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 第二章 『平 の意味』

 ーーそこでは既に、ブロック決勝である無休と開闢の戦いが始まるところであった。

「無休!」

 セコンドをしている夕月の近くまで来た秦太郎は、無休に声をかける。

「分かってる、やるさっ」

 無休はこちらを見ながら、真剣な表情で告げた。

「覚悟は……出来ているか?」

 一方の開闢は、それまでストレートに楽勝で勝ってきたらしく、余裕の表情だ。

「私のインテリジェンス・タクティクスでどこまでいけるか、勝負だよ」

「では、ストラテジィグローブの導きにより貴様が先行だ」

 それぞれの準備が完了し、無休が先行となる。

「私の力を……見せてやる! ドロー! 9,一の香車をゲームから取り除いてアドヴァンスドサーチャーを同じ場に呼び出す! アドヴァンスドサーチャーの効果発動! フィールドにアドヴァンスドサーチャーをコントロールするプレイヤーは、1ターンに1度、デッキからカードをクレバスに一枚破棄する事で相手の手札を1枚見ることが出来る! 私はそちらの一番左のカードを宣言!」

 無休の手札は良かったようで、早速召還が出来たようだ。

「さぁ、平開闢。貴方のカードを見せてもらうよ!」

 無休が宣言し、開闢の手元を指差す。

「……このカードは平家納経だ。効果は自分の手札を1枚捨て、そのコスト分の数値までクレバスからデッキを回復する、となる」

 指摘をされた開闢はカードを見せながら、そう告げた。

 カードをみせたにも関わらず、動揺の気はなかったのが、中々恐ろしさを思わせる。

「▲3四歩でターン終了。悪いけど様子見させてもらうよ」

 無休はそう言いながら、息を整えた。

「もう少し切り込んでくると思ったが……その程度か。ならば消えてもらう」

 一方開闢はそう告げると、口元に笑みを浮かべつつもデッキに手を掛けてドローする。

「平開闢、参る!」

 ーーその戦術は、言葉だけのハッタリではなく非常にハイレベルな物であった。


「まずは手札から平家の財宝伝説を発動! コストとして自分のデッキを上から20枚クレバスに送り、自分のコントロールする歩を全て成らせる!」

 言葉の瞬間、観客がざわっと歓声をあげる。

 思わず自分の耳を疑う。


「いきなりきた!」

 夕月とライナも驚愕の表情をした。

 フィールドの開闢の歩が、全て裏返る。

「さらに貴様が覗き見をした平家納経を使用。手札を1枚捨て、そのコスト分の数値までクレバスからデッキを回復する! 俺は二枚目の平家の財宝伝説を捨て、デッキを20枚回復する!」

