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第十二話 城塞都市ノイシュタット

「本当に眠らなくて大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫、そういう体質だから」

「はあ……」


 自分で言っててどういう体質だよとつっこみたくなるけど、他に説明しようがないので仕方が無い。

 私はアリスに眠らなくても大丈夫な事を伝えて、街への旅路を再開していた。

 本当は秘密にしようかとも思ったけど、これから一緒に生活していったら絶対に隠し切れないので、早めに告白する事にしたのだ。

 まあ、どうせアリスにはすでにおかしな人だと思われてるだろうし、これ以上おかしな事が増えても評価は変わらないだろう。……たぶん。


 ああ、あと、アリスには朝出発する前にちゃんと服を着替えさせた。

 そんなに目立たなかったけど、ゴブリンの血とか付いていたし、女の子には綺麗でいてもらいたいからね。

 アリスの着替え中、私は突然のゴブリンの乱入にも即対応できるようしっかりと警戒していた。うん、アリスの肌はとても白くてきめ細かで綺麗で最高だった。それが脳裏に焼きつくくらいしっかりと警戒してたよ私は。

 因みに私自身は『自己修復魔法(リジェネレイト)』を使えば、衣服の汚れも全て消えて元通りになってしまうので特に着替える必要はない。まあ、そもそも着替えが無いけどね。


「そろそろ人が増えてきたね」

「そうですね。もうすぐ着きますよ」


 移動を再開してから二時間くらい経つと、馬車に乗った人や冒険者風の格好をした人達とすれ違う事が増えてくる。

 アリスの話だと、今歩いている街道は、複数の街道が合流した場所になっていて、人も多く安全地帯という事だ。

 そう聞いてふと周囲を見回すと、畑で農作業をしている人や、牛っぽい家畜を育てている人もちらほら見えてくる。

 そして、時たま騎士の格好をした人や、軽装ではあるけど周囲を見張っている人なんかとも出くわす。

 こういった異世界物だと、街の外にある農村は魔物に荒され放題とかもあったりするけど、この辺りでは国がちゃんと保護してくれるみたいだ。優しい世界だね。

 でも、気になる事がある。

 すれ違う商人や騎士や農民や警備の人、とにかく全ての人が私の顔をジロジロと見てくるのだ。

 最初は黒髪の人が珍しいのかとも考えたけど、すれ違う人の中には黒髪の人もいたのでそういう事ではないと思う。うむ、心当たりが思い浮かばない。


「そういえば一つ気になっていた事があるんです」

「なに?」


 私が周囲を気にしながら歩いていると、アリスが私の手を引きながら尋ねてくる。


「私、お姉さまと最初に会った時から、お姉さまの事を綺麗な人だと思っていたんですけど、オークとの戦いが終わってから、もう一度お姉さまを見た時、最初の時とは比べ物にならないくらいお姉さまが綺麗に見えて、別人だと思ってしまったんです。あれは何かしたんですか?」

「んっ? どういうこと?」


 アリスが言うには、オークとの戦いの前と後では私の雰囲気が変わっているように感じて、あと無意識に引き寄せられるような魅力が増しているそうだ。

 容姿について褒められるのはうれしいけど、オークとの戦いの前後というのが引っかかる。思い当たる事といえば……。


「レベルアップ的なあれかな……」

「はい?」

「うんうん、なんでもない。たぶん気のせいだと思うよ」

「そうですか」


 そう、オークとの戦闘中に何度か感じた、自分の中にある魔力が増幅していく感覚。まるでゲームのレベルアップみたいに突然強くなるあの現象が関係しているのかもしれない。

 ステータスが見れないから分からないけど、もしかすると魔力が上昇する度、私の魔力以外の能力も上昇していて、その中に魅力値とかいう項目があって、周囲の人が私を無意識に魅力的だと思うようになっているのかもしれない。

 そうだとすれば、アリスの発言にも説明がつくし、周囲が私を見るのはその効果で注目を集めるようになっているからという可能性もある。

 正直言ってあまり目立つのは嫌なんだけど――。いや、正確には男の人に注目されたくないんだけど、可愛い女の子達から魅力的だと思われて好かれるのは良いかもしれない。

 取り合えず、そういう可能性もあると考えて行動しよう。

 下手をすると、男の欲望を過剰に刺激して襲われるなんて事もあるかもしれないし、変に男心を刺激するような事は避けないと。


 そう考えはするけど、私は母親に普段から女の子として自覚を持って、自然に女の子らしい態度を取れるようにしろと口うるさく言われていたので、自然と自分が思い描く可愛い女の子の仕草を真似しようとする事がある。

