血みどろ失楽園
八月八日誤字訂正
「ソニアさん、今日閻魔狩り行きませんか?」
MODの「血みどろ失楽園」にインして今日は何をしようかと「黄昏の噴水」の前の広場で悩んでると、
大剣を持った、筋骨隆々で金髪の漢の中の漢といった
キャラのプレイヤーが声をかけてきた。うん、顔見知りだからいいけど初対面だったら逃げるかも。
失楽園での私は背が低いから相手の顔を見ようとしたら、見上げるようにしないといけない。
その筋骨隆々のプレイヤーだが、言葉遣いが致命的に外見と合っていない。
まあ、中の人は女性だから仕方がないけど。私の予想があってたら、リアルで知ってる人だし。
あれ、16ぐらいなら女子と言った方がいいかな?
よく分からない。
失楽園ではネカマ、ネナベが可能である。
というか、VRで実際に会ってるんだから、ネカマ、ネナベじゃなくて、
おかま、おなべと言ってもいいと個人的には思うんだけど、ネカマ、ネナベと呼ばれている。
そうそう、女性は魔力方向に、男性は筋力方向に補正があるから、
ネカマとかじゃなくても違う性別のキャラを使っているけど、口調は元のまんまっていう人は結構いる。
その時は「女キャラ使い」「男キャラ使い」とか言う。
後は「STR重視」「MAG重視」とかいう時もある。
僕、じゃなくて私はネカマかな。
ネカマって言っても初めて話す時はちゃんと相手には自分が男だって言ってる。
その後は男だと言われても否定しますけど。
私は女の子になりたいっていうより、ロールプレイが好きなんだ。
つまり「ソニア」という役になり切ってこの失楽園をプレイするっていう事だね。
だから、一人称は僕じゃなくて私って言うようにしてるし。
と言うか今ではもはや演じてるっていうか、ソニアになってるっていう感覚。
ロールプレイ好きとしては、TRPGはやってみたいけどやり方もよく分からないし、面子もいない、
さらに「血みどろ失楽園」をしてるからやる時間がないわ、でやったことはない。
他の理由は私が失楽園でしたかった職業が魔法職だったから、「MAG重視」にしたっていう事だね。
やりたい職業が物理職だったら、
男キャラで普通に、といってもロールプレイしながらやってたんだろうけどね。
それと、最後の理由にして最大の理由
「うーん、どうしましょう。私、昨日も閻魔狩りに行きましたからねぇ。」
「えー、だめなんですかっ?お願いします。新しい装備を作るための素材が必要なんです!」
筋骨隆々の大男が女言葉を使ってるとちょっと・・・・・・・きもちわるい。
いや、本人に言ったりしないけど。
多分、これよりかはひどくならないと思うんだけど、ね。
それでもこうなるかと思うと、ちょっと・・・。
結局「ころさん」と閻魔狩りは行くことにしました。
あっ、ちなみにこの大男のキャラネームが「ころさん」です。
さん、までが名前だから、さんをつけて呼ぶと、ころさんさんになってしまうので呼び捨てです。
「じゃあ、とりあえずネルヴァ召喚しちゃいますねー。【魔法、召喚、ネルヴァ】」
私が魔法を発動すると、魔方陣が地面に現れて、その中から巨大な狼が出現する。
種族名は天狼。狼系の中では最強の種族。
このゲームの初期からずっと一緒にいる私の相棒
ウルフと言う最弱の種族から天狼と言うところまで苦労して育て上げた。
「【スキル、指令、ネルヴァ、変化、魔人化】っと。」
新たにスキルを唱えると、巨大な狼がまばゆく光りネルヴァが変化していく。
そしてその光が収まるとそこには一人にメイドがいて、こちらに一礼した。
「ほんといつ見てもすごいですよね。あの質量はどこに行ったんでしょうね?」
ころさんが少し的外れな驚き方をしている。
魔法がある世界で質量がどうのこうの言ってたら何も始まらないし。
この魔人化の本当にすごいところはもちろんそんな事ではない。
なにしろ一年に一回しかない、イベントで優勝した時の報酬で魔人化を覚えたんだし。
基本的な効果は能力全般の強化と、人のサイズになるから飛び道具とか魔法が当たりづらくなるっていう事だけど、すごい所が分かるのはこれからだ。
道中の敵はほとんどネルヴァの伸ばした爪の露に消えた。
ネルヴァは普通に武器も使えるけど、やっぱり自前の爪が一番強いと私は思う。
