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第一話 出会いは突然で

楽しんで頂ければ幸いです。

どうかよろしくお願い致します。

「白雪 沙耶さん! あなたはまた問題を起こしたのですか!」

「えー、先生問題なんて起こしてませんよ。私はただ、他校の女の子をナンパしただけです」

「それが問題なんです!」


 ここ、聖アリーヤ女学園の教師を勤めるザマス先生――命名私――はいつも私を大声で注意してくる。困ったものだ。

 因みに、ザマス先生の怒りに触れたらしい私のナンパの成功率は0%だ。

 私はいつも心をこめて愛を囁いているのに、相手の女の子が、女同士とか頭おかしいんじゃないとか、あなたに可愛いとか美人とか言われても嫌味にしか聞こえないとか言い出して話を聞いてくれないからだ。

 いったい何がいけないのだろう……。


「また白雪さんが注意されていらっしゃいますわ」

「白雪さんは見た目は可愛らしいのに……、頭の方はその……ちょっとおかしいですからね」


 私好みの可愛らしい生徒二人が、私を見つめながらヒソヒソと会話をしているのだけど、ザマス先生の声にかき消されないように話している所為か、大き目の声なので私にまで聞こえてしまっていた。

 私の頭がおかしいのは間違っていないけど、本人のいるところでそういう話をするのはやめてもらいたい。


「話を聞きなさい! 白雪さん」

「はい、ザマス先生」

「だれがザマス先生ですか!」


 しまった、心の中でいつもザマス先生と呼んでいたから口を滑らせた。いけない、いけない。


「それで先生、この話はいつまで続きますか? 私は今日新作のゲームを買いに行く予定なので、あまり暇ではないのですが……」

「誰の所為で私が怒っていると思っているんですか! 意味の分からない事を言わないで、ちゃんと話を聞きなさい!」


 その後、何故か更に怒りをあらわにしたザマス先生に説教される事二時間以上、やっと解放された私は疲れた体で下駄箱に向かった。

 現在時刻は18時22分。本当なら一度家に帰ってからゲームショップに行く予定だったけど、家が遠いので今からでは間に合わない。


 だからといって制服でゲームショップに行くのは不味い。これでも私はお嬢様学校の生徒、そんな人間が放課後にゲームショップへ行っていたとなれば人目につく。

 ゲームを買いに行ったなんて理由でまた説教されたら困る。


「仕方が無い、どうせ予約してるんだし、明日買いに行こう……」


 私がため息をつきながら下駄箱を開くと、中から何かが落ちた。


「ん?」


 私はその落ちたものを拾う。それは、愛らしい封筒に入った、見るからにラブレターだった。


「なっなななっ!?」


 私は今まで、自分から女の子にちょっかいをかける事はあっても、女の子からアプローチされる事はなかった。その為、ラブレターなるものを貰ったのは初めてなのだ。

 私は興奮しながら封筒を開けて、中の便箋を確認する。


『突然のお手紙申し訳ありません。私はいつもあなたの事を想っている者です。

 本来私は、あなたを愛する資格の無い人間ですが、ずっとあなたの事を想い続け、その気持ちを抑えられなくなってしまいました。

 このあふれてくる想いをお伝えしたいので、放課後、第二校舎の屋上に来ていただけないでしょうか。

私はずっと待っています。

    あなたを愛する者より』


 今までの人生、私は自分から愛を囁く事はあっても、誰かから愛を囁かれた事は無かった。

 私は興奮しながらラブレターの内容を何度も読み返し、幸せな時間を満喫するが、ここである事に気が付く。


「放課後……ずっと待ってる……」


 不味い不味い不味い! 現在時刻はもう18時28分。そろそろ最終下校時刻になってしまう。

 可愛い――に決まっている――女の子を待たせてしまうなんて何たる失態。ゲームがどうこう言ってる場合ではない。すぐに向かわないと。


 私は、腰まで届く自分の黒髪を振り回しながら、下駄箱から急いで約束の場所に向かう。

