スタンピードの裏方
「ふぅ、なんとかなりそうだね。」
目をつぶってる私のを除いて五つの視界を共有した状態でつぶやく。
深層から湧き出てくる魔物は数が少ない。
私の魔物だったら大量の雑魚よりか少量の強い魔物の方がありがたい。
強いといってもほぼすべての魔物は一撃で倒せるんだし、他の人たちを守るにはその方が都合がいい。
もうぽつぽつと強そうな(見た目のみ)魔物が湧いてくるだけだ。
結局魔石はちょっと使うだけだった。
これなら最初から介入してもよかったな。
そうしたら死者が出ることはなかったのに。
スタンピードがどれくらい続くのかわからなかったから魔石の在庫を考えると、
途中から介入するのがあの状況での最善とは言えないけど最良の判断だったから仕方がないとはいえそれが今回のスタンピードでの心残り。
とはいえそこまで精神的なショックはない。
こっちに知り合いはいないし。
いや、多分もう他のプレイヤーもこの世界に来てるだろうけど、この周辺にまで来てないだろうし。
よしんばいたとしてもあの程度の魔物達にやられないだろうし。
・・・・・・・あれ?いや、こっちの世界に来る人が上位プレイヤーだとは限らないよね。
中位プレイヤーや初心者が来ることだってあるよね。
さーっと血の気が引いていく。
計画立てるの失敗したかも。
自分と同程度プレイヤーがこっちの世界に来るっていう想定で計画を立てた。
だからお金を稼ぐのだって魔物や魔獣を狩れば簡単だって思ってた。
こちらの世界に慣れれば中級でも一流並みの実力を見せることができるだろう。
けど初心者だったら?町の外に出現する普通の魔物相手でも厳しいかもしれない。
どうしよう。
焦りでうまく考えがまとまらない。
それに地面がなくなったかのような感覚もする。体が無意味に前後に揺れる。
いや、けど初心者だってそれなりには戦えるんじゃ、いや、初心者と言っても一口には言えないし、
むしろソピアがそういう人たちを選んでこっちに連れて来るという可能性も、
けどソピアの性格的に考えたらまんべんなく平等に連れてきてそう。
そうだとしたら初心者が来るんだけど、これは私が勝手に想像してるだけで。
激しい運動をしたあとみたいに息切れがする。
だんだんと息が苦しくなる。
そうして私は倒れた。
あっ、これ焦りの精神から来るのじゃなくて魔力切れかも。
そう思いながら。
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(・・・・・・ここは?)
少女は目をふさがれているのでどこか分からないがどこかのの倉庫のようだ。
普段使っていないのかどこか埃っぽく薄汚い。
「〈おい、相棒。お姫様が目覚めた様だぞ。〉」
「〈これが姫ならとんだお寝坊さんだな。あんなスタンピードの中眠ってるなんて。〉」
「〈まあ、そのおかげでこうして相棒と俺がうまい汁を吸えるんだがな。〉」
(言葉が分からない?
・・・・ああ、そうだった。私は今ソニアだった。
ソニアになってこの世界で生きているんだった。)
目隠しをされ、さるぐつわをされた少女は重い頭をもたげ起きようとする。
しかしその行動は達成されない。
少女の体は縄でがちがちに縛られていた。
「〈おいおい、相棒。可哀そうなことしてやんなよ。どうなってんのか分からないって顔してるぜ。〉」
「〈縛ったのはお前だろうが。〉」
「〈縛れって言ったのは相棒だろうによ。しかも俺はさるぐつわまでしろなんて言ってないぞ〉」
「〈お姫様が魔法使えそうだからな。〉」
「〈とか言いながらそれは相棒の趣味だろ。
魔法使えなさそうでも騒がれないためとか言ってなんだかんださるぐつわと目隠し着けるだろ。〉」
「〈・・・・危険を冒さないためだ。〉」
そんな理由で少女は目隠しとさるぐつわをさせられてるのだ。
そのせいで少女は周りの様子を全く把握できていない。
場所としてはロータスの西のはずれもはずれなのだがそこも分かっていない。
不安なのか少女は周りの様子を探ろうと後ろ手に縛られてる手が地面を探るがそこにあるのは土だけだ。
(召喚・ネルヴァ・・・・やっぱり発声しないと無理。この状況どうしようもない。
誰かに助けてもらうしかどうにか助かる方法がない。助けがなければ・・・・・)
少女の顔が恐怖に彩られる。
しかしその表情はすぐに消えた。いや、消したようだ。
表情が崩れれば心も揺らぐ。そう普段から思っているため無意識に平常時の顔を無意識に取り繕う。
目隠しとさるぐつわによってそれは男たちには気づかれなかった。
少女自身も恐怖の表情を浮かべたことに気付かなかった。
