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第4話 道中

 今の時代、ほとんど見ることのないアンティークな八輪の装甲車は快調に砂煙を巻き上げて荒野のほとんど整備されていない道路を進んでいた。

 その途上で魔力に反応して現れては、進路上に立ち塞がる小型の魔物を轢き飛ばしながら進む装甲車は進む。立ちふさがるものを轢き飛ばしていくのは、それはそれである種の爽快感があって実に気分が良い。


 時代遅れなアンティークである八輪が接地しての走行により、整備されていない路面を走ることによる振動と重低音のごときエンジン音と走行音がハンドルを通して腕に伝わる様は走っている、車を走らせているのだと確かに感じられる。

 別の惑星に行っている時に乗った反重力によって多少浮いて走行するために、振動も走行音も、果てにはエンジンが駆動してるようにも感じない乗り心地抜群の反重力自動車より不便ではあるし乗り心地もそれほど良いともいえないこっちが良いなとラグルは思う。


 ふと、相方となっている少女はどう思うだろうかと気になったラグルは聞いてみることにした。エデンから出てきた者にこの骨董品はどう映るのか聞いてみる。


「どうだい乗り心地は?」


 まあ、そんな感想など彼女を見れば一目瞭然なのだが。


「…………」


 そんなソフィアはというと、無表情でかなり青い顔をしていた。いや、正確には顔色も表情すら変わってはいないがラグルにそう見えたのだ。

 どうあがいたところで乗り心地がよさそうにしているとは見えなかった。装甲車を見たときの様子からしてわかっていたが、とっくの昔にエデンではこの手のものは絶滅しているらしい。


 微妙に残念に思うラグルであった。エデンに行く機会など絶対にないが。

 それをよそにソフィアはサイボーグに吐くという機能がなくて良かった思っていたところであった。吐いたところで逆流するのは物質が分解されたあとに残った水くらいなのだが、それでもだ。


 例え水だろうとしても、体内から物質が逆流すると言うのは好きになれる感覚ではない。そういった感覚を切ってもぬぐえない魔力体自体が持つ不快感がソフィアを苛んでいた。

 ゆえに、彼女は装甲車に乗ってからは喋る気力すらなくしてシートに沈んでいた。本当、乗り心地は聞くまでもないだろう。絶対に悪いだ。


「……、こんな骨董品で向かうのですか」


 言外になんでこんな乗り心地の悪い物にのならければならないのかとありありと浮かんでいるのが見える。


「まあ、これに関しては俺の責任じゃない。社長の趣味だ。あの人かなり骨董好きでな」


 とにかくシルドクラフトの社長であるベルは何かと古いものを好んだ。机や絨毯、武器、車。何でも新しいものよりも古いものを好んでいつまでも持ち続ける。

 今では全部プログラムになってデータ化して端末があれば事足りるのに、古い時代の大昔の魔導書を持って使っているのをラグルは知っている。


 それに博物館行きの古いものを手に入れては子どものように喜んでラグルに見せてくる年齢不詳の可愛らしい人だ。

 背の低さなどもあって、その時はもう本当に子どもにしか見えない。年齢について聞いてみてもはぐらかされるばかりだ。


 ただ、ラグルが車輪で走る車両や、家宝の弓を使ったりしている理由は、そんなベルに子供の頃から世話になっていたことに原因があるだろう。


「そうですか。非合理的ですね、理解出来ません」

「だろうよ。それよか、気づいてるか?」

「もちろんです。サイボーグのセンサーにはただ隠れただけでは意味ありません」


 ソフィアには、クーシャリウスを出てからついてきている奴らについて最初から把握していた。

 どう考えても友好的な輩ではないだろう。


「ただの盗賊だろ。まさか、ドレークエルドなわけはないだろうさ」

「ドレークエルド?」

「知らんか。まあ、都市伝説みたいなもんだしな」


 ドレークエルド。あるいは結社。

 銀河をまたにかけるとも言われ、結社とも呼ばれる謎の組織だ。目的、構成員、規模。その全てが謎に包まれていて不明。


 ドレークエルドについて知っているという者は、彼らを大絶滅以前から存在する組織で、神秘の探求をしている秘密結社であると言う。

 またある者は、この世界のありとあらゆる犯罪行為に関与している犯罪者の集団だと言って世界崩壊の陰謀論を唱える。


 またある者は、エデンを運営しているという運営員会こそがドレークエルドだとして、組織や結社などは全て彼らの手足であると言う。

 とにかく、不確かで実体のわからない相手。不確定で幻覚のような夢幻の存在。ただの都市伝説。誰も信じちゃいないそんな組織。


 それがドレークエルドであり、結社である。

 そうラグルは締めくくった。ソフィアの第一声は。


「いきなり何を言っているのですか? 頭でも打ちましたか」


 だった。

 