「何!」

「実質手札3枚で歩を全て成らせた……!」

 無休もその顔に驚きの表情は、隠せないようだ。

「そして最後の手札、場の桂馬を二枚取り除く事で、ギロチンアームズ・斬を降臨させる!」

 言葉と共に白銀に光る斧を持ったモンスターが、場に降臨する。


 ギロチンアームズ・斬

 攻撃力2200 アタック1 駒属性、機械、移動タイプ……鉄将

自身のデッキから1枚クレバスに送ることで一ターンに一度一枚だけ、この攻撃力以下のユニットを一体破壊する。


「2200!?」

 モンスターを見て、無休が一瞬たじろいだ。

「ギロチンアームズ・斬の効果を発動! このカードの効果は知っているな? 目障りなアドヴァンスドサーチャーを切り刻め!」

 開闢のその命令と共に斧が投擲され、アドヴァンスドサーチャーを真っ二つに引き裂く。

「そのまま攻撃だ! デスパレート・一刀両断!」

「グォォォ!」

 ギロチンアームズ・斬は無休に飛び掛ると、斧で一閃した。

「……っく!」

 無休のヴィスが1減り、20となる。

「フフフフフフ…… △7六歩。掛かってくるがいい、手弱女。益荒男の力というものを何処までも見せてやる、骨の髄までな」

 開闢のその声には自信が入っていて、実力者であるという事を過剰なまでに強調していた。



 ……戦闘自体が終わるのは、20手も掛からなかった。

「っく……開闢のデッキがここまで強化されてるなんて……!」

「王手、だ」

 開闢の声が通る。

 絶望的なまでの駒の性能差で押されてしまい、無休は開闢に手も足も出なかった。

「マジでか……? あの子があそこまでやられるとは……」

 いつの間にか、秦太郎の横にはフジワールが来ていた。

「フジワールさん、何時から此処に?」

「最初から居たさ。常連のあの子の晴れ舞台を見ようと思ってな。……ただ、あの開闢についても調べてはきた。情報をやる」

 フジワールは秦太郎に告げた。

「……ありがとうございます」

「まずは平開闢。恐るべきことだが彼の素性を調べると、こちらにきた平将国という男の子孫らしいぞ」

「……将国? 知りませんね。僕の記憶にはありません」

 声を潜めつつも、フジワールに答える。




「……だろうな。だが、秦太郎。その人物の父親の名前がとある「公」の名と同じだと言ったら、分かるか?」

「っ!」

 瞬時に、背筋にぞくっと寒気が走った。風邪なんかじゃなく、もっと深い、精神的な脅威だ。

「まさか公って、朝敵だった、あの……公ですか?」

「あぁ。俺ら日本人だからこそ分かる、神として祀られている、あの公だ。世の中の負を押し付けられていた者の魂を受け止めて戦った真の男、自称かも知れないが、その力と血を引いているといわれているらしい」

