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キミボク  作者: きつねさん
中立都市へ
24/51

キミボク    スタンピードの知らせ

「ねえ、もうちょっと先まで行ってもいいんじゃない?」

「大丈夫だと思います。」

「・・・・・・」

獣人の女戦士と女シーフ、人族の女魔法使いの三人の女性と一人の人族の男性とハーレム状態なパーティーがダンジョンの中でこれからどうするか相談していた。

「そうだね。このメンバーならいけるね。もう少し先に行こうか。」

このパーティは新米冒険者、ではなく若手ながらダンジョンの最前線付近を潜っている腕利きだ。

若いので経験不足はあるモノの、若さから来る体力や幸運で補ってきた。

今も話している最中ではあるが、ちゃんと周りを警戒している。

今はなしている場所もT字路の交点で例え二か所から敵が来たとしても撤退が可能な所を陣取っている。


そして今日はもう少し先まで進もうと決めた所で彼らはばっ、と臨戦態勢を取った。

足音が聞こえたのだ。

ダンジョンで出会うのは魔物か同業のものか。

どちらでも油断はできない。

同業のものだとしても襲われる可能性はあるのだ。

しかもこの頃は戦争の影響なのか色々ときな臭くなっている。むしろ同業の方が警戒するべき相手だ。


「敵が多すぎる。撤退推奨」

猫耳をぴくぴくさせていた女シーフが他のパーティーメンバーに伝えた。

「具体的にはどれぐらいなんだい?」

それがギリギリ戦えるぐらいなら戦うと提案しようと言うのだろう。

好戦的な色を目に宿らせ女シーフに聞く。

「二方向から二十以上。それ以上は判別不可。戦うなら私はパーティーから抜ける。」

命が惜しい女シーフは今にも走り出そうとしている。

「撤退しよう。」

「ちっ、確かにさすがに無理だな。数もだが二方向ってのがまずい。」

リーダーである男の判断に女戦士は悔しそうにしながら従う。

「ですがまずいですね。この階層の入り口は魔物がいる方ですよ。かなり遠回りしていかないと。

 それに迂回して入り口に戻る道はまだ発見できてませんからある程度運に頼って行くしかないです。」

マッピングしていた女魔法使いが自作の地図を見ながら言う。

「それはまずいな。今のうちに突破しておいた方が確実かもしれないな。

 二方向に二十以上だから、片方の数は十ぐらい。

 今まで稼いだ魔石とかを使って赤字覚悟で行けばいけるか。」

リーダーは突破しようと決めた。

今赤字になろうと命あってのものだねだ。それに彼らは最前線付近を探索しているのだ。

装備にお金が飛んでいくが、蓄えはそこそこあるから大丈夫だ。


しかしそうはいかない。

「片方で二十以上。判別不可なだけで実際はもっと多い。もう片方も同じ。」

二方向合計で二十ではなく、二方向から二十づつ敵が来てるのだ。



「撤退で決定だな。」

「これは撤退するよりほかないね。」

「撤退しましょう。」

女戦士、リーダー、女魔法使いも撤退を即決めた。


「まあ、なんとかなるだろう。先導は任せた。」

「はい、任されました。けど行き止まりにたどり着いても勘弁してくださいね。」

リーダーの言葉に冗談めかして女魔法使いが返答する。

「そんときゃ突破すればいいだけさ。」

女戦士が気合を入れる。

「・・・・・・」

女シーフは無言で周りを警戒しながら走る。

良いパーティーである。

こんな窮地であっても冷静にパニックにならずに行動できている。


しかし何事もうまくいくとは限らない。それが現実だ。

「嘘だろ。」

遠くに魔物が見える。進行方向に。そう多くはないがすぐに突破するのは難しい。

戦っているうちに後ろから追ってきている魔物達が合流するだろう。


後ろについて来ている魔物の数はかなり増えていた。

モンスタートレイン状態だ。

褒められて行為ではないが幸か不幸かこれまで他の探索者と出会う事はなかった。


ダンジョンでは階層をまたいで少しの間逃げれば魔物は追ってこないはずである。

それを希望にこれまで逃げていた。しかし眼前には敵。絶望しかなかった。


皆無言だった。

これで終わったのかと。

その時女魔法使いが顔を上げた。

「ありったけの魔石を私に下さい。」

「おまえ、まさかっ!!」

「それ以外に方法はありますか?私なら時間を稼ぐことができます。

 その間に突破して逃げ延びてください。時間稼ぎに終始するのであまり数を減らす事はできません。

 急いでくださいね。」

無理やり他のパーティーの荷物を奪い取る。

今まで潜ってきて勝ち取った素材や魔石がそこにある。

「あとこれを。」

「これは?」

女魔法使いが首から下げていたネックレスを女シーフに渡す。

受け取った女シーフはそれが意味することを理解できなかった。

「ほらっ、呆けてる暇はありませんよ。さっさと行ってください。」



「くっ、くっそおおおぉぉーーー!!」

リーダーが進行方向にいる魔物達に突っ込んでいく。

女魔法使いの犠牲を無駄にしないためにも。

それに女戦士も続く。

悲しみと悔しさ、この状況とそれをどうにもできない自分への怒りが入り混じった顔で。



「ほら、あなたも早く逃げてください。」

残った女シーフをせかす。

女シーフは丸く光ったものを手渡す。

「これはネックレスのお返しですか?」

それは握りこぶし大の大きさだった。女魔法使いはよく分からないが冗談めかして女シーフに聞く。

「爆弾。少量の魔力を注ぐと爆発。最後に使うといい。」

それだけ言い残して女シーフはさっさと去って行った。


「ふふっ、あの言い方だと最後に時間を稼げと言ってるように聞こえますね。

 相変わらず不器用な子。」

自殺用にという事だろう。楽に死ねるようにという。

「さてっ、最後にひと仕事がんばりましょう。」

女魔法使いは魔石から魔力を補充しつつ詠唱を始める。

魔力を湯水のごとく使えればこの程度の敵の足止めなどたやすい。もしかしたら全滅させられるかも。

逃げ五指になりかける自分をそう励ましながら。














ドカンッ!!