「いや、お前が聞いてきたから答えたんだが」

「そんなおかしなこといきなり言い出したら正気を疑います。当然でしょう。あなたの教育判定を疑います。いくら未開拓惑星出身とは言え正気じゃないなら仕事は出来ません」

「お前なあ」


 言いかえそうとしてラグルは止めた。今はそんなことより追って来ている奴らをどうにかする方が先決だからだ。

 ソフィアもそこら辺はわかっているのか、

 

「ここの流儀は?」


 そうラグルに聞く。郷に入っては郷に従えという言葉もあるが、まさかその通りにするつもりなのか。あるいは、単純に興味があっただけなのかもしれない。

 まあ、どうでもいいかとラグルは答える。別に複雑なことはありはしない。辺境にありがちな実に単純な流儀だ。


「邪魔なら殺せだ。実力だけが物を言う。負けたら文句は言えない。なにされようと負けた方が悪いだ」

「なるほど、蛮族極まれりですね」

「否定出来ないのが辛いところなのが悲しいな。うち、一応人助けの何でも屋会社なんだが」


 こんな惑星にいるのだから今さらだ。社長のベルがこの惑星を離れたがらないのだから仕方がない。それに盗賊に容赦したところで他の奴らが襲われるのだから、盗賊退治は立派な人助けだ。

 

「で、どうするんだ?」

「決まっています。より確実に任務を遂行するため、障害を完全排除します」


 ソフィアが上部ハッチから顔を出して視界を索敵探索(スキャン)モードに切り換える。視神経にエデンネットからの情報が割り込まれ、視界は青に染まった。

 普段は見えないはずの情報をエデンネットワークから視神経への情報割り込みによって表示され、可視域外の波長や音などが視覚的に表示される。更に視界におさめた人物のサイバーブレインのエデンネットワークとの接続ラインに自動的に介入し解析、情報の表示を行う。


 後方一キロ以内に、走行中の車両。旧型の反重力走行車。速度を上げてこちらに追い付こうとしている。巧妙に隠れてはいるが、ステーションからの観察データすら参照し上空からも広範囲を視覚することのできるスキャンモードを用いてしまえば丸裸だ。

 搭乗者は四名。内蔵兵装搭載型の全身義体(フルサイボーグ)。市民ID登録なし。エデン未登録。違法改造の痕跡あり。武装は旧式魔法銃MPGR07。


――総合脅威度D。


 それらの情報を統合してエデンが下した判定は問題にならない判定。やはり、現実世界なんてこんなものかと思いながら装甲車上部に出てアイゼンで身体を固定すると同時にプログラムを起動した。

 掌を敵に向けると共に円形の呪文式(スペルコード)――魔法陣が展開されエデン内におけるプログラムの起動結果が魔法として現実世界に出力される。


 サイボーグの心臓である魔力炉から莫大な魔力が沸き上がり魔法陣は回転と共に巨大化し、それが臨界に達し魔法が放たれた。


「おおっ!」


 魔法が放たれただけだというのに装甲車内にいるラグルにまでビリビリとした衝撃が伝わる。装甲車が魔法を放ったことによってわずかに浮いて前へと跳んだくらいだ。

 放たれた魔法は真っ直ぐに飛翔し敵車両が回避する前に直撃し爆ぜた。爆音と共に熱が大気を熱する。膨大な熱に大気は揺らぎ、車両のフレームが歪んで、サイボーグの皮膚有機体が焼ける臭いが風に乗り伝わって来た。