 冷や汗が、湧いてくる。

「……」

 絶大な力を背負っている、というあの神に等しい人物。そんなものの血族と戦わないといけないのか。

「で、でも当人ならともかく、血筋なら高貴ではあっても、呪いはしませんよね。源氏だって鎌倉幕府で内乱してるし」

 秦太郎は少し焦る。別に信心深い訳ではないが、呪いや祟りの類は全く信じないという訳ではない。都内住みなだけに、あの場所にも行った事があるから。

「さぁな。ただ、奴には妙な噂がある。それだけだ」

 フジワールが告げ終えた時、開闢はデッキを収め、唐突に右手を振りあげた。

「!」

 その瞬間何かが見えて、次の時には無休が地面にどさっと倒れた。

「ーー無休!」

 ギャラリーの騒ぐのと平行し、秦太郎は慌てて無休に駆け寄る。同時に別方向から、亜利果が走ってきた。

「あんた、無休ちゃんに何を!」

「特に何もしていない。呪っただけだ」

 開闢はそう小さく、告げた。

「っ!?」

「貴様とそこの女は、地上の人間だろう」

 開闢は小さく、呟いた。

 ーーその目は、死んだ魚の目よりも濁っていた。

「貴様達と勝負を所望する。俺が勝てば、貴様達二人の魂を頂く。この小娘は人質だ」

 鋭い目付きで突き刺すようにしながらも告げてくる。

「何だと!?」

「目的は何だ!」

「人の魂の力を集める事だ。この世界に迷い込んだ地上の人間の魂を集めることで私は力を蓄え、現世に戻る。ーーそして、地上を征服し、朝廷に報復する」

「何この電波!」

 亜利果が喚くが、フジワールの話を聞いた秦太郎は開闢の目的が分かっていた。



「お前は、京都を滅ぼす気か」

 秦太郎は開闢に向けてそう尋ねる。

「無論だ」

 すると開闢はそう口元だけ笑いながら、頷いて言ってきた。

「ーーだとしたら、残念だったな。日本に既に朝廷はない」

 だから秦太郎は、開闢にそう言ってやった。

「何?」

「アンタは情報が遅れてるんだ。とっくに100年以上前に内閣制に国は変わったんだ」

「何だと? 嘘をつくな! そんな訳が無かろう!」

「ぐれー、いや。秦太郎」

 そこまで言った瞬間、亜利果が秦太郎の袖を引っ張りながら耳打ちしてくる。

「あの人に、何か憑り付いてるよ。カードが」

「っ!」

 言われてみれば、開闢の目の中に、何か紫の物が見える。

 恐らくあれが、亜利果が言ったカード。恐らく怨霊のようなものなのだろう。

「ーーお前は勝負をする、と言ったな」

 だから秦太郎は、そこで問いかけた。

「あぁ」

 開闢は告げてくる。

「あんたが勝てば俺達二人の魂を頂くといったが、あんたが負けたらどうすんだよ」

「ーーぼっこぼこにしてアへ顔にさせてヤっちゃうか?」

「お前は黙ってろ」

 秦太郎は亜利果の頭を押さえる。こんな時にふざけるな。

「何を望むというのだ、人間」

「あんた程の者でさえ魂を集めなければ次元を通れないというのは分かった。強いて言うなら、あんた自身の存在を賭けてもらおうか。平開闢本人に身体を返してやれ」

「フン……面白い。いいだろう。私は他のブロックの勝者と遊んでいる。その後で貴様達をまとめて相手してやる」

 平開闢はフフと口元に笑みを浮かべると、去っていった……。



「ーー無休!」

「無休くん!」

 開闢が去って行った後、夕月とフジワールが無休に駆け寄ってくる。

「っ!」

 だがフジワールの顔を見た瞬間、亜利果が目を丸くした。

「……もしかして、兄貴!?」

「お前こそ……亜利果!? お前どうして!」

 フジワールの方も亜利果を見て驚いてみせる。

「フジワールさん?」

 そう言おうとすると、亜利果が口を挟んできた。

「……フジワール? まさか。 本名は城柳次。10何年か前にテストで20点とってそのまま家出した男よ。心配はしたけどなんでこんなところに……」

「……ばれたらしゃーねーな。俺だって好きにこっちに来たわけじゃねぇよ。訳の分からんうちに連れて来られただけだ」

 柳次と呼ばれたフジワールは、そう言ってのける。

「それよりもだ。今は俺なんかより大事なことがあるだろう。あの開闢、やっぱ只者じゃなかったのか」

 フジワールは無休の容態を見つつも心配してくる。

「ーーそのようです。俺と亜利果は奴と戦うことにしました。もしも俺と亜利果が負けたら頼みますよ、フジワールさん」

「……あんまり気乗りはしないが、腹は括るよ」

 フジワールはそう頷いた。

「それにしても、この状況はどういう事だい?」

 そこへ夕月が聞いてくる。

「ーー無休の今の状況は、人質に取られている、って事です。分かり合うために1戦交える。それだけです。状態としては今は脈がありますが、これからどうなるかは分かりません」

「えぇ?」

 夕月はまだ理解できていないようだ。

 一方、フジワールの方は真剣な表情になった。

「……分かった。俺があげたカード以上のものはあれから手に入っちゃいないが、カードについての知識なら今からでも即席で分けられるから協力しよう」

 フジワールは真面目な顔のまま、秦太郎に言った。



 とりあえず医務室に無休を運んだ後、秦太郎は室内にいる亜利果の方を見た。

 亜利果はとりあえず、この戦いが終わるまではフジワールに関しての詮索は一応止める気になったらしい。

「あの開闢って人。なんか凄くヤバい気がした。私に言わせると本物」

 亜利果のその台詞もあながち嘘ではない気もする。フジワールの話が正しければ彼の先祖はまさに伝説。生首だけで飛んでいく恐るべきものだ。自分達とは生命体としての格が違いすぎる。

