第8話 襲撃
遺跡が見えなくなり、追手が来ていないことを確認してラグルは走る速度を緩めた。しかし立ち止まることはしない。
走り続けてクーシャリウス方面を目指す。作戦を立てなおさねばならないしソフィアに新しい身体を用意しなければならないのだ。
「……そろそろいいかしら?」
「あ? なんだ?」
だいぶ遺跡から遠ざかったところでルビエが口を開いた。実に良い笑顔である。何やら背後に竜のような影が見えるが随分とご立腹なのだろう。
しかし、周囲を警戒し走っているラグルは気が付かない。そもそも荷物を抱えるように肩に乗せている状態であるため、ルビエの顔はラグルの背側に来ている。見えるわけがない。
「随分な言いぐさね。この私を投げたことに対しての謝罪はないのかしら?」
「すまんって、言っただろ?」
「それで済むと思っているのなら、その認識は改めるべきよ」
乙女を投げたのだ。それ相応の対応をしなければならない。それが自然の摂理であるとでも言わん口調でルビエは言った。
「あーあー、それは悪うござんした」
だが、現状そんなことを考える暇などない。謝罪や礼はまた後で。今は、これからどうするかを考えねばならない。
「で、首だけになったお嬢様も何かあるか?」
「……では、こちらも荷物のように髪を持ってぶら下げられている現状の打開を要求します」
首だけになったソフィアが眼を開く。流石サイボーグ元気そうである。ただその要求は呑めない。
「却下だ。俺の腕は二本。正直、ベルトに括りつけてないだけ文句を言わないでもらえると嬉しいね」
「そうなっていればエデンから衛星砲で全て撃滅してもらっています。それで宝珠は?」
「奪われた。てか、あんたが持ってただろ。わかってることは聞かないでくれ」
「あなたが取り返すかもしれませんから」
「過大評価どうも。結果はご覧のとおり」
持ってませんよ、とラグル。
「では、取り返しましょう。あれを持ち替えるのが私の使命です」
それを聞いたソフィアは即座にそう返す。
「身体はどうすんだ」
今の状態では単なる喋る首だ。エデン住人が入っている特別製であるため魔力炉が頭部にあるため活動に問題がないだけであって役には立たない。
こんな状況ではどうやたってあの二人から宝珠を取り戻すことなどできないだろう。なにせ、敵の戦力は未だ未知数。それに比べてこちらには戦えない首と戦えない少女に戦えるラグルただ一人。
どうやったって無理だろう。ラグルが今すぐ戻って態勢を整えてからやるべきだと主張するもソフィアはそれを却下する。
「駄目です。私はアークでもあればその中に入りますので問題ありません」
大型機械などに組み込まれている個別の制御サイバースペースの中に入ればいい。身体を今から用意していては時間がかかりすぎる。あの二人が何者かわからない以上取り返すのは急いだ方が良い。
そうソフィアは主張する。
「アークねえ」
ギア・アーク。単にアークと呼ばれる全長約10~14メートルになる有人人型機動兵器。かつてはサイボーグ技術が今のように発達したものでなかった頃から存在する巨大兵器だ。
高い汎用性が売りであり、大型魔力炉によってバカスカ極大魔法が撃てて、様々な武装が使えるという万能兵器という触れ込みで一時期は一世を風靡した兵器でもある。
今ではサイボーグ技術の発達と共に廃れてしまった、いや正確に言うとつかわれなくなってきている浪漫兵器だ。何せ軍用サイボーグや違法改造されたサイボーグならば人間大でそのアークに匹敵するあるいは超える出力が出せるのである。
汎用性だって人が何かをする方がロボットに何かをさせるよりも高精度で何でもできるとあっては誰も使わないだろう。
宇宙における機動戦闘では今でも現役の強力な兵器なのだが、如何せん地上で運用するにはサイボーグ技術が発達しすぎた。
ラグルなどは生身でも大きな力が出せるので結構好きだし地上での魔物との戦闘において超巨大な魔物との戦闘の際に乗ったりするのだが、そういうのは少数派。高出力サイボーグで優秀な奴なら取り付いて切り裂くなどできるので完全にいらない子扱いだ。