「おおう、派手だな。だが、まだだ」


 そのラグルの言葉に呼応するかのように爆炎が巻き上げた黒煙の中から、二体のサイボーグが飛び出してくる。

 皮膚有機体が熱で融解してはいるものの、動きに問題はない。四体のうち、二体を盾にした後部座席の二体が飛び出してきたというわけだ。


 足のラインに光が通るとともに二体のサイボーグは凄まじい速度で装甲車を追ってくる。身体強化のアプリを起動したのだ。

 アプリ全体に格納されたプログラム群の一つが脚のCNT(カーボンナノチューブ)筋繊維の一本一本へとその出力を上昇させるように魔力を浸透させ強化していく。


 更には、増大した出力にCNT筋繊維や(カーボン)フレームが耐えられるように、稼働に則して全身へと魔力の流れが変化して行くように設定されたプログラム群がCNT筋繊維およびCフレームの耐久性を向上させる。

 単一プログラムでは成しえない高度な複合プログラム群――アプリにより一瞬のうちにそれらは起動し、彼らに恩恵を与えた。


 アプリによって肥大化したCNT筋繊維によって蹴りだされた地面は抉れ、その数に比例するようにサイボーグたちは距離を詰めてくる。

 数百メートルの位置。ここまでくればサイボーグたちにとっては近距離に他ならない。高周波ブレードが鞘から引き抜かれる。つまり、ここは間合いだ。そして、それはソフィアにも言えることであった。


 腰裏ハードポイントアタッチメントに拡張機能として併設されたプログラムが自動起動し彼女が希望する武装を潤沢な魔力炉の魔力を用いて創造(クリエイト)する。

 両の手に現出するのは高周波ブレードと魔法発動媒体である魔法銃。典型的な剣銃(ガンアンドソード)近接魔法戦闘スタイル。足のアイゼンを解除して、ソフィアは前に出る。


 それと並行して複数のアプリを起動する。身体強化。大別され専門化された筋力と速力の強化をボディの複数起動枠を利用して同時起動する。

 本来はこの手のアプリは同時起動できない。それは敵のサイボーグを見ればわかる。だが、ソフィアのボディはエデンで作られた最新式だ。


 技術は日々進歩している、特にエデンでは。ソフィアのボディに見えるラインは四つ。つまり、彼女は最大四つのアプリやプログラムを同時に起動できる。

 しかし、見た目というのは大事で見るからに少女でしかない義体がいくら強化したところでその結果は知れている。サイボーグたちは意に介さない。サイボーグというのは大きいほど強いというのが普通だからだ。


 ゆえに彼らは笑い、同時にソフィアへと飛びかかる。一際、CNT筋繊維を肥大化させ瞬時に加速。地面を蹴ってそこを陥没させながら跳躍する。


「やはりこんなものですか」


 ソフィアもまた同時に跳躍していた。高周波ブレードは刀身を超高速で振動させ、その高速振動とそれにより発生した熱により、物体を溶切断する。

 そのため、斬ることに力を必要としない。刃を当て押すだけの力をさえあれば、高周波ブレードはほとんど全ての物体を切断して見せる。


 ゆえに、高周波ブレードは踏ん張るための足場など必要としない。振って当たれば斬れるのだ。高周波により赤熱したかのような刀身が翻る。


 ソフィアの一閃がサイボーグを腰から両断した。装甲など関係なくCNTを強固に編み込んだ筋繊維すら歯牙にかけず断ち切る。空気に触れることで一気に酸化して白くなった血液ホワイトブラッドが噴き出し、折れるように驚愕の表情となったサイボーグが後方に流れていく。


「次です」


 跳躍したまま後方へと流れる身体をソフィアは空中で捻り、もう一体のサイボーグへと足を伸ばす。そこから引っ掻けるように足をかけて半ば足場にするように跳んで、装甲車に無事戻った。