「お前に本物と言われれば本望だろうよ。……奴はフジワールさんによると、承平天慶の乱の忘れ形見だそうだよ。言わば藤原純友と対になるあの男の子孫」

「……成程。時代錯誤っていうか桐紋を敵視してるから極左過激派やあの場所かと思ったらルーツは平安なのかい、話が通じないと思ったらそういう事ね」

 珍しく真面目な亜利果が呟く。

「過激派とか言うなよ。日本は足利二つ引とか三つ葉葵とかあの後統治者かなり変わってたんだけどなぁ。……あの生命体の中では多分平安で止まってるんだろう、知識が」

「多分ね。……ま、言ってわからなそうな相手だし、無休ちゃんを踏みにじるようなことしたから落とし前は付けなきゃね。どんな事情があろうと、やっちゃいけない事をした相手には相応の代償を晴らさなきゃ」

「だな、宜しく頼むぞ」

 秦太郎は亜利果に告げると、軽く肩に触れた。

「何ぞ? 秦太郎」

「ーー心配はしている。俺より先に、死ぬんじゃないぞ。デッキの調整をしておけ」

 秦太郎はそう告げると、部屋から出た。



 部屋から出ると、フジワールさんが立っていた。

「しっかし、あの開闢って男。調べれば調べるほど不自然に強い。油断するなよ。試合における俺TUEE加減がUー1並だ、萎える事によ」

 そう言ってくる。

「一時期二次創作であった人間にあらざるべきチート加減、って奴ですか。まるで洋マンチですね」

「あぁ。理不尽なまでに強いんだよ。メアリー・スーかてめぇはって感じだ。水戸黄門も真っ青だぜ」

「……でも僕の時代だと受け入れられてるんですよ、そういう基礎スペックがおかしい主人公の系統も素で本とかの主役として」

「マジ? 信じらんねぇ。接待ゲーかよ」

「お陰で亜利果は五月蝿いですよ、満身創痍からの逆転が少年漫画の基本だろうがとか、俺に対して荒ぶってます。ネットが現実においついたって感じですけど」

「まぁ、アイツジープ特訓とか努力と根性とか過剰なまでに大好きだったしな。亜利果の嗜好に関しては俺が原因かも知れない、すまないな」

 フジワールさんは申し訳無さそうに謝罪してくる。

「なに、大丈夫ですよ。アイツはアイツで、いいところがあるって俺には見えてますから」

 秦太郎はその様子を宥めると、遠目でスタッフと話をしているライナと夕月の方に視線を送った。

「さて、カードについての話だが……」




 ーー休憩時間が終わった矢先には、もう既に他の参加者が全て倒されていた。

 一般人には無休が倒れたことは貧血として処理されたようで、場の空気は然程変わってはいない。

「一人ずつ倒すのも面倒なので、1対2の変則マッチといかせて貰おう。先手が俺で、貴様達が後手だ。どちらが先か決めるがいい」

 先程の戦闘による効果か何か、開闢のオーラが増して見える。

「……俺が先だ」

 秦太郎は一歩前に出る。

「良かろう。ならば俺、貴様、俺、女の順番でターンは回る。お前達のフィールドは共用だ、良いな」

「構いやしない。だが、体力倍とか駒落ちとか言うなよ」

「そんな事はしない。武士であるなら正々堂々と行くまでよ。それに、先ほどの女に対しての魂の束縛は解放した。この戦いが終われば時期に目を覚ますだろう」

 開闢はそうダウナーな様子で言うと、ふっと笑ってみせる。確かに目を見ればこの男は平常ではないと察せられる。何か得体の知れない物の流れという奴を、エスパーでもなんでもない自分でも感じられた。

「人質戦法を使うと思ったら、意外ね」

「親皇を目指す身で、そんな手を使って民草に認められると思うか」

「言ってくれるな」

「では……命を頂かせてもらおうか」

「やれるもんなら……やってみな!」

 秦太郎は言い返しながら、ストラテジィ・グローブを構えた。



 「行くぞ!」

 21・21 △時雨秦太郎・城亜利果 VS ▲平開闢 21

「カードをドローする」

 そう告げた開闢は早速、陣の構築に出たようだ。

「俺はヴィスを1払い、ギロチンアームズ・断を場に出させてもらう。5八の位置に置かせてもらうぞ」

 ギロチンアームズ・断

攻撃力1200 アタック1 駒属性、機械、移動タイプ……鉄将

このカードはヴィスを1払うことでコスト駒を必要とせず王の隣接する位置に置くことが出来る。このカードが場に現れた時、さらにヴィスを1払うことでギロチンアームズ・断以外のギロチンアームズを1枚デッキから手札に加える。