どこかから爆発の音が聞こえた。

女シーフがピクリ、と動いた。

その爆発が意味することは女シーフにしか分からない。

「次は右」

しかしそれを表に出さずに先導を続ける。

女シーフの胸にかかっている女魔法使いからもらったネックレスが光を反射してきらりと光る。



もはや周りは敵だらけ。

階層の入り口の方向に向かうというより、敵を避けて進むことしかできない。

一応階層の入り口に近づいてはいるが、今まで走った距離に比べれば微々たるものだ。


若く、体力があるとはいえ疲労がたまり始めていた。それでも三人はまだいけると思った。

しかし何度も言うが現実は酷なものだ。

また進行方向に敵が見えたのだ。

しかしまだ大丈夫だ。前方の魔物は二体だったからそのまま突破できる。何も倒す必要はないのだ。


一当(ひとあ)てしてそのまま通り過ぎる!いいなっ!」

「おうともっ!」

リーダーと女戦士が突っ込む。女シーフは鉄串を投擲して援護。

先ほどから何度かした行動だ。


それが油断を生んだのかもしれない。疲労もあった。

しかしそんな原因など彼らには関係ない。

女戦士が足に大きな傷を負ったという事実があるだけだ。

交錯際、魔物の振るった爪が女戦士の足を切り裂いたのだ。


「くっ」

悲鳴を押し殺しながら敵を切り裂き殺す。

「おい、あんたらっ!先に行け。私は適当に間引いてから追いかける!」

「・・・・・・分かった。」

リーダーは何も聞かず、何も言わずに走り出した。それがせめてもの情け。

女シーフは丸く光ったものを取り出して渡す。

「ああ、やっぱりあの爆発はあんたが渡したんだね。まあいいや、ありったけよこしな。

 出来るだけ時間を稼いでや、じゃなかった。大量に間引いてから追いかけてやるよ。」

爆発音から女魔法使いが死に際に自爆したと予想はしていたのだろう。

そしてそれを渡したのが女シーフだと。

女戦士の申し出に女シーフは首を振る。

「それ自殺用。それにあと一個しかない。」

「じゃあ、それだけでいいさ。二個使って盛大に道連れして逝ってやるよ。」

女戦士はもはや追いかけるという風に言葉を取り繕う事はなかった。

しかしこの申し出にも女シーフは首をふって断る。

「最後の一個は私が使う。」

それだけ言って女シーフは行こうとする。

「待ちなっ。」

女戦士は右手にはめていた指輪を取って女シーフに投げ渡す。

「爆弾の礼だよ。それからそれなりに長い付き合いなんだ。いい加減あんたの名前教えなよ。」

受け取った指輪をギュッと握りしめてから女シーフは答える。

「孤児だから名前はない。でもヒスイと呼ばれてたことがある。」

女シーフの目の色の目の色はきれいな翡翠色だった。そのまんま呼ばれただけだろう。

それだけ言って女シーフは走って行った。

その背に向けて女戦士は叫ぶ。

「あんたに名をやるっ!これからはヒスイと名乗りなっ!!」

聞こえただろうか?

今まで名もなかった少女を思う。


「ちっ、ちょっとは風情ってもんを察しなよ。」

