キミボク ころさん、異世界転移7
「わあ」
私は森の中で目が覚めました。
日本では見えるものが森の木々と山しかなく、まったく人工物がないという所はほぼないので
思わずこの初めての異世界での光景に感動してしまいます。
探せばあるのかもしれませんが少なくとも私の住んでいたところの近くにはなかったので。
それからここが異世界であるとはっきりわかります。なんだか空気が違うのです。
魔力、とかそういった物のせいでしょうか?
あの女神の人にこちらの世界の常識や言語は頭の中に詰め込まれたようで、、
知らないはずの事なのに知っているという奇妙な状態になっています。
例えば人の国「ミズガル王国」通称、王国と
獣人の国「パクス国」通称、獣国が戦争してるとか。
そういったもろもろの知識を携えて、
私、千代田 葉月、アバターネーム「ころさん」はこうして異世界に降り立ったのです。
さて、昼寝をしたいぐらいいい環境なのですが、さすがにそんな事をする余裕はありません。
取りあえずこれからの予定を立てましょう。
まずしないといけない事は人がいるところまで行くこと。
次に仕事を探すこと。
まあ、ギルドがあるらしいからゲームの時みたいに戦闘とか探索をしてればとりあえずこれは大丈夫。
けどそのうち戦闘以外の仕事を見つけたいかも。
あと、何かしないといけない事あったかな?
多分ないね。
「さて」
一体人里はどっちにあるんだろう?
「「「グルルルル」」」
「あ、あの、私は食べてもおいしくないですよ。」
「「「グルル」」」
怖いです。やばいです。命の危機です。狼です。
絶賛私は狼に囲まれ中です。
私の親友に言わせれば、狼にかこまれてるナウ、命の危機ナウ、です。
図鑑で見た狼はちょっと犬みたいでカッコ可愛いかもとか思ってたのですが、この狼はすっごく怖いです。
毛もごわごわしてて凶悪な見た目をさらに凶悪にしてます。
しかもそんな狼が複数で私に向かって威嚇してるという状況です。
ただの女子高生にどうしろっていうんですか。
ああ、頭の中にナム(南無阿弥陀仏の略)とか言いながら軽い感じで手を合わせてる親友が見えます。
確か動物と会ったときは決して走らず、じりじりと下がって、って囲まれてるから下がるところが。
じゃあ、体を大きく見せて驚かす、ただし、この方法は相手を刺激するかもしれないから注意、
ってダメじゃないですか。今刺激したら絶対襲いかかられそうです。
そんな現実逃避気味のころさんと狼たちのにらみ合いは続く。
しかし、それもすぐに終わった。
ひときわ大きなボス狼が吠える。
それを合図に矢のごとき速さで一斉に狼が飛びかかる。
動き出したのは同時、しかし速度に差をつけ、波状攻撃を仕掛ける。
とそこまで怯え腰で見ていた男が動く。
スッと、前に一歩、そしてタイミングをずらされ手慌ててとびかかった狼を手で右に薙ぎ払う。
その飛んできた狼が邪魔で右から来ていた狼がとびかかれなくなったのを目の端で確認しながら
音に合わせて足で左後ろの辺りを薙ぎ払う。
とびかかってきていた二匹の狼にヒットして吹き飛び、またそれが邪魔になって狼がとびかかれなくなる。
後はそれの繰り返し。
だんだんと数を減らしていく。
元の数でも勝てなかったというのに数が減れば勝てるわけもなく、
狼たちはボスを含む二、三匹といった少数まで数を減らし逃げて行った。
華麗で洗練された動きだった。
もしこの場に近接戦闘職がいればその動きに畏怖するか、憧憬を抱くだろう。
男は隙のない動作であたりを見渡し、そして
吐いた。
「うえっ」
何なんですか。
私がなにをしたっていうんですか。いえ、狼たちを殺しましたが。
「うっぷ」
うう、思い出したらまた吐き気が。
なっぐった瞬間、ぐにゃり、と肉をつぶす感触が。
うう、せめて剣で叩けばよかった。
えっ、剣は切るものじゃないのかって。やだよ、切ったらスプラッタじゃない。
とっても嫌な思いをしたけど収穫もあった。
戦闘については問題ない。
むしろ「血みどろ失楽園」で素人の私が剣を振り回していた時より体の動きがいい。
戦闘の仕方も分かる。
呼吸するのと同じぐらい自然に体が動いた。これも女神さんがしてくれたのかも。
戦闘については吐き気とか以外問題なさそう。とにかく身の安全を守るという意味では安心できた
でも問題が一つ発生した。
アイテムのドロップがない。
当然だけど「血みどろ失楽園」では敵を倒せばアイテムがドロップした。
たまに複数ドロップで「ーーの心臓」が六個落ちたりといった現実にはありえない事もあった。
逆にアイテムが全くドロップしないといった事もあった。
レア武器とかレア装備とかあなた明らかに持ってたじゃない、
死体からはぎとれたらどれだけおいしいのか、とか思ってた。(ゲームでは倒すと死体は光と共に消える)
それが現実になった。
確かにある意味ドロップ(落ちて)はしている。死体が丸々と全部。
けど思う。
「これは無理でしょう。」
ぐってりとした狼の死体がひい、ふう、みい、とにかくたくさん。
私を囲むように落ちている(ドロップしている)。
冒険者をすることになったら剥ぎ取りとかどうしよう。
他の人にやってもらうとか?
取りあえずソニアさん、じゃなくて要くんの言ってた通り自分が生き残るためにも戦闘に慣れないと。
正確には生き物を殺す感覚に。
慣れたくはないけど取りあえず気にしないことがどうにかできる程度にはなっておかないと。
ソニアさん、じゃなくて要くんが言うには一ヶ月は生存を優先だっけ。
だったら戦地とかそういう所を探して魔物を倒す、いや、濁すのはやめよう、魔物を殺す。
それで生き物を殺すのに慣れる。
頭の中にある知識にはこっちのたいていの魔物はゲームで例えれば雑魚程度しかいないみたいだし、
それなら大丈夫。
それに大物をしとめれば当分のお金の心配もしないでよくなるから一石二鳥。
「さて」
予定が決まったから狼たちはアイテムボックスに入れて行こうか。
今はまだ無理だから剥ぎ取りできる人に会ったら解体してもらおう。
結構順調に異世界に適応できてるんじゃないかな、私。
殺すのとか嫌なことはあったけどそう未来を悲観しないでも良さそう。