ゆえに、地上で手に入れるのは難しい。今、このエルトリューンで持っている奴と言ったら都市警備兵かアークの大きさを利用して民間人を威圧する目的で利用している盗賊くらい。
「だから、手に入れるだなんて、そう都合が良い、こと、が……」
あるわけないとつなげようとしたラグルの言葉が止まる。その視線は上へと向いている。ついでに影がラグルらにかかっていた。
「――あったな、都合がいいこと」
そこにはアークが立っていた。一世代前の機体だ。本来は砂漠迷彩だとかそう言ったものが塗られていたのだろうが、ろくな整備をされていない為に塗装は剥げていて本来の機体カラーである鈍色がこんにちはしている。
露出した装甲は雨風にさらされ続けたのだろう、ところどころというレベルではないレベルでかなーり錆びている。どう考えても粗悪品だ。
機体としてはかなりマシだけに整備不良が非常に怖い。そう機体は良いのだ。なにせ、下半身回りが太く頑強そうなシルエット。
腕は三本ずつあって肩でそれぞれの腕の根本がくっついている。それが回転して武装を交換するという仕様の機体。
腕にある武装は二種類。高連射能力を持つ遠距離武装と折り畳み式の腕に直接装備された近接武装を備えている。
正式名称はGBK079846「オクトパス」。一般には六本腕と呼ばれて親しまれている汎用機だ。今では潰れた企業のアークである。
それがラグルらに影を落としたのと同時に盗賊らしきサイボーグたちがわらわらと岩陰やら砂の中から出てきた。
どうやら行きで倒した盗賊の仲間で帰りを待っていたようだ。何やら身ぐるみはいだらー! とか。金目のもんおいてけー、だとか。女はおいてけー、だとか。あらんいい男、だとか。そんなことを言っているがラグルらは全て無視。
「好都合とはこのことですね。さあ、奪いましょう」
「誰が?」
「あなた以外に誰か? まさか、先ほどから抱えている子供にやらせるんですか?」
「……わかったよ。ルビエ、ちょっとこいつ持っててくれ」
「あら、こんな不気味なもの持たせるなんて感性を疑ってしまうわ」
と言いつつルビエは素直にソフィアの首を受け取ると後ろに下がる。それを見てラグルは、さてやりますかと内心で気合いを高めつつ、外見だけは降参している風を装って前に向かう。
どこか恐怖に顔をひきつらせたようにして。これを見てくれとでも言わんばかりに懐に手を入れて一枚のデータディスクを取り出す。別段何にもないものだが、貴重な企業のデータだとかなんだとでか言ってやると、
「へへ、動くなよ」
と盗賊の一人はそれにつられて集まってくる。ああ、そうだろう。他の奴らが銃口を向けている。その上、アークまであるのだ。負ける道理なんて思いもしないだろうさ。
安全だと思っているから安心して近づいて来るのだ。もちろんそれだけでなくラグルが生身だということもある。サイボーグに普通生身は勝てないとされているからだ。
「あんがとさん」
「へ――?」
だからこそ、ラグルは超速で高周波ブレード抜き放ち、容易くその首を落とすことが出来た。間抜けが顔を晒していた盗賊たちであったが、即座に我に返り魔力銃を放つも、
「や、やろう!」
刹那、ラグルは疾走する。魔力を全身に滾らせて駆ける様はその足さばきの緩急によってさながら消えたように見せながら盗賊どもの首を高周波ブレードで落としていく。
楽な仕事だ。敵は同士討ちを避ける。如何に精巧な射撃システムを構築していようが所詮は盗賊のもの。軍用サイボーグのシステムとは雲泥の差。
違法改造にしてもたかが知れている。ゆえに、対角線上に並び、相手の脇を通して敵に当てるという神業じみた当たり前を彼らは実践できない。
敵の背後で敵を盾にしてラグルは敵を斬る。盗賊の数人がアークに救援を求めて、同士討ちを避けるために動かなかったアークが動こうとするが、
「甘いですね」
そう無感情に首が呟いた瞬間、その動きを止める。
「ハッキング終了。まったく、このような旧式デバイスでよくもまあ、今までやって来たものです」
ソフィアがそう呟きながらアークのシステム周りを整理して行く。具体的に言えば彼女が入るだけのスぺースを作るためにいらない物、射撃管制システムだとか、歩行補助システムだとかそういうマニュアル操作に必要な全てのものを削除していく。