「流石だな」

「別に誇ることでもありません。頭部を破壊できませんでした」

「まあ、良いじゃねえか。撃退できたんだ。任務優先だろ?」


 サイボーグは、脳さえ無事ならば死なない。呼吸出来なくなろうとも数時間は保護システムにより脳血中に酸素が供給される。

 酸素が供給されている間は意識はないだろうが生きていることになるのだ。頭部、とりあえず脳だけでも持ち帰って身体をくっつけてやれば復活可能だ。


 サイボーグを殺すならば頭部を破壊するしかない。それ以外ではバラバラにして行動不能に出来ても死に至らせるには足りないのだ。

 頭部を破壊しないでサイボーグを殺せる方法は、水に沈めるや地面に埋めるなどして緊急酸素供給が終わっての窒息から来る脳死くらいだろう。


 それ以外ではサイボーグはなかなか死なない。痛みも感じないように出来、気絶することもないで感情すら抑制できる。まさに理想の兵力だ。

 そんなのにわざわざ止め刺しに行くのも面倒であるし、何より今は任務優先である。


「そうですね」

「じゃ引き続き前も頼むわ」


 ソフィアが装甲車の前方に目を向ける。そこには、バリケードを作り道を塞ぐ輩がいた。サイボーグの数は十体程度。挟撃が成功すると信じて疑っていないのかその表情は笑みだ。

 ソフィアはまったくの無表情で魔法銃を前に向ける。選ぶの一点突破型の魔法でいいだろう。まともに相手をしても面倒なだけだ。


「では、そのまま突っ込んでください」

「あいよ了解」


 特に何も言うことなく従うラグル。

 従順に仕事を遂行するのは良いですね、とラグルの評価をわずかに上方修正。骨董好きだったり生身であったりするのがマイナスだが、その仕事に対する疑いなく従うこの姿勢は良いと判断できる。


 そう無表情で思いながら一つのプログラムを魔法銃に流した。魔法銃を囲むように円形魔法陣が現れるととともにトリガーを引き絞る。

 収束した魔法陣とともに銃身から放たれるのは光だ。単純な光魔法。高次収束させて発生させた光はまっすぐに空間を貫きバリケードに大穴を穿った。


 光の熱にバリケードとして採用されていた車両は円形の大穴を穿たれ、その断面は著しく赤熱してどろどろと地面に流れ出ていた。その実、反重力ドライバーにはまったくと言ってよいほど傷をつけていないので自爆もしない。

 その光量と熱量によってサイボーグもただでは済まない。皮膚有機体は先ほどのサイボーグ二体と同じく融解し焦げ臭いにおいを放っている。また、突然の莫大な光によって視覚はことごとくがダウンしブラックアウトしていることだろう。


 結果、悠々とバリケードを越えることができた。無論、これで終わりというわけではない。ここまでされて盗賊たちが引き下がるわけがないのだ。

 行動可能なサイボーグたちは半数にまで減ったもののまだ相手よりは数が多い。数の利。それに従って盗賊たちは皮膚有機体下のアーマーを露出させたままラグルたちの追撃を開始する。


「さて、来たぜ?」

「問題ないです」


 そう問題はない。敵勢力は五体。性能は先ほど戦った二体と同じか、少し上のが数体いるくらいで平均すれば性能に変わりはない。

 珍しい高周波ブレードを穂先につけた槍を持っている奴やらいるが、ソフィアには問題にはまったく思えなかった。それにここで追ってくるあたり感情抑制もされていない。問題などありはしなかった。


 一斉にアプリを起動。特有の青の輝きを体に走らせCNT筋繊維を膨張させながら装甲車へと向かってくる。左右に二ずつ、正面に一。それらすべてに素早く視線を向けて確認。ソフィアは再び身体強化のアプリを二つ起動、さらに一つの魔法を発動した。

 両手に環状の魔法陣が出現する。それを装甲車の両面へと向けた。するとそこに光の壁が現出し、サイボーグたちの行く手を阻む。


 それを見たサイボーグらは一斉に後方に回る。左右を魔法でふさがれた。装甲車自体も壁が覆っている。こうなってしまえば攻めるには後方から乗り込んで攻めるしかないのだ。

 しかし、装甲車の上部は狭い。乗り込めて一人か二人。撤退を考えるにはソフィアが少女の姿をしていたのが悪かった。それでも勝てると思ってしまったのである。


 サイボーグらの思考はとても単純だ。相手の魔法は強い。ならば魔法を使わせずに近接戦闘で終わらせればよい。少女ボディならば素の出力はこちら方が上。乗り込んで速力強化を筋力強化に回せばこちらが一人だろうと圧倒できるだろう。

 また、こちらに人数がいるのだ。一人倒されても二人、三人と連続で戦う。サイボーグは疲労しないが脳、つまり意識が疲労する。サイボーグといえど休眠が必要なのはサイボーグである彼ら自身が知っている。


