救ってもらったんだし気にしなくていいよ。それよりも、これから私はどうすれば良いの?」


 元の世界に帰れないとなると、新作のゲームや読みかけの漫画の続きは見れないのかとか、せめてあのアニメの最終回を見たかったとか色々と考える事はあったけど、私はおとなしく神様の指示に従う事にする。

 私は自分のわがままが通る状況と通らない状況くらい判断できる。ただの人間でしかない私には神様の決定に従う事しかできないのだ。


「うん、君は素直ないい子だね。そんな君にはボクの管理する世界で生活してもらう事になる」

「あなたの世界?」


 何でもこの神様は異世界を一人で管理しているらしく、自分の世界の中ではそれなりに融通してくれるそうだ。


「ボクの管理する世界は君達の世界で言う剣と魔法のファンタジー世界でね。魔物とかもいるから、正直元々の君の能力じゃ一日生きるのも辛いと思う。だからボクからせめてもの償いに、特別な能力をプレゼントするよ」

「特別な能力!」


 その一言で私のテンションは上昇する。やっぱり異世界転移ものと言えばこれだよね。

 神様から与えられた特別な力を駆使して異世界で生き抜く。その類の創作物が好きな私には心揺さぶられる展開だ。

 私のテンションが上がっているのが神様にも伝わったのか、神様は私を生暖かい目で見守ってきていた。


「さて、君の準備も万全みたいだし、早速能力をプレゼントしよう」


 そう言うと神様は私の胸元に優しく触れ何かを呟いている。その言葉は日本語でも英語でもなくて、聞いた事がない言語だ。

 私がぼんやりとそんな事を考えていると、神様と私が触れ合っている部分が一瞬だけ光り、神様が手を引くと光が消えた。


「はい、おしまい」

「えっと、もう終わったの?」


 随分あっさりとしていたので私は拍子抜けしてしまった。これで本当に特別な能力が貰えたのだろうか?

 人間は難しくても不満に思うし、簡単すぎると不安になる面倒な生き物なのだ。


「うん、これで君は能力を習得できてるよ。能力名とか説明についても君の脳に直接刷り込んであるから、思い浮かべるだけでわかるはずさ」

「どれどれ……」


 神様に言われて私は早速能力とやらを思い浮かべた。

 おおっ、本当に思い浮かんでくる。

 えっと、どうやらプレゼントされた能力は三つらしい。



 一つ目の能力。

 『ご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)

 異世界での生活に困らないよう、様々なご都合主義を起こしてくれる能力。

 異世界言語とか異世界文字はこれで自動的に日本語に翻訳されるそうだ。超便利。

 あと、他にも色々と効果があるみたいだけど、それは困ったその時々で発動してご都合主義を引き起こすらしい。

 まあ、創作物によっては標準装備してありそうな能力だよね。



 二つ目の能力。

 『異空間収納(アイテムストレージ)

 これも創作物とかで見た事がある。

 効果はアイテムの収納で、念じただけで出し入れできるし、目の前にアイテムリストを表示して選んで出す事も出来るらしい。

 生き物は入れられないけど死体は収納可能で、中は時間が停止するからアイテムが劣化する事はないそうだ。


 あと、魔物の死体を収納した場合、自動的に換金及び魔道具って物の燃料になる魔結晶と、不要部分に分解してくれて、不要部分は変換用魔力というものになるらしい。

 因みに変換用魔力は念じると好きな食べ物に変換されて、いつでも好きなご飯が食べられるとの事だ。

 魔物の死体から作られた物ってのは抵抗があるけど、飢えで苦しんだりするよりは良いし、これを使えば異世界のご飯が口に合わなかった時にも助かるなと思う。



 三つ目、最後の能力。

 『掌握魔法マジック・オブ・ルーラー

 本来何かに変換されて決められた効力を発揮するのが魔法だけど、この魔法は、変換される前の魔力を掌握して直接操る事で普通とは違う魔法が使えるようになるらしい。

 来た! 魔法の力!

 やっぱり異世界と言えば魔法だね。

 しかも、普通の魔法とは違ってって所が特別って感じがして良いね。


 えっと、内容は主に、魔力による強化、魔力の放出、魔力の固定化、魔力の変換による再生らしい。

 要するに能力上昇と、遠距離攻撃と、武器等の製作と、回復が出来る魔法みたいだ。

 すごい、まるで勇者みたいな万能魔法だよ。

 ただ、効果については使う人間の想像力や集中力、魔力により左右され、扱いが難しく、器用貧乏になる可能性もある、か……。

 まあ、安心して。永遠の中二病を誓っている私の妄想力は人並み以上。必ず使いこなして見せるから。



 貰った能力の内容を確認して上機嫌になって、早速これらを使って何をしようかなと考えていた私に、神様は優しく微笑み口を開く。


「喜んでもらえてるみたいで良かったよ。ボクは幸せそうに笑う君の綺麗な顔が大好きだからね」

「――っ!」


 何故だろう。容姿を褒められただけなのに、言いようの無い恐怖が私の中から生まれてくる。

 私はその恐怖をひとまず押さえ込み、神様に感謝の言葉を伝える事にする。


「あっ、ありがとう神様。私の好みに合う素敵な能力だよ」

「そうかい、そうかい、それは良かった」


 神様は笑顔で話してくれているのに、私の不安は消える事はない。


「じゃあ、満足してもらったところで君を地上に送り出す事にするよ。あっ、服に関してはボクが適当に用意していてあげるから安心して」

「うん……ありがとう」

「いや、ボクの方こそ、綺麗な君と話せて幸せだったよ。さあ、目を閉じて、意識を集中して」

「はい……」


 私は神様に言われるがまま目を閉じ、その瞬間を待つ。

 そんな段階になって、私は神様に聞き忘れていた事があるのを思い出した。


「ねえ神様、あなたって何で私を見ていた――」

「元気に頑張ってね」


 私はその質問を言い切る事が出来ず、そのまま神様の管理する世界に転送された。

 まあ、知ってもどうしようもないし、私は気にせず与えられた能力を駆使して、異世界で立派に戦い抜こうと気持ちを切り替えた。


 その時、私は自然とそんな風に考えていたけど、何故戦って生きる事を前提に物事を考えてしまっているのかは自分でも分からなかった。

 いや、それ以外にも、私が遭遇した事故の詳しい内容だとか、何故ここまでしてくれるのかだとか、気にしなければいけない事はたくさんあった。なのに私は、誰かにそうする事を強制されているかの様に、余計な事を考えられず、そのまま送り出されてしまったのだ。

 そして、その事に私が気付くのは、随分と先の事になるのだった


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