彼女が操作するということは肉体を操作しているのとさほど変わらないのだ。ゆえに、問題はない。彼女が中に入ってしまえばアークは自由自在に動かすことが出来る。
「形勢逆転という奴です」
当初の目的通りアークを手に入れることが出来た。上々だろう。辺り一面首が落ちて真っ白な華が咲いている。
誰も死んでいないし一人は五体満足で残っていた。死なないうちに仲間を回収して帰るだろう。
「さて、んじゃ取り戻すとしましょうかね。本当ならルビエを送りたかったんだが」
「そんな子供よりも任務が優先です」
「言うわね首のクセに」
「事実を言ったまでです」
ともかくアークに乗り込んだ三人は遺跡へと戻る。そこから痕跡を辿り宝珠を取り返すべくあの二人組を追うのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
荒野の中に存在する建造物。それは、どこか軍事基地を思わせる移動要塞。その司令室に存在する部屋。綺麗すぎるほどに几帳面すぎるほどに整理された部屋の中央に置かれたデスクに突っ伏する影一つ。
男だ。ついでに言えば生身。首切りアンドレイと呼ばれる男がデスクに突っ伏している。それだけならば別段煩わしくもなんともないのだが、
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
盛大な溜め息を部屋の中に木霊させているため非常に煩わしい。それもこれもあのエデンの子を逃がしたのが発端なのだが、
「五月蝿い。いい加減機嫌直してくださいよ」
「はああああああああ――」
「ああもう、そのあたりにある首でイタしてればいいじゃないですか。コレクション持ってきてるでしょう。私の部屋にまであれ置いてあるんですけど、どうにかしてください」
「あの首がいいーのー!」
「なんですかその子供みたいな言い方は」
女は呆れてジトっとした目でアンドレイを見るがアンドレイはまったく気にした様子がない。ただ突っ伏したまま盛大に溜め息を吐くばかり。
時折、何もなく女の方を見ては溜め息を吐くので悪くもないのに悪いことをしたように感じてしまうのがまた腹立たしかった。
「溜め息を吐くばかりなら自室に帰れ。私は取り返しに来るだろう敵に備えるために作戦考えてるんですから」
「え?」
「え? なんです、その意外そうな顔」
「いや、取り返しに来るの?」
「そりゃ当然でしょう」
何を言ってるんですかこいつは? という顔をアンドレイに向ける。エデンの子が生き残ってしまっているのだ。使命に忠実なエデンの子ならば当然取り返しに来るに決まっている。
そのアンドレイは今までの落ち込み様はどこへやら、すっかりと吹っ飛んだらしく顔に生気が戻り、瞳が輝きだした。
それはそれでうざい。
「良し、考えよーぜぇ! 絶対のあの首取り返すんだからな! むしろこっちから攻めようぜ!」
「……これを持ち帰るの優先です。そもそも受け渡しポイントへの移動の準備中ですから、移動さえしてしまえば追って来れない可能性もある」
「ないね。奴らは絶対に来る」
「何でわかるんです、あなたに」
サイバーブレインによる予測演算なんてできないのに何がわかるというのか。まあ、女も取り返しに来るというのには賛成だし、そもそもその前提で作戦考えているんだから言われるまでもない。
それでもアンドレイに言われるのが癪だったので落ち込ませようとしたのだが、効果はなかった。やはり生ものは駄目だ、と思いながらどうやって来るかを予測演算する。
一番高い可能性は車両で追ってくること。拠点は未だ動かすには時間がかかる。正直なところここに拠点を展開したは良いものの上の連中がまったくと言ってよいほど整備してなかったのであちこち調整が必要なのだ。
それゆえに逃走すれば良いものをいまだに動けずにいる。車両を手に入れて爆弾でも積んで特攻でもされればそれなりに結構なダメージになるだろう。
――まあ、何があろうともここは本陣。そうやすやすと襲撃出来るはずが――。
