リー
ベッドの上ですやすやと寝息を立てている子供を見る。
いや、そんなに健康な感じではない。
息をしている事を除けば死んでいると言われても信じそうな感じだった。
その無機物めいた様はまるで精巧な白磁のビスクドールを思わせ、
豪奢なベッドと相まってその空間が一つの芸術品となっている。
題をつけるとしたら「永遠に覚めぬ少女」だろうか。
「はあ、」
難題であった。
彼女がいたクレーターの所で見た魔物達。
その内の一体の虎。
スタンピードの時に応援として何者かによって召喚されたモノ。
あの白いトラ一体の戦力はこの西のファミリーの総戦力をこえていた。
あの場にいた魔物達が全部白いトラほど強かったわけではないだろうが、
それでもそんな存在達があの場にいたという事が問題だ。
スタンピードの時白いトラ一体を使役するような存在の機嫌を損ねるのを避け、
白いトラを囮にして逃げるようなことはしなかった。
それがあの数いた。
この少女があの存在達とどうかかわっているかは不明だが、どうかかわってるのかわからない以上下手に行動するべきではない。だから方針としては少女がどういう存在なのか直接聞くという事なのだが・・・・
わずかに息をするだけで他はピクリとも動かない。
そして寝てるから何も食べさすことができない。
そうだと言うのに少女は弱ることはない。
とはいっても快方に向かう事もない。
本当にビスクドールにでもなってしまったかのように変化がない。
汗を書いたりもしないため世話をする必要がない。
ただ、何が起こるかもわからないからあまり目を離すわけにもいかない。
そんな少女を町の西に位置する歓楽街の顔役であり、ここら一体のファミリーの頭領でもある、
リーは持て余していた。
あの白いトラたちが消えた理由が不明なのだ。
もしあの白いトラ達をもうわまる存在がいたなら、
そしてこの少女をそんな存在が狙っていたら、そう考えると怖い。
しかし彼女を放りだすわけにはいかない。
前金をもらいすぎていたからだ。
あのぼろぼろの女が前金だと言って地面に落とした皮袋には多くの宝石と白皇貨という大商人の取引ぐらいしか使わないような硬貨がぎっしり入っていたからだ。
はっきり言って異常な金額だった。
そんな大金を受け取っておきながら放り出すのは信用問題にかかわる。
辺りに誰も見当たらなかったが、あの時受け取った物が残ってるし、何より彼女の信念に反する。
というような彼女の信念の問題もあるが、あの白いトラ達を使役しているような存在が守っていた存在を放り出したらどうなるか分からないという事の方が大きい。
だからと言って何が起こるか分からない危険なものという事にかわりはないので、
少女に関わる人数は最小限にしている。
というより、少女の世話はリーのみで行っている。
食べ物も何も必要ないため執務の途中で見に来るだけでいい。
後は自分の部屋にだれも立ち入らせない事か。
さわり心地のいい布団をまくって少女の胸を露出させる。
黒い上等の服に包まれた少女の胸は全く動いているようには見えない。
その胸に頭を当てる。
すると少女の心臓の鼓動が聞こえる。これがリーのこの頃の日課になっている。
一定のリズムで心臓は動く。
それだけが少女が生きている事を実感できる証だった。
その音を聞き、リーは安心する。
この部屋に少女が来てからはや一月。
リーは少女に情が移っていた。
一人暮らしのリーは仕事に行くとき少女に「行ってきます」といい、帰ってくると「ただいま」と言った。
だから傍目には生きているかも分からないような少女に不安感を感じていた。
とくん、とくん、
リーは今、とてつもなくリラックスしていた
 




