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第十四話 冒険者サヤ・スノーホワイト誕生

 ノイシュタット冒険者組合にやって来た私とアリスは、色々とあったけどやっと冒険者としての登録作業を開始する事が出来た。

 まあ、冒険者組合に来た新人が絡まれるなんていうのは、一種のお約束だし、大した騒ぎにならなかったので気にしなくてもいいだろう。


「マルグリットさん。色々とありがとうございました」

「いや、感謝はしっかりと働いて返してくれればいい」

「はい、がんばります」

「その意気だ」


 私は騒ぎを収めてくれた金髪で綺麗な女騎士、マルグリットさんに別れを告げる。

 ああ、マルグリットさんは本当に綺麗で、それでいてとても強い。出来れば仲間になってもらいたいけど、ゲームなんかと違って、騎士が突然一般人の仲間になるなんてありえないから諦めよう。

 まあ、私にはアリスがいるし、アリスがこのまま順調に成長すればマルグリットさんみたいに綺麗で強くなってくれそうだからそれに期待しよう。


「お姉さま、女の子を比べて眺めるのは失礼ですよ」

「なっ、何の事かな」


 もしかして、アリスは私の心の中を読めるのかな?


「あの、サヤ様。そろそろよろしいですか?」

「ああ、ごめんね」


 私に語りかけてきたのは、この冒険者組合で受付嬢をしているアメリアだ。

 アメリアは元の世界では染めない限り存在しない、青い髪をした可愛い女の子だ。

 国の施設で働いているのだから、たぶんこの人は年上だと思うのだけど、かなりの童顔で年下にしか見えない。

 その所為か、自然と砕けた話し方をしてしまう。


「それではこれより我が冒険者組合への登録作業を始めさせて頂きます。まず、登録されるのはサヤ様とアリス様でお間違いないですか?」

「間違いないよ」

「はい」


 私はアメリアに促されるまま、衛兵に作ってもらった仮身分証を差し出し、アリスも自分の身分証を差し出す。


「はい、ありが……、あれ? サヤ様のお名前がシラユキになっていますが、スノーホワイトではないのですか?」

「あっ……」


 ついついマルグリットさんのカッコイイファミリーネームに釣られて、白雪と書いてスノーホワイトと読むという中二的名乗りをしてしまったけど、衛兵にはシラユキと伝えていたので仮身分証はそのままだった。どうしよう。


「実はシラユキって言うのが本当の呼び方なんだけど、この辺りだとあまり馴染みの無い発音みたいだから、同じ意味を持つスノーホワイトっていう名乗り方を普段してるんだ。でも、やっぱり本名の方がいいのかな?」

「ああ、そういう事ですか。そうですね、一度登録すると変更の手続きが面倒なのでお勧めはしておりませんが、偽名での登録も可能ではあります。なので、サヤ様が今後スノーホワイトを名乗り続けるのでしたスノーホワイトで登録させて頂きます」


 何でも冒険者になるような人は過去と決別する為、今までの名前を捨てる場合も多いのだそうだ。

 冒険者組合ではそういった人相手でも、しっかりと仕事をこなす限りは身分を証明してくれるので、その程度は問題にはならないらしい。

 うん、そうなると私のスノーホワイトなんて可愛いもんだね。たぶん。


「それじゃあ、サヤ・スノーホワイトでお願い。アリスはどうする?」

「私の場合は教会での取り決めがあるので変えられませんから、そのままで大丈夫です」

「そうなんだ」


 うん、あの教会の孤児は保護されている代わりに色々と面倒みたいだ。

 まあ、その辺りはよそ者の私にはどうしようもないので、アリスが助けでも求めない限りは口出しはするつもりは無い。余計なお世話とか思われたくないしね。


「では、次にお二人のクラスを教えて頂けますか。こちらについては今後一言告げていただければ変更できますので、仮のものでも構いません。ただ、事実無根のものを登録すると信用問題に関わりますし、最悪の場合冒険者資格を剥奪されます」