追いついて来て襲いかかってきた魔物を斬る。

そして腰に下げていた小瓶をぐびっと煽る。ドーピング薬だ。

今まで使わなかった理由は単純。

他のメンバーと速度を合わせるためっていうのが一つ。

もう一つは使えば副作用で必ず死ぬという理由だ。命を燃やしているようなものだ。

「さてさて、爆弾を使うのと私の命が尽きるのとどっちが先かね?」

女戦士は爆発的にあがった身体能力で襲いかかってきた魔物を比喩でなくばっさばっさ切り刻んでいく。









ヒスイとリーダーは無事階層をこえることができた。

その時、遠く聞こえるか聞こえないかといったところで爆発が聞こえた。

二人の犠牲のおかげで生き残れた。

そう思ったがおかしい。

階層をこえてしばらく逃げたというのに魔物達はまだ追ってくる。

その時リーダーがこけた。

それをヒスイが助け起こす。

もう二人とも体力的にギリギリなのだ。


「おう、すまんな。」

助け起こされたリーダーが礼を言う。

「別に」

ヒスイはそっけない。

「私が殿(しんがり)。スタンピードの報告を。」

「いや、お前が行くべきだ。スピード的にもお前の方が生き残れるだろう。

 スタンピードの報告はしないといけない。少しでも可能性のある方が行くべきだろう。それに・・・」

リーダーは丸く光った握りこぶし大の物を女シーフに見せる。

「自殺用だろ。なら持ってる人がしんがりになるべきだよな。」

ヒスイは懐を探る。そこにあったはずの物がない。

「変態」

「いや、お前のようなちんちくりんに欲情はしないっての。」

ヒスイがリーダーをジト目で見る。

「分かった。」

しぶしぶヒスイは受け入れる。爆弾をすられたのが悪いのだ。

「あっ、ちょっと待て。これもってけ。」

懐から腕輪取り出して投げ渡す。

「売ったらそれなりの金にはなるだろ。

 次のパーティーを見つけるまでのつなぎに使うといい。じゃあ、またな。」

受け取って無言のままヒスイは去って行った。

「あいつにもう少しかわいげがあればなあ。

 まあ、いまさからか。さてさて、あいつのためにももう少し頑張るかな。」

残ったリーダーは魔物の群れに向かって行った。








一人残ったヒスイは走って行く。走って走って走る。

火事場の馬鹿力かなんなのか、ヒスイはなんと魔物達を置き去りにし、まくことすらできた。


そしてダンジョンの外まで出て疲れに汗を散らしながら叫ぶ。

「スタンピードの予兆あり、迎撃準備をっ!」

その言葉は探索者のみならず民衆にも伝播する。

一般人は人を押し倒さんばかりの勢いに都市の入り口へ向かい、

探索者たちは探索者ギルドに集まりスタンピードへの対策を練る。

もっとも、かなりの数の探索者が一般人に交じって逃げ出しているみたいだが。

それも無理のない話だろう。

過去に起こったスタンピードは小国とはいえ一国をつぶしたことがあるのだから。



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