 だからこそ、まずは一人が飛び乗った。飛び込みと同時に戦闘態勢に移ろうとした瞬間、その眼前には既に刃が迫っていた。

 咄嗟に背後に倒れるようにしてそれを躱そうとするが躱し切れず顎が切断される。慣性に引かれ、後方に飛んでいく顎。


 それについて何かを思う暇すらない。蹴りとともに身体を浮かせて回転させつつ即座に態勢を立て直すと同時にサイボーグも高周波ブレードを抜き放ち振るう。

 それをバックステップで後ろに下がることでソフィアは躱した。そこにサイボーグが追撃の一撃を振り下ろす。それを高周波ブレードで受けた。


 高周波同士が干渉し硝子を引っ掻いたかのような甲高い高音が響き渡る。感覚遮断しているソフィアやサイボーグたちにはどうでもないが、生身のラグルは鳥肌で身体を震わせた。

 拮抗状態。敵は即座に押し込もうとした。


「な、なに!」


 しかし、鍔競り合いは一瞬で終わりを告げる。音は即座に鳴り止み、切断が始まる。拮抗したかに思えた高周波ブレードであったが即座に優劣がはっきりした。

 高周波ブレードは、剣に高周波を流し切断性を飛躍的に高めたものだ。肝となるのは、柄にある高周波発生装置ではない。肝はブレードの方にある。


 なまくらと業物に高周波を流してみればそれは一目瞭然だろう。なまくらはそれなりの切れ味を出すが、業物はそれ以上の切れ味を出せる。要は地力が違うということだ。

 盗賊が持っていた高周波ブレードは旧式。ソフィアの高周波ブレードはエデン製の最新型。比べるまでもない。文句なくソフィアの高周波ブレードが勝つ。


 切断された高周波ブレードに唖然とした僅かな隙。その隙に漆黒のブレードが眼前に迫る。それに対して染みついた経験が身体を動かした。縦に振り下ろされる高周波ブレードに対して顔だけは避けたのである。

 結果、肩口から高周波ブレードは入り、諸々の機関のことごとくを破壊して股から抜けた。意識があったのはそこまでだ。


 重さで倒れる前にソフィアがそれを蹴っ飛ばす。地面にぶつかり転がっていくサイボーグ。それを見てもまだ向かってくるのか即座に次が乗り込んでくる。

 もちろん、飛び乗った隙に攻撃されることを防ぐために仲間が魔力弾を放って牽制。無事、サイボーグは乗り込むことができた。


 しかし、同じこと。相手が突っ込んでくると同時に相手の獲物を切断する。二度目はさすがに反応してナイフを抜こうとしてくるが、その間に腕を切断。次いで両足を切断し車両から蹴り落とす。


「これで二つです」


 残りは二。どうやら仲間の回収のために一体のサイボーグが向かったらしい。敵が減るのは好都合だ。殺さないで良いこともあるらしい。


「もう面倒なので、できればお二人同時にかかってきたらどうでしょうか。いかにサイボーグでも延々とアプリを起動なんてできないでしょう」


 ソフィアの言葉は事実であったために、二人が飛び乗ってくる。片方が魔法銃で炎の弾丸を撃つ。それを魔力を纏わせた高周波ブレードで弾いていると、その隙を突くとばかりに片方が槍を突き出してきた。

 ソフィアは前に出る。高周波スピア。その弱点は途轍もなく単純だ。穂先にしか殺傷能力がさほどといってよいほどない点。


 サイボーグにとってただの薙ぐ攻撃など意味をなさないのだ。だからこそ、スピアは廃れた。まだ扱っている奴がいるとは驚きである。

 そのままスピアを持っているサイボーグにまで接近し魔法銃を向けた。励起状態の魔法陣が展開。魔法の威力を見ているそいつは咄嗟に顔を逸らす。


 その隙に逆手に持ち替えた高周波ブレードで腰を切って切断すると同時に胸を突き刺して銃を乱射している相手の盾とする。

 感情抑制されていないそいつは撃つのを躊躇った。誰でも仲間を盾にされれば撃つのを躊躇うだろう。その相手にサイボーグが突き刺さったままの高周波ブレードを振って邪魔な突き刺した上半身を抜くとともに相手にぶつける。