ちょっとした小剣ぐらいには伸びるし、何か魔力的な爪なのに属性は八割物理、二割魔法だし。
ネルヴァのステータスはどちらかと言うと戦士寄りだからこの爪はちょうどいい。
あとは、間合いの関係で投げナイフとかは結構使うけど。
ちなみに投げナイフにも魔人化が関係している。
ネルヴァは魔人化してから武器インベントリっていうのを手に入れた。
武器しか入れられないけど、その中に入ってる物は瞬時に取り出せるっていうもの。
投擲アイテムは入れられないけど、投擲武器は入れることができる。
だから、投げナイフとか、手裏剣とか、投槍とか、他にもいろいろと。
武器インベントリから瞬時に取り出して投げるんだよ。これ、すごい便利。
私もころさんもトップ層と言われるぐらい上位にいるから、
ここら辺の敵は全く問題ないのだ。
それにネルヴァが魔人化を覚えてからここは何度も通ってる。
だから、ここら辺の敵の情報をネルヴァはすでに学習済みだ。
この学習が魔人化のすごい所。
魔人化は覚えた召喚体のAIの格を上げる。
魔人化を覚えていない場合、召喚体は一定の行動ルーチンに従って行動する。
召喚体によって個体差はあるから一概には言えないけど、
リッチの「クロスケ」は攻撃魔法を大体、闇7、火2、風1ぐらいの割合で使う。
それで、例えばバンパイアと戦闘になった時に、クロスケはさっきの割合で魔法を使う。
けど、バンパイアは闇魔法に耐性を持ってるから、闇魔法はほとんど効かない。
それが、魔人化を覚えると、戦闘中に闇魔法が効きづらかったらそれを学習して、
火魔法と風魔法を使うようになるっていう感じ。
私が闇魔法使うなって命令したらいいんだけどめんどくさいからね。
最悪の場合、召喚体五体に命令しないといけないし。それに敵モンスターによっては耐性が違うし。
ここでは魔法の属性を例に挙げたけど、
この学習は体捌きも関係してるからだんだんネルヴァの近接戦闘とかも動きが洗練されていってる。
「ソニアさんのネルヴァって本当に便利ですよねえ。」
ネルヴァが敵を露払いしてくれてるのを見てころさんが感想を言う。
何気なく思ったことを言ってるだけなんだろうけど、少し不快だ。
長年一緒にいれば、たとえそれがただのデータだろうが愛着がわく。
その愛着がわいているネルヴァを便利、と道具扱いされるのは少し不快。
「・・・・・【魔法、召喚、サンちゃん】さっさといきましょう。」
装備型の召喚体のサンちゃんを召喚してステータスを底上げ。おもにAGIを。
「えっ、急にどうしたんですか。ってちょっと待ってくださいよー。」
閻魔のところまでは走って行った。
ころさんは追いつけなくて置いて行かれた・・・・・・・っていう事はなくて普通について来ている。
・・・・・・・物理職に魔法職が肉体的なことで勝てるわけないじゃん。
まして私のステ振りはちょっと特殊であまり走るのには向いてないし。
「ソニアさん、どうしたんですか?」
「少し体を動かしたくなったので、私、閻魔戦では全く動かないので。」
鈍い光を放つ銀色の指輪(サンちゃん)をいじりながらとびっきりの笑顔でそういう。
私は私の容姿の可愛さを知っている。
なにしろ、キャラメイクにはかなりの時間をかけたから。具体的にいうと、五時間ぐらい。
完成系は長めの銀髪で、小顔で、どこか人形っぽい所もある、十二歳ぐらいの美少女。
そして自分の可愛さを知っていると、効果的な笑顔を披露することができる。
少し人形っぽいから笑顔がとても効果的。
さらに普段見せている笑顔とは別に、相手を魅了することを意識した笑顔。
それを浴びせられたころさんは思わず微笑む。
「そうですか、そういうときもありますよね。」
ほほえましい物でも見たといった感じで答えるころさん。
ああ、ころさん絶対私の事女って思ってるね。それも年下。
私は初めて話した人に対してはこう言う。「中は男ですから。あと、ロールプレイしてるのでこれから先は女の子としてふるまうので。」って。
つまり、この後にネカマでしょ、って言われたら私は否定するのだ。
そもそも私はソニアを演じたいのであって、ソニアを動かしている中の人を演じたいのではないのだ。
だからネカマでしょ、とか、本当は女の子でしょ、とか言われたら、