 今も私は、可愛いと思った女の子のポーズを無意識に真似て、顎に手を添えて、胸を抱き寄せる様にしながら考えるポーズをとっているんだけど、このポーズもあまり良くないのかもしれない。

 今もすれ違った人の目線が、寄せ上げられた私の胸に集中していたし、鼻の下が伸びていたように感じた。

 ただ、私は今まで男にどう思われているのかを意識した事が無かったので、正直今のも気のせいという可能性がある。


「ねえ、今の人私の胸を見て鼻の下伸ばしてなかった?」

「そうですね。お姉さまの事をいやらしい目で見ていました」


 だから私はアリスに確認を取ってみたんだけど、やっぱりあの人は私をいやらしい目で見ていたらしい。でも、なんと言うかその事よりも、アリスがはっきりといやらしい目という言葉で指摘した事にお姉さんは驚いちゃったかな。

 アリスはこの愛らしい見た目だし、もしかすると教会に泊まった若い男からそういう目で見られた事があるのかもしれない。

 それで、その事を誰かに相談してこんな言葉を覚えてしまったのかも。

 大変だ、これからはそんな言葉言わないで済むように私が守ってあげないと。


「まるでお姉さまが私の着替えを見ていた時の様な目でしたよ」

「おっ、おう……」


 私は何も言えなくなった。


    ◆◆◆


「見えてきました。あれが城塞都市ノイシュタットです」

「うわぁ、城壁で囲まれた都市って心をくすぐられるね」


 城塞都市ノイシュタット、それは一つの要塞のような都市だった。

 都市の周囲は10メートルはあるであろう壁で囲われていて、その形は直径数キロはありそうな円形で、沢山の建物が乱立している。

 そして、城壁の外にも木組みの家と農地のような場所が広がっていて、多くの人々が行き来している。


「ノイシュタットは元々新しい街を意味した言葉で、この城塞都市が造られ始めた時、仮の名前で付けられていたものだったそうです。しかし、完成までの時間があまりにも長かったので、そのまま呼び名として定着してしまい、そのまま都市の名前になったそうですね」

「そんな理由があるんだね」


 私は周囲の様子を眺めながらアリスの説明を聞いて、いちいち見るものに感動していた。その姿は初めて都会にやって来た田舎者そのものだと思う。

 そんな私を見て、農地のおじいさんやおばあさんなんかは暖かい視線を送ってくれるけど、若い人からは相変わらず舐め回すような視線を浴びせられていた。

 まあ、流石にここに来るまでで慣れたので受け流しているけど、これがずっと続くとなると嫌になりそう。


「お姉さま、今からそれじゃあ都会では暮らせませんよ」

「はーい」


 アリスには色々と見透かされているみたいで頭が上がらない。というか、アリスってこんな感じだったかな?

 いつの間にか私とアリスの関係は、どうしようもない姉とそれを支えるしっかり者の妹という感じになっているような気がする。

 まあ、それも悪くない。


「次の方どうぞ」

「あっ、順番が来ましたよ。お姉さま」

「はいはい」


 話している間に城門まで到着した私達は、衛兵に呼ばれて入国審査的なものを受ける事になった。


「えっと、あなたはエレノア教会の方ですね。何の御用でこちらまで?」

「この度私はこの方の付き人として雇われる事となりまして、ご案内のためにやってまいりました」

「そちらのお嬢……さん……は……」


 私よりも先に衛兵と話し始めたアリスは、何かの金属の板を衛兵に手渡して、慣れた様子で説明を始める。

 正直私はアリスを付き人として雇ったつもりはないのだけど、孤児がいきなり誰かに引き取られるというのは面倒な説明が必要なので、手っ取り早く済む言い訳としてそういう事にするとあらかじめ説明されていた。

 それにしてもアリスはこういうところでしっかりしていて頼りになる。

 私はアリスに最初の説明を任せつつ、自分も前に出る。


「お仕事お疲れ様です衛兵さん。私は沙耶と申します。あの……実は私、こういった大きな街に来るのは初めてで、どのようにしたらいいのかわからないので、優しく教えてくださいますか?」