「早速出してくるかよ」

「ぐれー、油断しないでね」

「分かってる」

「ギロチンアームズ・断の効果により俺はヴィスを1消費し、ギロチンアームズ・斬をデッキから手札に加えさせてもらう」

 開闢のヴィスが1消費するのが見える。

 いきなり自前で2も消費するとは、中々思い切った戦術をするらしい。

「▲7六歩、貴様の番だ」

開闢はそこで、ターンを終了した。

「カードをドローする!」

 一方、秦太郎の手札は確認すると 妨害伝令 救急究明9 HEB・ヘルファイア 怒りの葡萄 となった。亜利果の手札は見ることが出来ないので、ある意味この戦いは二倍の手札があるとはいえ、駒戦略において意思の統一の出来ないという時点では難しさもある。

「戦略は任せるよ。フォローはするから」

 亜利果が余裕有り気に言う。

「ありがとうよ。俺はHEB・ヘルファイアを出すぜ」

「2一の桂馬をゲームから取り除き、デッキからカードを1枚クレバスに送り、HEBハイパーエナジービート・ヘルファイアを出す!」」

 『HEBハイパーエナジービート・ヘルファイア 攻撃力は1400、アタックポイントは2。移動タイプは銀。 ダメージを与えた時、相手のカードを1枚デッキからクレバスに送る』

「ほう、来るか」

 開闢がこちらのユニットに関心を見せたような顔をした。

「ヘルファイア! 撃てッ! ダブルエナジービート!」」

 ヘルファイアは命令に応じてマシンガンを乱射する。だが、弾丸はギロチンアームズ・断を破壊した後開闢に当たる直前で消え去った。

「……手札からカード、人柱を発動し、ダメージを無効化する。ただしギロチンアームズ・断は通常の戦闘処理を行う為に破壊される」


「人柱だって?」

「……見たことも無いカードだ」

 ライナとフジワールが後ろで驚いた。


 人柱

 このカードは相手ターンに手札から発動する事が出来る。カードを1枚捨てることでこのターン受ける自分のダメージを無効化する。


「人柱のコストとして手札から積み石を捨てるぞ」

 開闢は冷静にそう宣言する。

「……積み石?」

「ただの雑魚カードだ」

 開闢は告げる。

「効果の開示を求めるよ。説明して」

 亜利果が横から言うと、開闢はカードを見せつつも言ってきた。


 積み石

  攻撃力100、アタック0、駒属性、物、移動タイプ歩。

 このカードが場にある時、コントローラーはヴィスを1払うことで自ターン始めのドローをスキップする事が出来る。


「効果はこの程度。ステータスも見ての通りだ。ダメージが無効化されるのでお前のヘルファイアによるデッキ破壊は機能はしない」

 開闢は言い終え、これで終わりか? と言った。

「ならば救急究明9を使用。このカードを手札から捨てることで、デッキから救急究明99を1枚手札に加える。△3四歩でエンドする」

 秦太郎は救急究明99を手札に加え、ターンの終了を宣言した。ダメージこそ与えられなかったものの、相手の手札と場の敵を駆除できた上でヘルファイアを残せたのは幸いだろう。これなら亜利果にターンを回しても問題はない。少なくとも盤上の有利は手に入れたはずだ。