「女です」、と答えて、その後すぐに話題をそらすのだ。
それで、私を女だと思っている人は結構いるらしい。まあ、どうでもいいけど。
ソニアはソニアだし。中の人がどうだとかといった話題は私はノータッチなのだ。
まあいいや、周りが誤解してようが私は私を演じるだけだ。
「【魔法、召喚、ヤタ】【魔法、召喚、モコ】【魔法、召喚、コン】っと。」
立て続けに三体召喚した。パーティは六人までだからね。
召喚体は一体と数えるから私と、ネルヴァと、ころさんとを合わせてちょうど六だね。
これが私の強みだ。私一人でフルパーティ並の戦力をつとめることができる。
まあ、私が死ねば召喚も解除されるという弱点もあるけど。
「ああ、そうだ【魔法、送還、サンちゃん】【魔法、召喚、連々】」
サンちゃんを送還して連々を召喚する。
装備型の召喚体は一度に一体しか召喚できないけどパーティに数えられないから便利だ。
ちなみに連々の効果は詠唱の短縮。例えば【召喚、ヤタ】で召喚することができる。
一言だけど、この違いは結構大きいのだ。
ちなみに連々の見た目は黒いチョーカー。
「ソニアさん、準備はオーケーですか?」
「少し待ってください。・・・・・・はい、出来ました。」
コン(天狐)に全員に支援魔法をかけさせて準備は完了。
ちなみにヤタは八咫烏で、モコは白虎だよ。
「じゃあ、いきますよ。」
ころさんが、目の前のいかにも地獄の門でございといった門に手をかける。
すると、門はひとりでに開きだす。
ここからもうイベントが始まっていて、私たちの体は動かなくなる。
動けない状態のまま待っていると、門が完全に開き中の様子を拝める。
そこには巨大な人がいた。高さ十メートルぐらいの。
閻魔大王だ。正式名称「地獄の管理職」・・・・・何ともしまらない名前だ。
でもその実力は本物。正直負ける時もある。
その難易度に似合って報酬はすっごく良いけど。
「ん?ああ、今日も罪人が来たか。えーっと、お前達は針地獄にでも行くってろ。」
そしてこちらが返事をしていない(というかできない)のに閻魔は話し続ける。
「はっ?抗うのか。わしはそこそこ偉いんだぞ。
まあよい。抗うというのなら最後まで抗って見せよ。」
戦闘が始まる前のセリフもしまらない。そしてまだ戦闘は始まらない。
しかし、閻魔は傍らに置いてあった剣を手に取りだんだんと私たちに近づいてくる。
これから閻魔はパーティの誰かに向けて剣を振り下ろす。
そして、戦闘は剣が振り下ろされてる途中で始まる。だから基本的にこの剣を避けることはできない。
だから、閻魔との戦闘は、その振り下ろされた人を回復させるというのが最初にやることだ。
今回の向かう先はモコ。よかった。これで死に戻りしないですむ。
私、紙装甲だから、これの標的にされると死ねるんだよね。
高価で貴重なアイテム使えば、その結果を回避できるんだけどこの戦いにそれをする気はないし。
そしてモコの前に来ると、剣を振り上げて・・・・振り下ろす
「【送還、モコ】【召喚、モコ】」
私が唱えた魔法でモコがこの場から消え、閻魔の攻撃は空振りに終わり体勢を崩す。
それを見逃す私たちではない。
「【スキル、鬼神切り】っ!」
ころさんがスキルを発動し、ネルヴァが爪を伸ばして膝裏を攻撃、
基本支援系の召喚体であるコンも魔法を撃ちこみ、一度消えたモコも含めて私以外全員が攻撃する。
うーんと、だいたい十分の一ぐらいHPを削れたね。二本のHPバーのうちの。
それにヤタが空を飛んで片目を潰してくれたからこれから楽になるね。
やっぱり大技が決まると早い。
ここが成功したらもうこの狩りは成功したようなもの。
先ほどの送還してから召喚するっていうのは私の基本戦法。
攻撃が当たる寸前にに召喚体を送還して攻撃をかわすっていうもの。
それで、かわした後にパーティーの枠に一つ空きが出るからもう一回召喚するという技術。
これはタイミングが難しく、早すぎれば相手に隙ができないし、遅ければ攻撃が当たってしまう。
これができたからこそ私はトッププレイヤーに名を連ねてるといってもいい。
さて、あと一つひっかけが存在するけど、あれは初見殺しっていうだけだし、
結構短時間で終わらせられるかな?