 それを銃を持ったサイボーグは咄嗟に受け止めようとした。判断をミスしたと気が付いた時にはすでに切られた後だ。


「はい、終わりました」


 そういって戻ってきたソフィアは平静そのものだ。


「お疲れさん」

「あの程度で疲れることはありません」

「そいつは良かったよ。これからしばらくはまだ車の旅だ」

「…………」


 その一言にひたすらげんなりとしたように見えるソフィア。表情には一切見えないが雰囲気がそんな風になっている。


「水でも飲むか?」

「いいえ」

「なんなら、全感覚オフにしてもいいんだぞ?」

「私の任務です。私が放棄してはエデンに逆らうことになります」

「いや、それくらいいいと思うんだが」

「私の意識の連続性が途切れた場合、あなたの行動が予測できません」


 つまり信用してないということ。少なくともラグルはそう受け取った。


「少しは信用しろよ。仕事を途中で投げ出すことはしないさ」

「はい、あなたは全ての依頼を無事完遂しています。そこを信用してないわけではありません」


 あれ、そうなの? とラグル。


「肯定。データとして残っている紛れもない事実です。事実を疑うほど愚かではありません。そこは別問題です」

「じゃあ、何よ?」

「はい。マニュアルに、男女がともにいて更に密室状態で女が意識を失うと大変なことになると書かれているので」

「…………」


 何とも言えない空気になった。


「そ、そうか」


 とりあえずラグルが言えたのはそれくらいだ。それ以上彼が何か言うことも、ソフィアが何か言うこともなく、ただ淡々と彼は装甲車を走らせ続けた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 それは棺のように見えた。人ひとりが収まるだけの空間に蓋。旧時代的観点から言ってこれは棺以外のなにものでもないようにみえた。少なくとも生きた者が入るものではないように見える。

 様々な機械がつながり、ごちゃごちゃとした配線が床を這う。そんな場所にある直方体の物体を形容する言葉など一つしかない。棺、それ以外にはなかった。


 だが、そこには確かに生者がいる。ジェルに覆われた棺の中で眠るように少女が横渡っていた。紅い髪の少女だ。燃えるような炎のように、あるいは血のように紅い髪。

 白磁のような肌は見るからに瑞々しい若々しさを感じられる。幼い体型は少女を人形のようだと形容させるだろう。


 精巧な作り物じみた少女であった。アンドロイドと言った方がしっくりと来る少女だ。だが、共通規格のエデンネットワークとの通信素子が頭部に見当たらない。つまり、この少女の形をした何かは確かに生者であるようだった。

 また、眠っているかのように胸が上下している。それは確かに呼吸というものの動作。生物が生物としてサイボーグ化してなお精神的な肉体を持っていた頃の残滓、魂の呼吸とも称されるものとして必要とするものだ。


 静かに、確かに呼吸音を響かせている。床や壁を所せましと這う配線チューブばかりの部屋に静かに確かに響いている。

 ただ目覚める時を待って。時は近い。カウンターに表示された数字は既にゼロを示そうとしている。目覚めの時は近い。


なんちゃってSFお読みいただきありがとうございます。

ちょっとした戦闘回でした。


ちょっとした裏設定。

サイボーグのホワイトブラッド。実際は無色透明なのですが、空気に触れることによって一気に酸化して白くなるという設定。

このサイボーグの血液は燃料ではありません。修復冷却用の液体です。恒常的に使用されており、身体を数回循環すると白くなるので、身体の中で常にろ過していますが徐々に減って行きます。


ちなみに、血液を入れるときは尻から注入する。緊急時には経口摂取も可能ですが、基本的には尻から入れます。そこにタンクがあるのと大気に触れて酸化してしまうことを防ぐためですね。


日常用のサイボーグならば数十年は持ちます。

戦闘用でも普通にしていれば数十年もちますが、恒常的に戦闘行動を行っていると一年、高出力品を全力で稼働させるほど損傷するほど期間は短くなって数か月、数週間、あるいは一週間に一度は新しい血液を注入しなければならなくなります。


注入には特に専用の施設は必要なく注入器が市販されてますね。純度に差があって値段が高いほど良いというのは良くある話。注入器の先端にはカメラが付いていて、視覚と連動させることで一人でも注入できます。


というなんちゃってSF設定でした。サイボーグだしここまでぶっ飛んどいてもいいよね。

では、また次回。

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