そこまで考えて爆音と振動に全てを持っていかれた。
「え?」
「キタキターキタアアアアア!」
アンドレイテンション上げ過ぎで絶頂。
女はサイバーブレインの上げてくる報告ウィンドウを見て絶句。
「え? アーク? あんな骨董品で? 地上じゃ戦車の方が強いのに?」
予想外。いや、可能性としてはサイバーブレインが導き出していただけに完全に予想外というわけではないが、まさか本当にそんな極小の可能性が当たるとは思ってもみなかった。
しかも、想定よりもかなり早い。普通ならばエデンの子の新しい身体を用意して、戦力を整えた上で来るからかなり時間がかかるという予測があった。
「なのに、もう? まだ準備、してない」
サイボーグなのに泣きそうな女。魂レベルで染みついている人の悲しい感情時に泣くという行動はサイボーグになってもそうそう抜けることはないようだった。
あちこちから爆音が響いてきている。怒号も響いてくるから、味方が戦っていることはわかるし情報も入ってきている。
旧式のアーク。六本腕と呼ばれて親しまれている時代遅れのアークが、もうアークとは思えないような動きで半重力高機動戦車をぶん回していた。
更には、本来腕を回転させて武装を変更させるだけで他の腕を同時に使えないはずのところを、六本全部の腕を使っているのだ。
素手の腕でアーク戦闘においてありえないサイボーグや作業用で一応戦闘にも使えるこちらのアーク相手に近接格闘して銃を装備された腕で射撃、背後の高周波ブレードを装備された腕でコックピットに取りつこうとするサイボーグを薙ぎ払っている。
なんだ、これ。まさか、遠隔操作? いいやありえない。アークは決まった動きしかできないのだ。二本の操縦桿についている五つのボタンに割り振られたアプリに従って動く。
決まってない操作をしようとするならばマニピュレータの操作に切り替えて専用のグローブとリングを用いて操作しなければならない。
しかし、人類の手が二本あるようにそうやって操作できる腕も二本だけだ。あんな風に六本を同時に操るなどできない。遠隔操作でも無理だ。
「なんで」
なんで、あんなことが出来る。考えてもわからない。サイバーブレインも異例の詳細不明の文字を表示している。
可能性としてはエデンの子であるソフィアが何かやったというのがあるのだが、それだってできることには限界があるのだ。何よりアークのサイバースペースは人ひとりの魔力体が入れるほど大きくない。
エデンの子ならば尚更だ。あの魔力情報量は一般の人間に比べて十倍以上、下手すれば百倍以上の大きさがあるのだ。
圧縮という技術はあるが、それをしてしまえばエデンの子は活動ができない。ゆえに女には何が起きているのかわからなかった。
色々な常識が邪魔しているが、肝心なことを忘れていたのだ。そもそも、エデンの子という肉体を持たないサイバースペースの住人と戦闘行為以外での接触経験が少ない現実世界の女にはわからない。
彼らに何が出来て、どれだけのことが出来るのか。そうアーク全ての行動制御情報を破棄しなお、サイボーグが義体を操作するのと同じようにアークを操作するという荒唐無稽なことが出来ることを。
それができるということを生身の脳を持つ人であるサイボーグの女は考えつくことが出来なかったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
構築情報もなにもないただのグリッドが浮かぶ空間、アークのコンピュータ内部のサイバースペースの中でソフィアは莫大な情報を処理していた。
それは、本来魔法技術師が構築したシステムが代行しているアークの操縦時にコンピュータが行っている処理だ。機体バランスの調整と維持、戦闘時の出力調整、カメラの塵処理、集音器のノイズキャンセルなどなどエトセトラエトセトラ。
その計算が一個でも狂えばアークは動かなくなる。だからこそ、アークはシステムによって割り振られた行動しかできないのだ。人型にしたせいで行う処理が莫大になったせいである。
決まった行動しかできないので、少しでも何かずれれば危険。それもアークが地上で使われなくなった原因だろう。
