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第十六話 楽しいお買い物

 漆黒の風とやらが帰った後、私とアリスがよろず屋トロイメライで魔道具を見て回っていると、店員のおじさんが近づいてくる。


「嬢ちゃん達は新人冒険者だよな。だったら魔道具じゃなくて、普通の武器の方がいいと思うぞ」

「えっと……」

「ああ、言ってなかったな。俺は店長のキールだ」

「ああ、はいキールさん」


 店長のキールさんが言うには、冒険者は魔結晶を売ってお金を稼ぐ職業だから、魔結晶を消費する魔道具を使っているとその分稼ぎが少なくなる。特に最初のうちは、稼ぎも少ないから、魔道具の使いすぎで赤字になる場合も多いそうだ。


「ああ、私は実家を出る時に魔結晶を沢山持ち出してきたので、その辺りは問題ないです。その魔結晶は事情があって換金が出来ないんで、取っておいても仕方が無いですし、節約して死んだら馬鹿みたいですからね」

「そうなのか。まぁ、詳しくは聞かねえよ」


 冒険者は訳有りの人間も多いという事で、この手のお店はその辺を詳しく聞いてはいけない規則になっている。だから私も、安心して嘘の設定で誤魔化す事が出来た。

 まあ、やり過ぎるとぼろが出るから、程ほどにしないといけないけどね。


「ああ、あと聞きたいんですけど、魔結晶にどれくらい魔力が残っているか確認する方法ってあるんですか?」

「魔力の残量の確認か。それならこの店でもやってるから、こっちに来い」

「はい」


 私はキールさんに案内され、店の隅にある機械の前に立たされる。

 その機械の見た目は、元の世界で画像だけは見た事がある、乾電池とかの残量を検査する機械を大きくした様なものだった。


「この装置で魔力の残量を計測するのでも魔力は消費されるから、未使用品を使うと冒険者組合での買取が……、どうせ出来ないってんなら関係ないか」

「そうですね」


 冒険者組合での魔結晶の買取は未使用の場合にしか出来ない。まあ、冒険者組合はその魔結晶を他に売るんだから当たり前の事だ。


「あ、因みに一個に付き銅貨一枚な」

「お金取るんだ……、じゃあ、銅貨二枚でこれとこれをお願いします」


 有料となると、ゴブリンの魔結晶とか元々安いものはいちいち確認とか出来ないなと思いつつ、私は沙耶の魔結晶と沙耶の魔結晶(無)、そして銅貨二枚を取り出してキールさんに渡した。


「まいどあり。んっ? 見た事が無い色の魔結晶だな。まあいい、計測するぞ」

「はーい」


 キールさんは魔結晶を機械にセットして、何やら機械を操作する。ただ残量を調べるのにこんな大げさなものが必要なのかと思いつつ、私は結果を待った。

 この結果次第で、私がどれだけ魔道具を無駄遣い出来るかが決まるので少し緊張する。


「はあ!!!」

「えっ」


 そんな私の目の前でキールさんが突然大声を出して驚き、それにより、店の中にいた他の店員や冒険者の目が集まってくる。

 それを見回したキールさんが私の肩を掴んで、周囲に聞こえないよう気を使って話し始める。

 うん、私はそういうの気にしないんだけど、なんかアリスが凄い怖い顔でキールさんを見ている。大丈夫かな……。


「おい、嬢ちゃん……! 何なんだよこの魔結晶は……! こっちは魔力残量がドラゴンの魔結晶の十倍、こっちは十五倍だぞ……! この少ない方の魔結晶一つでも、一般家庭なら一生は使える魔力量だ……!」

「それって凄いの……?」

「ドラゴンの魔結晶が一つ金貨五枚で買取されるんだぞ……! 凄いに決まってんだろ……!」


 周囲の目があるのでキールさんは声を抑えて耳元で話してくれているけど、興奮している所為か抑え切れていなくてちょっとうるさい。まあ、周囲の人には聞こえていない様なので我慢しよう。

 それにしても、私の魔結晶は予想以上に魔力保有量が多いらしい。無詠唱でも思ったより減少量が少ないし、これなら魔結晶は無詠唱で作っても問題ないみたいだ。いちいち詠唱してたら面倒だし、これからは無詠唱で作る事を基本にしよう。


