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キミボク  作者: きつねさん
仮想世界と要
5/51

委員長と学校

「うわぁああ。」

顔を洗って鏡を見た僕は思わず声をあげてしまった。

鏡の中に女の子がいた気がして。

驚いた拍子に鏡から目を離したらいなくなってたけど。

確か銀髪で髪の長い、十二ぐらいで、小顔で、少しお人形みたいな。そう、まさにソニアのような。

「・・・・・・ゲームやりすぎかな?」

まあ、寝起きだしそういう事もあるかな。

さっさと着替えて学校行こう。

朝食はシリアルで手早く。皿洗いは朝にする時間はないからとりあえず水洗いして置いておく。

一年の時から一度も変えてない(つまり背が伸びてない)制服に手を通して、

っと、ボタンが取れかけてる。ソーイングセット持ってこう。


「行ってきます。」

返事はない。一人暮らしだから。

両親は晩婚だった。

父は普通のサラリーマンだったが、母がやり手のトレーダーだったらしく、お金は大丈夫だから、

両親と一緒に住んでいた一軒家は賃貸に出したり売ったりしないですんだ。

だから今もそこに住んでいる。

それに、犯人の遺族からもお金が入ってきたし。

あまり気持ちのいい話じゃないけど。命をお金に変えたみたいで。

だから今のところ手を付けてない。まあ、必要になったら使うと思うけど。






高校は共学だ。そこまで頭のいい学校じゃないけど。

その中で僕の成績はかなりいい。奨学金狙いで頑張ったから。

勉強の秘訣?それはいろいろと遊びとかそういうものを犠牲にして勉強時間をたっぷりと取ること。

そこそこの難易度程度だったらこれで塾に行ったりしないでも独学で何とかなる。

そのせいで僕の交友関係は狭いけど。


まあ、それでも結構楽しんで日々を過ごしてる。

「血みどろ失楽園」も楽しいしね。


僕の教室の席は窓際だ。正直夏の今はあまり人気がない。

太陽光がギンギンで暑い。カーテンは閉めるけどそれでも太陽光は負けないから。

うちの学校は省エネとかで二十五度まではクーラーをつけてはいけない仕組みだ。

そしてこの学校の珍しい所だけど、なんと黒板がある。

今時チョークで書いて消してってやってるとこはほとんどない。

それからこれは珍しいというかおかしいと思うんだけど、

クーラーをつけていいかっていう温度を測るのが温度計なんだ。

あの中に赤い液体が入ってる。

うん、いまどき液晶に表示するタイプじゃないのってもはや骨董の域。


暑さから逃れるように適当な思考をしてたら委員長が入ってきた。

少し顔色が悪い。昨日の「血みどろ失楽園」のあの気色悪い感覚のせいだろうか?

あれはおかしかった。何が、という事ははっきり言えないけどはっきり身の危険を感じた。

「ころさん」が委員長だという事を僕はほぼ確信している。

けど多分向こうは僕が「ソニア」だという事は想像もしてないはず。

そもそも男だとも思ってないだろう。

リアルばれをおかしてでも聞いた方がいいだろうか?最初に男だと言ってるとはいえ、

やってることはネカマだから少し躊躇する。

取りあえず放課後まで考えてみよう。



その日委員長はそわそわしてどこか落ち着かない感じだった。

教科書を読んでと指名されても委員長にしては珍しくどこを呼んでるのか分かってなかったり、

忘れ物をしてたり、何もないとこでこけたり。

どこからしくなかった。


そして放課後はやってきた。

「ちょっといいかな?」

「えっ、かっ要くんどうしたの?私今日はちょっと。」

「大事なことなんだ」

「あ、その、えと、うん。」

顔が真っ赤になってる。あれ、顔が真っ赤になるような事言ったかな?