しかし、ソフィアにとってこの程度の計算など児戯に等しい。システム以上の正確さで、システム以上に柔軟性を持たせつつ、義体と変わらぬようにソフィアはアークを制御する。
そう義体を操作するのと何も変わらない。そう彼女にとってはアークだろうが、義体だろうが変わらないのだ。
どちらも中に入って操作するという事に変わりはないのである。これがただのサイボーグとエデンの子の違い。
生身の部分があるかないかという違い。頭で分かっていても人は常識を優先する。人サイボーグには脳があるという常識。
だからこそ、あの女は考えつかない。まあ、サイボーグ女がそもそも考えることに向いていないというのもあるし、応用が出来ないというのもある。
ともかく、そのおかげで存分に対応が遅れてくれた。移動要塞と言えど、拠点展開モード。ここから移動するには展開した各種施設を折り畳み収納しなければならない。
旧世代の携行型軍事拠点。未だアイドリング状態。魔力充填率は、60%。それを観測しつつ敵拠点内を走査する。
「第二区画、終了。第三区画、走査、敵対反応なし。第四、第五、敵対反応多数」
高速で開いては消える莫大なウィンドウを追って彼女の眼球がそれ以上の速度で運動。それでいて手は止まらない。
情報を処理し続ける。歩行、接地面の凹凸を計算。理想的な出力での踏み込み。右関節が軋む。エネルギー処理。ショックアブソーバー溶液の比率分配変更。ロックオン。ジャマー展開を確認、逆算ノイズキャンセル。
ぶつぶつと、ぶつぶつと、呟きながら片手間でサイボーグを吹き飛ばし。無駄に最新鋭の工作用重機型アークを蹴り飛ばす。
銃を撃つ、高周波ブレードを振るう。まるで踊るかのように集まるアークをなぎ倒し迫りくるサイボーグを踏みつぶしていく。
「やはり旧式多少疲れますね」
派手に暴れながらもそう無表情に呟いて、開きっぱなしのウィンドウに目を向ける。そこは敵を斬り倒しながら疾走するラグルの姿。
ソフィアは陽動。ラグルは隠れて裏から司令部に侵入し、宝珠を探していた。おそらくは最奥にでもあるだろうと当たりをつけて、ラグルは全力で司令部内を疾走する。
移動軍事拠点ということもあって内部はやはりここが中核と言えるほどには迎撃システムが多い。しかし、
「おーい、ソフィア、扉開けてくれ」
『もう開いています』
「助かる」
ソフィアのサポートがあればそれらシステムは意味をなさない。迎撃システムが役に立たずむしろ自分たちを攻撃してくる事実に敵は混乱中だ。
そこで首を斬るなど容易い。それに、
「おっと――」
ステルス迷彩を利用して背後から強襲してくる相手の頭部が破裂し、酸化した冷却修復溶剤のホワイトブラッドをぶちまける。
強化ガラスと壁を突き破って飛翔した弾丸。壁に穿った穴の向こう側高台の上に長大な対物狙撃銃を構えたルビエの姿。
「やるじゃないか」
『……ザザ……だから、なんで、私……ザザ……がこんな……ザ……こと』
ノイズまみれの旧時代のラグルの視界とソフィアの観測データがリンクした通信機器を内蔵した骨董品のヘッドマウントディスプレイによる音声通信を介して不満そうなルビエの声が届く。
ここを攻める際、問題になったルビエであったがソフィアの簡易適性検査によって狙撃の才能があるらしいのでサポートとして安全圏の高台に配置したわけだ。今日会ったばかりで散々である。
その際、サイバーブレイン化されてないことが発覚したのでラグルが出先で遊ぶように持っていた旧時代の骨董品であるヘッドマウントディスプレイを貸し出して、サイバーブレインを介しラグルの視界とソフィアの観測データを元に射撃してもらったわけだ。
狙撃銃は最新モデルの高度魔力圧縮による物理破壊威力マシマシの対物狙撃銃。反動なし、一発撃つごとに誤差修正を行い勝手に狙いもつけて引き金を引くだけで子供でも狙撃が出来るという触れ込みの現実世界企業の最新作。
それでもエデンのソフィアに言わせれば型落ち品でしかないというのがまた何とも言えないところなのだが。