「規則があるから詳しくは聞かないが……、この魔結晶の事は無暗に言い触らすなよ……。ただでさえ嬢ちゃんは綺麗で目立つんだから、こんなもん持ってるなんて知られたら、周囲が敵だらけになるぞ……」

「わかりました……。ありがとうございます……」


 キールさんは更にいくらでも作れる事を知らないけど、それでも十分危険だと思っているのが伝わってくる。うん、元々自分達用にと思っていたけど、間違っていなかったみたいだ。

 計測を終えた魔結晶を返してくれたキールさんは、元の人の良さそうな笑顔に戻って、私に話しかけてくる。


「それで、この魔結晶を大量に持っているなら、嬢ちゃんにお勧めの魔道具があるんだが、見てみるか?」

「買うかは分からないけど見せてもらって良いですか?」

「わかった」


 キールさんに案内されて、私とアリスは人気の全く無い棚にやって来る。そして、キールさんはその棚から一つの魔道具を手に取った。

 それは、剣身の部分が存在しない、柄だけの剣の様な物だった。

 何これ? スイッチを入れるとビームやライトなサーベルになるのかな?


「こいつは魔道具の剣だ。こうして魔結晶をはめて操作するかブレードオンと唱えると……」

「おお!」

「へぇ……」


 キールさんが操作するとそこには剣身が形成されて、刃渡り70cmほどの普通の剣になった魔道具があった。

 仕組み的には私の『魔力具現化(リアライズ)』と同じ物だと思うけど、誰でも使えるというのが良い。これならアリスにも使ってもらえる。

 アリスも私と同じ事を考えているのか、興味深そうにそれを見ている。


「この魔道具はそこそこ切れ味があるし、魔力で剣身を作るから手入れも必要なくて、折れてもすぐ元に戻せる優れものだ。ただ、魔力の消費が激しくて、嬢ちゃんの魔結晶でも一日維持するのがやっとだな」

「一個で一日維持できるなら十分じゃない?」

「一般家庭が一生で使う分の魔力を一日で消費するんだぞ?」

「そう言われると……消費が激しいかも……」

「言われなくてもわかりましょうよ、お姉さま」


 最近、アリスが私に厳しい気がする。

 まあ、それは置いておいて、この魔道具は魔結晶が無限に使えることを前提にすれば十分価値のあるものに思える。


「更に、この魔道具には切れ味を強化する強化付与(エンチャント)と呼ばれる機能があって、一瞬だけだが攻撃力を底上げできる。ただ、最大出力で使うと、嬢ちゃんの魔結晶でも一分しか持たないだろうな」

「うわぁ」

「馬鹿げてますね」


 アリスの言うとおりだ。そんな勢いで魔力を消費したら、オークの魔結晶だとレイコンマ一秒すら持たないだろう。しかも、それで得られる効果が範囲攻撃とかじゃなくて切れ味の強化では需要があるとは思えない。


「そう、嬢ちゃん達の言うとおりこいつは馬鹿みたいな魔道具さ。こいつを作った魔道具技師はこういう物にロマンを感じるとか言ってこんな物ばっかり作ってるんだが、普通の冒険者はそんな物求めていなくて売れ残ってるんだ。嬢ちゃん達がこんな物でも使えるくらい余裕があるって言うなら安くしとくぜ」

「なるほど……」


 つまりは買い手のいない魔道具をこの機会に処分しようとしている訳か。なかなか商売上手だ。まあでも、私にとっては使える魔道具だし、買っても良いかも。


「そうですね、おいくらですか?」

「本来なら金貨二枚といった所だが、特別価格で銀貨十枚だ! お買い得だろ!」

「うーん?」

「そうですかね」


 私はこの世界の物の価値が分からないし、アリスも教会に篭っていたのだから、それほど適正価格に詳しいとは思えない。それでも、少なくとも元の価格はありえないと分かる。

 他の物の金額が気になって周囲を見回すと、普通の剣が銀貨三枚で売られているのを発見する。それなら、この特別な魔道具は銀貨十枚で安いのではないかと思えてくる。


「アリスはどう思う? 値段は置いておいて使えそう?」

「えっと。お姉さまが先ほどの魔結晶を常に私に下さるのでしたら、問題無く使えると思います」


 ああ、そういえばアリスに魔結晶を自作出来る事を話してなかった。まあ、その事は後で説明するとして、アリスは魔結晶の問題さえ解決できれば大丈夫みたいだ。なら、買ってもいいだろう。