ちょっといいかと聞いて、大事な話がある

・・・・・・・・・うん、まるで愛の告白でもするみたいだ。


でもまあ、好都合。たぶんそういう話だと思われてなかったら委員長に断られそうだし。

「じゃあ、屋上にいこっか。」

「・・・・・・・はい」

ああー、女子とかすっごい騒いでる。後で訂正しとかないと。

委員長にも悪いしね。

僕自身は今好きなことかいないからそんな噂が流れてもそこまで問題はないけど。

委員長は僕の後ろをトコトコと歩いてくる。

時々振り返ると「びくっ」ってなる。少し楽しい。

だから何度も振り返って少し遊んでしまったのは秘密だ。




屋上は今の時期あまり人気がない。暑いから。

だから放課後の今人気はなかった。

それが分かってたからここを指定したんだけど失敗したかな。思ってたより暑い。

「あ、あの、要くん?そっその大事な話って何かな?」

すごくきょどってる。暑さと相まって今にも倒れそうだ。

「取りあえず日陰に入ろうか?」

取りあえず給水塔の影の中へ。思ってたよりじらすのって、かなり楽しい。

「それでね、ころさん、大事な話っていうのはね。

 昨日の血みどろ失楽園でのあの気色悪い感触の事なんだけどね。」

「あっ、はい。あれはなんだったんでしょうね。・・・・・・・・・あれ?」

あっ、今頃気づいた。

ころさんって呼んだのに素で返事しちゃったよ、この子。

おどおどとした感じで、もしかしてと聞いてくる。

「あ、あの、ソニアさん?」

「そうだよ。」

「えぇーーーーーっ!」

珍しいな、委員長の大声。


「あっあの本当にソニアさん?けどソニアさんは女の子で、って最初に男だって言われた気が、

 けっけどあれは本当に女の子でちょっとした悪戯だって定説が。」

ああ、そんな風に噂になってたんだ。

これでもトッププレイヤーだから噂はされてるとは思ってたけど、女の子のちょっとした悪戯ね。

しかも定説って、半々ぐらいだと思ってたけど、むしろ女の子だと思ってた人の方が多かったなんて。




――委員長が混乱して五分ぐらい。

「それでそろそろ本題に入っていいかな?」

「あ、どっどうぞ。」

「うん、あの時何かに見られてるように感じた後に、

 体の中をいじくりまわされるような感触がしたんだけど委員長もそう感じた?」

「はい、ただ見られてるっていうのは勘違いかなっていう程度にしか感じなかったですけど。」

「そうなんだ。僕の方が少し感覚が鋭敏だったのかな?そこはまあいいか。

 それで、その時僕は落ちたんだけど、その後ってどうなったの?」

「・・・・・・・・・・」

言うのが辛そう。その後今日委員長が気もそぞろだった理由があるのかも。

「つらいなら・・」

「いえ、言います。むしろ聞いてほしいですし。」

つらいならいい、と言おうとしたところに委員長が食い気味に言ってきた。

話した方が楽になることもあるから。


「それであの体の中をいじくられる感触が結構長く続いたんです。

 実際は十秒ぐらいだったのかもしれません、何分もそうだったのかもしれません。

 それで、いい加減もう嫌だって思った時です。

 私のキャラのアバターがぶれて、少しの間私自身の姿になったんです。

 鏡とかなかったんで手とか、髪とかしかわからなかったですけど、まんま私でした。

 それで、怖くなって私はすぐに落ちたんです。」

「・・・・・・・・・そうか。それは怖かったでしょ。」

自分の姿がゲームの中に?どういう事?分からない。

「いえ、むしろ本当に怖かったのはそこじゃないんです。」

「・・・・・・話して」

十分怖い体験だと思うけど。自分の姿がゲームの中にって。


「はい、朝起きた時の事でした。いつも通り顔を洗って、髪を整えて

 朝ご飯を食べに行こうとしたんです。

 それで顔を軽く洗ってから髪を整えようと鏡を見たら・・・・・」

「ゲームの中のキャラが鏡越しに見えた、と。」

「そうっ、そうなんです。目をこすって何度見ても消えないし。

 鏡の中のゲームのキャラも私が表情を変えたらその通りに表情が変わるし、

 ほんとに私どうしたらって。

 ああ、どうしましょう、要さん。もう頼れるのは同じ経験をした要さんしかいないんです。」

「いや、ちょっと待って年度見ても消えなかった?僕は目を凝らしたらすぐに消えたけど。」

あっ、体をいじられた時間の違いか。僕はトラウマを思い出して意図的に心拍数をあげて落ちたし。


考察の前に委員長をなだめるのが先か。

「委員長、落ち着いて。

 鏡の中に「ころさん」が出て来ただけで委員長の髪が金髪になったりはしなかったんでしょう。

 大丈夫。委員長の体自身は問題なかったんでしょう。