「クラスねぇ」


 クラスというのはつまり、戦士とか魔法使いとかそういうものらしい。

 冒険者は、職業自体は冒険者だけど、得意な分野がそれぞれ違うからこうやって区別して、依頼の際に考慮したりするそうだ。

 うーん、私は魔法で戦うけど、どちらかと言うと接近戦が得意だし、普通に魔法使いだと誤解されるかもしれない。そうなると、うん。


「魔法戦士っていうのは大丈夫かな?」

「えっ、魔法戦士ですか!? えっと、魔法戦士での登録自体は問題ありませんが、サヤ様は魔法がお使いになれるのですか?」

「ええ、まあ」


 何をそんなに驚かれるのかと思ったら、この世界では魔法使いは希少で、尚且つ普通は魔法が使える人は代わりに身体能力が低いのだと教えてくれた。

 ああそうか、アメリアはあれを握りつぶした握力が自前のものだと思っていたのか。


「私は一定時間肉体を強化する魔法も使えるんだよ。さっきのはそれを使っただけ」

「そうなんですか。お若いのに凄いですね」


 取り敢えずアメリアはそれで納得してくれたようで、私のクラスは魔法戦士に決定した。

 因みにアリスのクラスは戦士だった。

 剣士ではないのかと聞いてみると、アリスは剣だけに縛られないもっと自由な戦い方を学びたいので戦士でいいと答えてくれた。

 うん、そうだね。アリスがそう言うなら、これからは色々と挑戦させてみよう。

 それから他にも色々と質問されたのだけど、特に難しい質問は無くて、登録は問題なく完了する。

 ただ、途中好きな食べ物とか趣味とかスリーサイズとかを聞かれたのだけど、それって冒険者の職業に何か関係があるのかな?


「以上で冒険者としての登録が完了しました。これがお二人の身分証になります」

「ありがと」

「ありがとうございます」


 受け取った身分証は黒い金属の板で、そこに私の名前やクラス、そして冒険者ランクFという文字が書かれている。

 そういえば気にしていなかったけど、私はこの世界の文字が日本語に見えている。これもきっとご都合主義の舞台装置(デウスエクスマキナ)の効果なのだろう。本当に便利で役立つ能力だ。


「お二人は登録されたばかりですので、冒険者ランクがFとなっています。これは冒険者の実力を表すもので、魔結晶の買取額が一定以上になるか、依頼を一定以上こなすとランクアップとなります」

「魔結晶の買取だけでもランクが上がるんだね」

「はい、というよりも、最初は魔結晶の買取額でランクが上がる事の方が多いです。依頼というのは人間関係が関わってくるので、一部素行の悪い人間は受ける事もできませんから。ただ、魔結晶の買取額でのランクアップはかなり効率が悪いので、まともな稼ぎ方ではDランクまでが良い所ですね」

「ふーん」


 一部素行の悪い冒険者ってどこにでもいるんだね。まあ、早速一人減ったみたいだけど。


「ランクについてはそこまで気にされなくてもよろしいですが、上位のランクになると国からの様々な援助が受けられます。ただ、その分国からの依頼をほぼ強制的に受ける事になりますし、活動場所を指定されたりと面倒な事もございます。ですので大体の方は、ランクアップの条件を満たしていてもCランクに留まっています」

「ふーん、じゃあこれからもアメリアと一緒に仲良くしていきたいと思ったら、Cランクで止めておくべきなのかな?」

「なっ、何を言っているんですか!」

「いや、こんな可愛い子が受付にいる冒険者組合なら毎日通っても良いと思ってね」

「私なんてサヤ様に比べれば道端の石ころですよ……」


 アメリアはそう言って俯く。

 うーん、アメリアは私の美的感覚ではとんでもなく可愛い女の子なのだけど、私の感覚とこの世界の基準が違うのだろうか?

 まあ、元の世界でも個人的趣味や人種や時代によって綺麗や可愛いの基準は変わるし、その可能性も高い。

 何とかアメリアを元気にしたいと思った私は、アメリアの手を握り、その手を私の胸に押し当てる。


「そんな事無いよ。アメリアは可愛い女の子だよ。ほら、貴方の事を見つめているだけで、私の心臓はこんなに激しく動いているもの」

「あっ……、ああ……サヤ様……」


 それだけでアメリアは顔を真っ赤にして喜びの表情を見せる。

 うん、可愛い女の子がうれしそうにしているのを見ると、こっちまで幸せになるね。

 正直言って私の行動は、自分が可愛い事を前提にしているものだけど、今の私には何かしらの補正があるから問題ない。

 もし、これを素の状態で出来る人間がいたら、そいつは間違いなくナルシストだと思うね。

 まあ、今の私を他人が見たら、そうにしか見えないだろうけど。


「お姉さま、そろそろ魔結晶の買取をしたらどうですか?」

「ああ、ごめんごめんアリス」

「あっ……。いえ、そうですね買取を致しましょうか」


 アメリアの手が名残惜しそうしながら下げられる。

 それにあわせる様に、アリスは布袋に入った魔結晶をアメリアに渡した。

 因みに、買い取ってもらう分の魔結晶は予め異空間収納(アイテムストレージ)から出して、教会で快く譲って貰った布袋にしまって持ってきていた。

 目の前で異空間収納(アイテムストレージ)から取り出すと不振に思われるかもしれないからそうしているのだけど、そろそろ何かいい隠蔽方法を考えるべきかもしれない。


「ええと、お持ちになったのはゴブリンの魔結晶が四十二個分とオークの魔結晶が八十二個分! 先程のと合わせて、オークの魔結晶が百以上って、これをお二人で倒したんですか!」

「いや、ゴブリンは二人でだけど、オークは私一人で倒したよ。いやぁ、百匹以上倒すのは大変だったよ」

「えっと……つまり、一人で、しかも一度に倒したんですか……? いや、もうなんと言うかサヤ様は既にCランクの冒険者くらいの実力はありますよ」

「お世辞でもうれしいよ」

「いや、低く見積もっての話ですよ」


 私のイメージでは、冒険者組合では定期的に魔物の大量発生イベントなんかがあって、大量の魔物と一度に戦うなんて事が定期的にあるという感覚だったけど、そんな事は無いみたいで、一度に百の魔物と対峙するという状況が滅多に無いらしい。

 だからCランクの冒険者でも、そんな状況で戦った事のある人間は殆どいなくて、実際にそんな状況で戦えるかは保障できないそうだ。

 そうなると、この世界で私は結構上位の実力がある事になるのかな?