そんな短い間だが少女は確かに恐怖の表情を浮かべたのだ。
「〈それで相棒。スタンピードに乗じてさらったはいいがちゃんと捌く方法は考えてるんだろうな?〉」
「〈ちゃんと考えてる。人族の貴族の使者を名乗る奴がいい奴隷が欲しいと言っていた。
そいつに高値で売りつける。〉」
「〈腹立たしいことに今の時期は戦争成金がいるからな。多分そいつもそう言うやつだろうさ。
元からの金持ちは俺たちから買おうとは言わんかんな。〉」
そこまで相談したところで相棒と呼ばれていた方が少女の体をなめまわすように見て唾をのむ。
「〈いつも通り売る前に楽しんでも?〉」
「〈ちゃんと処女かどうか確認してからな。
まあ、この年じゃ相棒が望んでるようなことはないだろうけどな。〉」
「〈まだ可能性はある。金に困ってとか、レイプとか。〉」
「〈はいはい。〉」
少女の服が脱がされる。
(これってまさか・・・・、いや、いやだ。なぜ、僕が、いや、私が、どうすれば、どうしたら)
当然少女は抵抗するが非力な少女の力では抵抗にならず、男を楽しませるだけに終わる。
「〈ちっ、処女か〉」
「〈まあ、当然っちゃ当然だな。孤児ならともかくな。破るなよ。新品の方が高く売れるからな。〉
「〈仕方ないか。他の所で楽しむことにするか。〉
相棒と呼ばれていた男の手が少女の体をまさぐる。
「〈毎度思うけど、よくこんなちみっこいの相手にやろうと思うな?〉」
「〈お前もさわってみろ。肌なんてすべすべだろう。〉」
「〈いや、それ子供だから当たり前だろ〉」
「〈それに体温も高く心地よい。〉」
「〈いや、それも子供だからでって、ああお前ロリコンだったな。聞いた俺が馬鹿だった。〉」
(気持ち悪い、気色悪い。男の気色悪い欲望が伝わってくる。はやく早くどうにかしないと。)
少女はなおも暴れようとしているが、完全に押さえつけられ身じろぎ程度にしかなっていない。
「〈上物だからやろうと思えばやれると思うけどなんかいやだから俺はパスな。〉」
「〈もったいねえなあ、この良さが分からないなんて〉」
そう言いながらふと少女に目を向けると目隠しがずれて少女のうつろな眼眼と目が合った。
先ほどまで抵抗しようとして動いていたがそれもなくなっていた。
「〈おいおい、やる前から壊れたのかよ。メンタル弱すぎじゃねえか。ったくとんだ箱入り娘だよ。〉」
軽いその調子にもう一人の男が抗議する。
「〈相棒、壊しちまったら値が下がる。やるのはよしとけよ。〉」
「〈・・・・・・だめか?〉」
「〈ああ、だめだ〉」
二人の男の視線は少女から外れていた。
この時二人が、いやどちらかが少女のに気を配ってればこれから起こることは回避できたかもしれない。
少し前まで少女の顔に浮かんでいたのは絶望、諦め。それによって男たちにうつろな印象を与えていた。
しかし今はどうだろう
その顔に浮かぶのは何でもない。
人形然とした容姿に人形然とした無表情の顔、それはあまりにも人形じみている。
今の少女には全く人間味が感じられなかった。
男たちが少女の事を見ていればそのあまりの不自然さに逃げ出していたかもしれない。
それほどまでに今の少女は違った。
少女は限界だったのだ。
性別や生活環境の変化、聖者の腕輪と騙されてつけられた魅了の腕輪
少女を例えるならそれはそう、机の上に置かれたグラス、そこになみなみと水が入れられ表面張力で何とか持っている状態、そんな感じだったのだ。
机が少し揺れただけでも水はこぼれてしう。
そんな不安定な状態に陥っていた時にこれだ。
元彼な現彼女は彼女として生活していた。
彼として生活していたころの未練を断ち切るため、忘れるため。
最初は演技も混ざっていたのだろう。しかしいつしか彼女は自然に彼女として存在していた。
しかしそれは彼女の中から彼がすべて消え去ったという訳ではなかったのだ。
彼女にとって男に犯される、そういう状況に陥ったのは多大なショックを受けた。
彼にとって男に犯される、そういう状況に陥ったのは致命的だった。
簡潔に言うとアイデンティティーの崩壊
この時彼は彼女は死んだと言ってもいいかもしれない。
彼とも彼女ともしれぬ曖昧だったのだがこうしてソニアに統一された。
そしてこの時ソニアは犯されるという恐怖におびえ奥深くに引っ込んでしまった。
時を同じくして彼は死に、彼女も死んだ。そしてソニアは心奥深くに引っ込んでしまった。
その結果がソニアの表情だった。
いや、結果というのはおかしいだろう。表情は副次的な事に過ぎないのだから。
そして壊れてしまったが故か、それとも使ったが故か分からないがある事象が起こる。