「それじゃあ、買います」

「まいどあり。本来の新人冒険者なら銀貨十枚も払えないと言うところだが、やっぱり嬢ちゃんは只者じゃないみたいだな」

「そういうのは……」

「すまんすまん、言わない約束だったな」


 どうやらさり気なく試されていたらしい。まあ、この人は信用できるっぽいし、今後の事も考えたら仲良くなって損は無いから、ある程度の情報は教えてもいいだろう。

 私はそう思ったけど、アリスは少し不満そうだった。


「ほい、こいつはこの魔道具の説明書とサービス品だ」

「ありがとうございます」


 キールさんが渡してきたのは、操作法が書かれた紙と、剣を持ち運ぶ為のホルダーだ。

 ホルダーの形はなんと言うか、腰に付ける拳銃のホルスターみたいだった。この魔道具には剣身の部分が無いから、本来の鞘みたいなものは必要ないのだろう。だから、持ち運びやすく簡単に取り出せる様に設計されているみたいだ。


「はい、いい感じですね」

「アリス……かっこよくて可愛い……、ハァハァ」

「嬢ちゃん達は仲がいいな……」


 私は、エプロンドレスの上からホルスターを装備して、アンバランスな魅力を放つアリスが、剣を抜いたり戻したりしているのを眺めて悦に浸りながらも、残りの買い物を続けた。

 最終的に買った物は下記の通りだ。


■魔道具の剣、アリス用

■魔法の盾が出せる魔道具の腕輪、アリス用

■鉄板入りのブーツ、アリス用

■魔結晶を入れる為のポーチ、アリス用

■回復の魔法薬、アリス用

■ペンダント型明かりの魔道具、自分用


 うん、殆どアリスの物しか買っていない。

 まあ、私には魔法があるからそもそも何もいらないんだけど、なんだかアリスにだけ戦わせる気みたいに見られそうだ。


「嬢ちゃん……こんな小さい子にだけ戦わせる気なのか……」


 実際そう思われていた。

 私は自分が魔法を使える事を説明し、キールさんの誤解を解いた。キールさんはかなり驚いていたけど、納得してくれた様で私はほっとした。ただ、アリスにはそうやって自分の手の内をさらけ出すのはやめた方がいいと言われてしまった。


「まあ、買う物はこれでいいよね。お会計お願いします」

「あいよ。全部で銀貨五十枚と銅貨三十枚だ」

「はい、これでお願いします」

「あの……お姉さま……」


 私は思ったより安く済んだと思ったけど、アリスにはこいつ金遣い荒いな見たいな目で見られてしまった。

 よく考えてみると、この買い物だけでオーク約四十二匹分の魔結晶を売った金額が無くなっているのだから確かに使いすぎかもしれない。でも、装備はしっかりとした物を揃えないと後々後悔する事になるから仕方が無いのだ。

 いや、ごめんなさい嘘です。お買い物が楽しくなって買い過ぎました。正直自分でもどうかなと思います。許してください。


「色々とありがとうございました」

「こちらこそどうも。今後ともうちをよろしくな!」

「はい」

「失礼致しました」


 私とアリスはキールさんに別れを告げて冒険者組合に向かった。目的はもちろんお金を稼ぐ事だ。

 この買い物と宿泊施設の利用料で、私のお金はあと三日宿泊施設を利用できる程度しか残っていない。このままではすぐにお金がなくなってしまう。


「調子に乗って買いすぎるからですよ」

「ごめんなさい……」


 今後こんな生活を続けられるかは、今日の収入にかかっている。

 私は異世界でこの生活水準を保ち、快適に生き抜くため、突き動かされるように魔物との戦いを求めたのだった。

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