 流石は神様に選ばれし者だね。


「まあ、Sランクの冒険者程になると、オーク百匹程度なら一回の攻撃で皆殺しに出来るくらいの実力がありますから、あまりご自身の力を過信しないでくださいね」

「う……うん……」


 やだ、この世界の人間チート過ぎ。

 まあ、別に私はこの世界で最強になりたい訳じゃないから問題ないけど、もしもそういう人間に絡まれた時の為に注意しておかないと。


「まあ、そこまで身構える必要はありません。SランクやAランクの冒険者は規則に縛られて、王都や重要な拠点となる都市から滅多に離れられませんから、比較的平和なこの辺りに来る事はまずありません。ここでならサヤ様がナンバー1冒険者になる事も夢ではありませんよ!」

「ああうん、ありがとう」


 そう言ってもらえるのはうれしいんだけど、今の発言で一部の冒険者が私を睨んできているのでやめてほしい。彼らだっていきなり現れた新人が、自分達よりも持て囃されているのを見たら、いい気分はしないだろう。それくらいは私にだって分かる。


「早くお金を払ってくださいませんか?」


 私達の無駄話が長い所為か、アリスが不機嫌そうに受付の机をペシペシと叩きながら、冷たい目でアメリアを睨んでいた。


「もっ、申し訳ありません!」

「アリス、そんなに怒らないで」

「怒ってませんよ? これ以上は他の方の迷惑になるので早く出て行った方が良いと思っただけです」


 何だろう。アリスとはまだ短い付き合いだけど、その中でアリスの性格がどんどん変化しているように感じる。

 なんと言うか、相手との距離感が分からないけど、このくらいなら大丈夫かなと少しずつ近づいてくるような、そんな感じがする。

 まあ、近づいて来てくれるのはうれしいのだけど、だんだんと私への扱いも雑になっているような気がするのは気のせいだろうか?


「それでは、買取金額がゴブリンの魔結晶が一つにつき銅貨二枚で、オークの魔結晶が一つにつき銀貨一枚と銅貨二十枚となりまして、合計が銀貨九十九枚と銅貨二十四枚となります。よろしいでしょうか?」

「うん、お願い」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 少し待っていると、アメリアが沢山の硬貨を持って戻ってくる。

 この世界に金貨があるのかは分からないけど、銀貨が九十九枚で金貨が出てこないところを見ると、あったとしても銀貨百枚で金貨が一枚なのだと思う。

 まあ、異世界じゃ気軽に両替できないだろうから、金貨一枚で貰っても困るけどね。


「ご確認ください」

「はいはい」


 まあ、確認しろっていうのは大体機械的に言っている台詞なので、私は受け取ったお金を確認せず魔結晶を入れていた布袋に放り込んだ。


「それじゃあ、今日はこれだけにして明日また来るね。この後宿を探さないといけないから」

「はい、明日もお待ちしていますから、こちらにいらしたら是非私を指名してください! 他の仕事を放り出してでもご対応しますから!」

「いや、放り出しちゃ駄目でしょ……」


 私はそんな冗談を聞き流しつつ、冒険者組合を後にした。

 その後は街中を歩きつつ、必要そうな物を物色しながら、金額なんかは気にしないから良い宿はないかと聞いて回って、ノイシュタットでも有名なお高めの宿泊施設にたどり着く。

 一泊食事抜きでも一人につき銀貨五枚――ああ、そういえば街中で物価を調べたら銅貨一枚が百円くらいの価値だったので、銀貨は五枚で五万円の価値になる――という高額設定だったけど、甘やかされた現代っ子である私には異世界の安宿は耐えられそうに無かったので奮発した。

 アリスには無駄遣いと言われたけど、安眠と寝ている間の安全確保のためには仕方が無い事なので、これは必要な出費だと自分に言い聞かせた。


「えっ? でもお姉さまって、眠らなくてもいい体質なんじゃありませんでしたっけ?」

「あっ……」


 その後、ふかふかベッドで結局一睡も出来なかった私は、やっぱり寝る必要が無いんだという事を喜んでいいのかどうか色々と考えさせられる事となった。

ここまで見てくださっている皆様本当にありがとうございます。

よろしければ、ご意見ご感想等々頂けるとうれしいです。

それでは、また次回もよろしくお願い致します。

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