 途中、またもザマス先生に見つかり、怒鳴られるが無視して走った。可愛い女の子というのは何よりも優先されるのだ。

 そして、私は全力疾走で体力を消耗しながらも、何とか屋上に到着し、扉を開け放ちながら叫ぶ。


「お待たせー! あなたの愛する沙耶ちゃんが登場したよー!」


 私が満面の笑みで扉を開け放ち、屋上に踏み出すと、そこには誰もいない空間が広がっていた。

 まさか、帰ってしまったのだろうか……。

 それはそうだ、ずっと待ってるとは言っても、もう最終下校時刻は過ぎているし、屋上はもう、先生が見回りして、残っている生徒を帰してしまったのだろう。


 あれ、でもそうなると、何故この屋上の鍵は開いていたんだろう。私がそんな事を考えていると、後ろから物音が聞こえてきて、誰かが後ろから私に抱き着いてくる。

 この感触は間違いなく美少女のもの。私はそう確信して興奮する。


「ふふっ」


 もしかして恥ずかしくて隠れていたのかな、可愛い。

 私は後ろの美少女の姿を確認しようとしたのだが、ここで違和感に気が付く。なんだか脇腹辺りが熱い。


 ズチャ……


 そんな嫌な音がして、私の背中から、何かが抜かれた感触がする。


「は……? え……?」


 私が何事か理解できずにいると、誰かが私の背中を強く押してくる。

 それにより、私の体は簡単に倒れてしまう。


「ふふ、君は血の色も綺麗だね……。流石はボクが選んだだ」


 うつ伏せで倒れる私の背後から、ボクと言ってはいるけど、信じられないほど可愛らしい声の、気が狂ったセリフが聞こえてくる。

 まさかこれはヤンデレってやつか。いや、デレられた記憶が無いからただの病んだ人か。

 私がくだらない事を考えている間に、背後の人物は私に馬乗りになり、手に持った何かを振り下ろしてくる。


「これで! 君は! ボクのもの! 君の体はボクだけのもの!」

「あっ……! がっ……! いっ……!」


 何度も何度も何度も何かに刺されて、私の体からはどんどん血が流れ出していく。

 この声と背中に伝わる感触から、この子は絶対に可愛いボクっ娘だと思う。だから、普通に告白してくれれば私だって受け入れたし、なんだったら両手両足縛って監禁してくれても良かった。

 それなのにまず最初に殺す事を選ぶとは勿体無いとは思わないのだろうか。私という名の資源をもっと大切にしてほしい。

 そう訴えたかったのだが、生憎もう声も出せなかった。


「ボクは君が大好きなんだよ? 君の引き込まれそうな黒い瞳も、絹糸の様にサラサラな黒髪も、陶器の様にすべすべで染み一つ無い白雪の様に純白なその肌も、細いのに女らしいその体つきも、その全てを愛してるんだ。あぁ、君に出会えてボクは本当に幸せだよ……」

「ぁ……ぁ……」


 そう叫びながら私を滅多刺しにする少女。セリフだけ聞けば本当に可愛いのになぁ。いや、よく考えたら褒められてるのは容姿だけ? まあ、話した事も無い相手の好きな部分なんてそんなものか。

 そう思っているのも束の間、私の意識はそろそろ限界を迎えたらしく、薄らいでいく。

 折角理想の展開になったと思ったのに、あぁ、人生なんともうまくいかないものだ。


「ああ、本当に君は全部綺麗……んあ……ジュリュ、ズルュ……んぐっ……ズズゥ……」


 この音はもしかして、私の血を飲んでいるのだろうか? 流石にひくわ。いや、正直最初からひいてましたけどね。

 そうこうしているうちに、私の意識は消えていき、周囲の音も聞こえなくなる。

 そんな状況になり死の淵に立った私が最後に考えた事、それは――


 誰でもいいから、私の押入れにある秘蔵の美少女コレクションを、中身を確認せずに燃やしておいて……。


 そんな、馬鹿げた事だった。


たまに自分で読み直して細かい間違いなどを修正しています。

内容には影響の無いように直しますので、態々読み直す必要は無いはずです。

それにしても、何度も読み直してから投稿しているはずなのに、もう一度読み直すと色々な部分が気になってしまうから困ります。

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