それはさておいて、簡易とは言え遺伝子を読み取っての適性検査は正確のようで狙撃は今のところラグルに当たるようなことはない。
だから褒めたのだが、やはりルビエは不満そうだ。一番の不満はマントだけというほとんど裸同然で地面に寝そべり戦っているという現状。
別段、敵を撃つのはどうでもいい。的当てのようなものだ。やはり裸というのがいただけない。高台ということもあって結構風が吹くのだ。少々スースーする。それに横に置いてある生首。これもいただけない。
と文句を言うのだが、
『……ザザ……はあ……ザザ……良い……ザザ……おぼ、ザ……よ』
「まったく聞こえねえわ」
『…………』
ラグルは無視。ノイズまみれの無言が怖い。あとでお怒りを受けさせられたり小言を言われたりすることはわかるが地味に、通信してきているソフィアの発言の方も耳に痛い。
さっさと取り返せばかり。少しは何かないのかねと思うが、宝珠を取り返し任務を達成する以外には何もないらしい。
お仕事であるのだから、ラグルも真剣だ。向かってくるサイボーグ共を首を斬っては捨て、斬っては捨てを繰り返す。
数は多いが、狭い空間内での戦いだ。それほど乱戦になることもなくルビエの補助も合って苦労することなく最奥まで来ることが出来た。
司令官室。扉を斬り裂いて中へと突入する。そこにいたのはなんだか泣きそうな女サイボーグとテンションハチャメチャで股間を濡らしたアンドレイと言う男。
「なんで、なんでぇ」
「あはぁああはははははあっはぁはっはは――!」
「うわぁ、なんだこれ」
あまり話しかけたくないような感じであるが、話しかけなければ進まない。
「あー、とりあえず宝珠渡してくんね?」
「おう」
「なん――って、ちょっ!?」
そう言ってアンドレイが素直に投げる。驚く女。しかし、ラグルはそれを取らない。後ろの壁にぶつかって転がって行く宝珠。
「へぇ、やるなぁ!」
「アレ、取りに行ったら斬りに来ただろ。あんたの手口は調べたからな。首切りアンドレイ。エデンのデータベースにはないが、現実世界のローカルネットとアンダーグラウンドネットワークには散々あった」
首好きの変態。首切り魔。快楽殺人者。生もの。ともかく、異常性癖者に変わりない。どこで生まれたのかも不明。
その常套手段はだまし討ちからの首切りだ。人に希望を与えておいて突き落とす。典型的な悪党のやり方だ。
「んじゃあ、だまし討ち上等って知ってのかぁ、なら正面から――行くぜぇ!」
ぺろりと、舌を出してアンドレイが疾走する。だまし討ちなら正面でもなく横。だが、前だろう。
「わかってるんだよ」
そして、そんなことはラグルはわかっている。だまし討ちが常套手段の相手。そんなヤツの言葉など信じるわけがないだろう。だからこそ、アンドレイは正面から来る。
サラウェイ一族にはとあるプロファイリング技術が伝わっている。敵を知り、そこから敵の行動を予測する技術。
そこから来る未来予測は今の時代、サイバーブレインを介することによってほとんど未来予知と化している。
それでなくともわかるだろう。視ていれば。全身に張った魔力がなりを潜め、爆裂する。生じるのは急加速。アンドレイが一瞬、視界から消えるがラグルはそこ場で高周波ブレードを振り下ろした。
ほとんど勢いで書きました。戦闘シーンは楽しい反面難しさもあってこれで良いのかと自問自答する日々です。あと文字数が増える。
人型ロボットは浪漫。でも、戦場で使えるかどうかは微妙。そもそもサイボーグで既にそれだけの出力を出せるんだからいらないじゃんという話。
でも、大きさという利点があるので宇宙戦闘で使われていて地上じゃほとんど作業用の重機くらいでしか使われていないというのがアークの設定です。
本当は操作系とか全部設定してるのに本編じゃソフィアさんが中に入っているせいで出せないのでちょっと悲しい。
でも、錆びた人型兵器で無双するのってかっこいいと思うし、ばく大な演算しながら片手間でいろいろやるのも良いと思います。
みなさんどうでしょう?
あ、それと私のもう一つの作品とある中堅冒険者の生活がモンスター文庫大賞の一次選考通過しました。
初めての経験なのでドキドキです。
では、また次回。