 それに学校に来たってことはもうおさまってるよね。トイレの鏡にそんなの写ったら大変だし。

 だから今は大丈夫。委員長を脅かすのはここにはないよ。」

「がなめさーん」

「おーよしよし、ちゃんと今まで耐えきって偉いね。大丈夫、委員長は強い子、強い子。」

これであってるのかな。他人に泣きつかれるっていう体験なんかしたことないし。

それにがなめじゃないんだけど。かなめだけど。いや、涙声だっていうのは分かってるけど。






――十分後

「すみません、お恥ずかしい所を。」

「いいって、委員長も超常体験をしたんだ。怖くなっても当然だって。

 それにその分だと家族にも言ってないんでしょ。話せないのって結構たまるよね。」

「あの、委員長じゃなくって一葉って呼んでもらえると。私委員長じゃないので。」

「あれ、委員長じゃなかったっけ?」

「それは去年の事です。」

「そうだったっけ。うん、まあ、分かったよ、千代田さん。」

恋人でもない女子を名前呼びっていうのもね。

けど委員長だったら委員長って呼んでもいいみたいに聞こえる。いや、事実そうなのかも。

去年委員長って呼んでても一回も注意されたことなかったし。

「それでどうする?」

「どうするとは?」

だめだ委員長、じゃなくて千代田さん、今の世間話でさっきの話してたこと忘れてる。

「いや、だから鏡の中にキャラクターが映るっていう超常現象。」

「あっ、そうですね。そのこと話してましたね。忘れてました。どうしましょう?」

まさかの天然。委員長のイメージが。


「あー、まあ、しばらく失楽園にインしないっていう事かな?とりあえずは。

 それでその間にネットの掲示板とかで今回の現象について調べるとか。」

「掲示板ですか、あれ苦手なんですよね。なんか悪口いう人が多くて。」

「まあ、スルースキルがないと大変かもね。

 じゃあ、委員長には運営への問い合わせをお願いしていいかな?

 僕が掲示板の方を調べてくるし。」

「問い合わせですか。どういう質問をすればいいんですか?」

「そうだねえ・・・・・・・・

 【ログイン中のフリーズ、及びログアウト含む一切の操作不可の不具合について】

 っていう感じの題名で今回の失楽園中での事を報告すればいいよ。

 これなら運営も調査せざるを得ないし。

 ああ、鏡の中にキャラが見えたとかは書かない方がいいよ。

 頭おかしい人だって思われて調査してくれない可能性があるから。」

「なるほど。けど頭おかしい人って。」

「いや、あの体いじくりまわされるような感覚を経験と、鏡の中に自分のキャラを見てなかったら、

 委員長が変な薬でもしてないか疑うところだし。」

「要くんって何気にひどいですね。」

「ははは、まあ、お気になさらず。」

けどまあ、あんまり運営に期待はできないと思うけど。

この科学万能の時代にあんな超常現象の事を解明しろって言われてもね。

あんなオカルトじみたこと分かるわけがない。



「うん、一応方針決まったし帰ろうか。」

「はい」



委員長とは変える方向が一緒だったからいろいろ話しながら帰った。

この場面を誰かに見られたら告白だったっていう噂がもっと広まるなって思ったけど、

さっきの委員長の情緒不安定ぶりを見てるとひとりで返すのは危なっかしい。

「ところで要くん。」

「んー、なあに」

「なんでネカマやってるんですか?」

今頃来たかー。

「ロールプレイが好きだからかな。あとMAG優先。」

「けどそれにしたってあの演技はまんま女の子にしか見えませんでしたよ。」

追及は続く。委員長、本気じゃないよね。

こうやって追求して僕を困らせようっていう魂胆だろうね。でもこっちにだって切り札があるし。


「いや、だって男キャラが女言葉しゃべってたら奇妙だし、その逆もしかりでしょ。」

「・・・・・・・そんなに奇妙ですか。」

「うん」

ほんとの事言うと気持ち悪いぐらい。奇妙って言うだけにしといてあげたことを感謝するといい。

つまり「ころさん」と言う男キャラを使ってる委員長の事を逆に攻めたってこと。

「そうですかー、そんなに奇妙ですかー」

これは独り言だね。かなりショックを受けてるみたい。

やりすぎたかな?まあ、大丈夫だよね。





こんな日常がずっと続くと思ってた。

血みどろ失楽園にログインしなければ大丈夫だと思ってた。

けどその予想は違った。

だいたい、自分が言ったのだ。あんなオカルトじみたこと分かるわけがない、と。

そう、だから予想できないことを予想してなければならなかったのだ。

だからこうなった。いや、不可避だったのかもしれない。



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