私たちはすぐに閻魔のHPをすべて削り切った。
ここで閻魔が最後とばかりに語りだす。
「ぐぬぬ、やりおるな。いずれ第二、第三のわしが、ぐぁあああ!」
語りだしていた閻魔をミネルヴァが投げナイフで攻撃してとどめを刺す。
すると閻魔はしばらくうめいていたが光の粒子となって消えた。
これが初見殺しだ。
ボスには、倒した後にこうやって敵キャラがしゃべりだすものが存在する。
その時、それはイベント扱いで私たちの体は動かないのだ。
しかし、この閻魔は語りだした時に私たちの体は動く。つまりイベント扱いじゃないのだ。
それに気づかずにボーっと閻魔の語っていることを聞くと、最後に閻魔が自爆するのだ。
一回目の挑戦で事前情報のない者たちはこれにひっかかる。
そして死に戻ることになるのだが、デスペナを受けるだけで、閻魔討伐報酬は手に入れられないのだ。
「ソニアさん、やりましたね。」
「ああ、うん。それで必要な素材は取れました?」
ドロップアイテムは自動的配分でインベントリに入ってる。
向こうに必要な素材がなかったら、私が何か他のドロップと交換してもいいけどと思いながら聞いた。
「えーっと、はい、取れました。付き合ってもらってありがとうございました。」
「んん、まあ助けあいは大事ですから。じゃあ、この後は解散でいいですか?
私、新しい召喚体の情報手に入れてて、それとの契約に挑戦しようと思ってるので。
まあ、現時点ではデマの可能性が高いですけど。」
「お手伝いしますよ?」
うん、私、ロールプレイしていて正解だわ。
そのアバターで小首をかしげる姿はきもちわるい
とゆうか、召喚体の情報はデマだと知ってるし。
ネルヴァの事を物扱いしたあなたと離れたいのですよ、と。
まあ、ころさんの事自体は好ましいと思ってるし、嫌いじゃないんだけどね。
いかんせん言動が、ね。
まあ、ネルヴァに愛着がわいたって言うと、
ただの情報でしょう、って返されるのが分かってるから言わない私も悪いんだけど。
というか、物に愛着がわくというなら、
データであるネルヴァに愛着がわいて何が悪いって思う私は変なのかな?
「条件が一人でっていうのだから今回は良いです。また今度頼みますね。」
「そうですか、それじゃあまた今度ですね。」
「ええ、では」
穏便に断るにはこういうのも必要なんですよ。
ちなみに条件というのはゴブリンの群れに対して、裸装備(防御力ゼロなだけで裸ではない)、武器装備なし、魔法の未使用、で殲滅するとゴブリンの召喚体が手に入るっていうのだった。
爆発球と言うアイテムを使ってどうにか殲滅したんだけど、
何か条件が足りないのかそれとも嘘なのか、どっちかわからないけど無理だった。
戦力的なもので言えば、今更ゴブリンなぞほぼいらないのだけど、コレクター魂的なのがうずくんだよ。
そういう感じでころさんと別れようとしたその時だった。
急に体が動かなくなった。何かイベント?
閻魔は何回も倒したけど、こんなイベントはなかった。
討伐回数の問題?いや、私よりか狩った数が多い人は確実にいるはずだ。
だけど、こんなイベントの報告はなかったはず。
けど体が動かなくなるのってイベントの時だけだし。
取りあえず、周りの警戒だけしといて何か起こるのを待ってましょうか。
そんな私の楽観的な考えはすぐに塗りつぶされた。
ぞわ、っと背中に悪寒が走った。
何か悪いものにでもみられてるような、そんな風な。
体中の隅々までみて、まるで記憶するかのように。
周りには私の召喚体と、ころさんしかいないのに、どこからかみられてる。
それはとても嫌なものに感じた。
違う、私とは違う、異質なモノ
何処に相手がいるのかすらわかっていないのに私はそう感じた。
次に感じたのは私の体の中をいじくりまわされてるような感覚。
やばい、やばいやばいやばい
これはだめだ、このままだったら何かが壊れてしまう。
とにかく何が何でもここから逃げなくては、
その思考に基づいて私は、いや僕は思い出す。
昔の事、、横たわっているのがふたり、床に水たまりができている、
水たまりがどんどん広がっていく、止まらない、なんで、どうして、
笑っているのがひとり、狂ったようにわらっている、ひとりはふたりをわらっている、
いつのまにか水たまりがもう一つできていた、ふたりはさんにんになっていた、どうして、
水たまりにさわってみた、なまあたたかい、なんで、どうして、なぜふたりはさんにんに、
おかしい、水がうわぎにもかかっていた、ふしぎ、手でしかさわってないのに
からん、なにかが落ちた、
なにかは先がとがっていた、そこにも水がついていた、光をはんしゃしてギラリと光る
どこからおちた、ぼくのてから、なんでそこから、
ぼくがふたりをさんにんにしたから、
ピーーーーーーーーーーー
「心拍数の異常を確認。強制的にログアウトします。」