「はっ……! はい! 優しく教えさせて頂きます!」


 私の全力愛想笑いと、上目遣いと、首を傾げる仕草のコンボで、衛兵の顔は真っ赤に染まる。

 うん、私が可愛い子にこうやってお願いされたらなんでも教えちゃうと思い描く仕草を真似してみたんだけど、なかなかの威力が発揮できたらしい。

 これは、やっぱり私の魅力値がレベルアップで上昇してるって事だろうな。元々の私の容姿だけじゃ、ここまで慌てさせるのなんて無理だろうしね。たぶん。


「ええと、まずサヤさんは身分証をお持ちですか?」

「ごめんなさい。そういったものは持っていないです……」


 私が落ち込んだ仕草をすると、衛兵は慌てたように手を振って話しかけてくる。


「気にしないでください! 身分証は大きな都市の住人や、国が管理する施設で暮らしている人には一般的ですが、まだまだ全ての人間には行き渡っていませんからそういった事もございます。ここではそういった方の為に仮身分証、または一時入国証明書を発行しておりますから、どちらかの手続きをして頂ければ大丈夫です」

「それはどのように違うんですか」


 なんだか媚を売るのにも慣れてきた私は、顎に手を添えて、首を傾げて、左腕で胸を押し上げて聞いてみる。

 すると、衛兵が目に見えて焦りだし、私の胸をがんばって見ないようにしつつ、でもチラチラ見てしまいながら説明を続けてくる。

 うわ、客観的に見たら私、相手に媚を売る腹黒クソ女だ。

 なんだか楽しくなってきたから続けているけど、これはあまりやらない方がいいかもしれない。


「はっ! はい! まず一時入国証明書は、商人や旅行にいらした方用のもので、銀貨一枚で発行可能です。こちらは何事も無く一週間以内に滞在を終えて、こちらで処理して頂ければ銀貨はお返し出来ます」

「へぇ、そういう風になっているんですね」


 そう言って出されたのは、赤色の金属の板のようなものだった。

 その板には何も書かれていないけど、アリスの持っていた板にはアリスの名前などが書かれていたので、たぶん発行されると印刷されるんだと思う。

 私が興味深そうに板を眺めていると、衛兵が生唾を飲む音が聞こえてくる。

 いったいどの辺が衛兵の心を刺激したのかはわからないけど、だんだん自分の見た目で相手が喜んでくれるというのも悪くないと思えてきた。


「つっ! 次にお教えするのは、仮身分証です! こちらは一時入国証明書と違いお金は必要ありませんが、渡されてから一週間以内に国の公共施設で市民として登録して頂き、正式に身分証を発行して頂き、返却して頂く必要があります。こちらに関しては性質上、そのままこの都市で暮らす予定のある方にのみ発行している物です」

「なるほど、このままあなたと同じ場所で暮らしたいと思ったらこっちにしないといけないのね」

「ごっ! ご冗談はお止めください!」

「あらら、残念」


 私は微笑みながら、衛兵が差し出してきた青色の金属板の仮身分証を、衛兵の手ごと優しく握る。


「それじゃあ、この仮身分証でお願いします」

「かっ! かしこまりました! すぐ発行しますのでいくつかの質問に答えて頂きますようにお願い致します!」

「はい、よろしくお願いします」


 そうして私は名前などの質問に答え、仮身分証を発行してもらい、城塞都市ノイシュタットに入る事が出来た。

 異世界に突然召喚されたりすると、個人の証明なんて出来る訳が無いし、どうしようかとも思ったんだけど、思っていたよりも楽に入れてよかった。この調子なら、正式な身分証の発行も問題なさそうだ。


「あの、お姉さま、あれは流石にやり過ぎだと思いますよ」

「ん? そうかな。相手も喜んでたし問題ないでしょ」

「そうですか?」


 アリスは私の衛兵に対する態度が気になったらしい。ヤキモチかな? 可愛い。

 私がアリスのご機嫌を取り戻すため、優しく頭を撫でてあげると、アリスは私に体を寄せてくる。可愛い。


「それにしても本当によかった」


 私はそれだけを呟きながら、城門で出会った衛兵の事を思い出す。

 私の勝手なイメージで、ああいう所の衛兵と言えば体の大きい男の人が出てくるものだと決め付けていたけど、実際に私を担当してくれたあの衛兵が、長身でとても綺麗な赤毛の女の人で本当によかった。

 手とか少し硬かったけど、女の子特有の柔らかさは残っていて、新鮮な触り心地がキュートで魅力的だった。

 そして、あのやり取りで私の魅力が女の子にも有効だというのがわかったのが嬉しい。これなら今後の生活も楽しいものになりそうだ。


「幸先もいいし、これからの生活にも期待できそう」


 私のその呟きを聞いて、アリスが呆れたという感情を込めた目線を送ってくるけど、その目は私喜ばせる効果の方が大きかった。

 そんなこんなで、私は気分よく、城塞都市ノイシュタットの中を歩いていったのだった。


身分証の名称は結構迷ったんですけど、好きな作家さんの物を参考にしてこちらに決めました。

細かい物の名称を決めるのって大変ですね。

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