ソニアが何度も使いたいと思いどうにか使おうとしていた召喚魔法が発動した。
無秩序に、何の見境もなく様々なものが召喚された。
主力級が二十体は居るだろう。小さいのも含めると百を超すかもしれない。それほどの数だ。
男たちに見えたのは倉庫の中に現れた二、三体だったが、それでも絶望するには十分強大な敵だ。
特に男達の正面にいる見た目は普通の人族の女がやばい。その目はイッテしまっている。
男たちの背後にいるのも、倉庫の外にいるのも全て目がイッテしまっているのだが、女のプレッシャーに目をそらすことができない二人には分かりようがない。
あたかも目をそらせばその瞬間に殺されてしまうとでも思っているかのように。
そうして硬直していたのだが、ふと女の気がそれた。焦った様子で辺りをきょろきょろと見回している。
何か焦っているようだが、そんなこと男たちには関係ない。
少女を人質にとる、そういう事も全く考えずに何とかこの場から逃げ出そうとした。目指すは倉庫の出口
そして男たちが動いた瞬間に女も動いた。
ひっ、と声を上げ思わず棒立ちになった男たちには目もくれずに拘束で駆け寄ったのは少女の傍。
そして少女に覆いかぶさるように自らの身を伏せた。
訳の分からない行動を女がとってあっけにとられていた男たちは次の瞬間見た。
外からの力で倉庫の壁が壊されるところを。
そして男たちが見れたのはそこまでだった。
なぜなら痛みを感じる暇もなく死んでしまったのだから。
今まで召喚魔法が使えなかった要因は二つ
魔力切れから脱していなかった事と、口を封じられていたことにより詠唱ができなかった事
ゲーム時代にはなかったことだが、この世界ではMPつまり魔力が切れると色々な不都合が生じる。
気分が悪くなったり、意識を失ったり、魔力が自然に回復しなくなったりする。
他にもひどい時には視力の低下など後遺症が残る場合がある。
だからこの世界の住人は魔法を使う時にはまず魔力の残量についてくどいくらいに注意を受ける。
しかしソニアの認識では魔法が使えなくなる、少し体に悪いんだろう。その程度にしか思っていなかった。
だから魔力の残量をそこまで気にしていなかったため魔力切れが起こったのだ。
ソニアの魔力の自然回復の量は多いが魔力切れのせいで召喚魔法を使えるほどの魔力量がなかったのだ。
しかし魔法が使えた。
致命的に壊れたソニアは意識せず惰性のまま召喚魔法を使おうとした。そして生命力にまで手を付けた。
普通生命力を使って魔法を行使することはできない。リミッターがかかっているのだ。
そんな当たり前の所さえ壊れてしまった。そして生命力に手を付けた。
だから魔力がない状態でも召喚魔法を使う事が出来た。
そして詠唱なしで魔法が使えたのはレベルが上がったからだ。
ゲームでのソニアのレベルはカンストしている。
しかし経験値についてはカンストしていなかったのだ。
ゲームの仕様としてレベルがカンストした後も経験値はたまり続けていたのだ。
ただただ増え続ける経験値は一種の称号的な要素だったのだが、今は違う。
そしてソピアはソニアたちをこの世界に持ってくるときにできるだけゲームの仕様を再現した。
その経験値がたまりにたまっていた状況に強烈な経験をした。その衝撃によりレベルが上がったのだ。
いや、この世界にレベルというゲームのようなものはない。だからこう言い表そう。
存在としての階梯が上がったのだ、と。
そして無秩序に召喚された召喚体達はソニアからの一つの指令を遂行すべく一斉に全力で動いた。
現状打破。
つまり男二人をどうにかするという事に。
そしてブレスが、魔法が、酸が、投擲が、凍える息吹が、あらゆる攻撃がくりだされた。
連携も何も考えず、ソニアの事すら考えずにくりだされたその攻撃は接近戦しかできず男たちに近づき攻撃しようとした召喚体達をも消し炭にした。しかしそれだけでは足りず倉庫を粉みじんに。
さらに攻撃は倉庫を壊すだけでは足りず、すさまじい衝撃がネルヴァ達をも襲う。
幸運だったのは召喚体達の攻撃が立っていた男たちを狙っていてネルヴァ達は伏せていたこと、
ほとんどの攻撃が他の召喚体の攻撃で相殺されたこと、
さらに接近戦しかできない召喚体が男たちのもとに殺到しようとしてそれもまた壁になったことだろう。
しかしその攻撃は余波だけで簡単に人を殺せる威力を持ったいた。
いかに強いネルヴァと言えども素のままで耐えることはできない。
それを悟ったネルヴァはこちらの世界で習得した魔法で結界を貼った。
魔力もできる限り放出して出来る限り威力を抑えようとした。
その結果、ネルヴァとソニアは・・・・・・・・・・・