 ーーしかし向こうにとっては不利なはずなのに、開闢の表情は劣勢を感じさせなかった。

「ドロー。……フフフ、俺は今引いた、 特殊領域・賽の河原を発動するぞ」

 開闢のターン。奴は動き出した。


 特殊領域・賽の河原

 このカードは発動時場に残り、破壊されるまで盤上に影響を与え続ける。自分のクレバスから一ターンに1枚手札に積み石を呼ぶ事が出来る。

 このカードが発動している状態で手札に揃った二枚以上の積み石をクレバスに捨てることでデッキから手札に人鬼と名のつくユニットを呼ぶ。


「賽の河原!?」

 亜利果とフジワールが嫌な顔をする。

同時に秦太郎と亜利果、そして開闢の足元に川のエフェクトが投影された。

「まずいものなのか、店長」

 夕月がフジワールに尋ねる。

「……死者が行くとされる三途の川の岸さ、夕月。名前だけで嫌な予感がしてきやがる」

 フジワールは震えつつある声で夕月に説明した。


「俺は賽の河原の効果を使い人柱で落とした積み石をクレバスから回収する。そして2枚の積み石を捨てて賽の河原の効果を発動し人鬼 梁塵をデッキから手札に加える!」

「何!」

 人鬼ジンキ 梁塵リョウジン

 攻撃力4000 アタック5 駒属性、鬼、移動タイプ……石将

 このカードが破壊されクレバスに落ちたとき、クレバスにある積み石を全てデッキに戻しシャッフルする。その後、お互いに1枚デッキからカードを引く。


「さらに4九の金を取り除き、人鬼 梁塵を場に出陣させる! いでよ、人鬼 梁塵!」

 宣言と共に川の中から鬼というか怨霊のような者が飛沫と共に出現し、場に降り立つ。

 そのモンスターは巨大な体躯を持ちつつも異質であり、火の付いた巨大な松明を持っている。無意識にも空気を重くするというか直視したくないような威圧感を感じられた。

「攻撃力4000!」

 亜利果がたじろぐ。

「それだけじゃない、アタックも5もある!」

 ライナが叫んだ。

「さぁ……ヘルファイアを無残に殺せ!」

「……ウォォォォォ!」

 開闢の言葉と共に、人鬼 梁塵が咆哮をあげて松明を振り下ろし、ヘルファイアをバラバラに引き裂く。

 その瞬間、秦太郎は横殴りを受けたような衝撃を喰らった。


 秦太郎ヴィス21 → 18


「ぐぅっ!?」

 操作エリアから吹き飛ばされ、一回転して床に尻餅をつく。

 ーー危うく舌を噛むところであった。

「ぐれ……秦太郎! ……開闢、アンタ何を!」

 亜利果が食ってかかるが、開闢はあざけるように笑いながら言ってくる。

「賽の河原の瘴気により、お互いにダメージを受けるのだよ。魂さえ頂ければいいのだ、肉体は幾ら壊しても問題なぁい」

 ーー観客には秦太郎が勝手に吹き飛んだようにしか見えないだろう。だが、これは確かに確実なダメージだ。

「▲2六歩。さぁ、女。貴様の番だ。大人しく投了すれば魂を早く抜き取ってやるぞ?」

 開闢はそのまま、ターンを終了した。

「……ぐれー、いや、秦太郎。大丈夫? 派手に吹っ飛んだけど」

「不意打ちだったが……何とかな」

 秦太郎は腰をさすりながら立ち上がると、フィールドに戻る、

「それより頼むぞ、亜利果」

「分かってるって。私も腹、括ったよ」

「ドロー!」

 亜利果がカードをデッキから引いた。


「手札にデザイアヴェート・ドラグノフ・ドラゴンがいる時手札からДрагуновを発動することができる! これにより、デッキの上から2枚クレバスに送り、1枚ドローする!」

 亜利果が宣言する。普段のふざけている様子とは違い、ガチの顔をしていた。

「今のカード効果でクレバスに落ちたカード、召還紋章の効果を発動! クレバスからこのカードを取り除き、自分のヴィスを半分払うことで(切り上げ)他の条件を無視して手札から1体分のカードを召還! 指定座標は5二! さらにそのカードのアタック・攻撃力はこのターンのみ倍になる!」

「何!」

「思い知らせてやりなさい! いでよ! デザイアヴェート・ドラグノフ・ドラゴン!」


 デザイアヴェート・ドラグノフ・ドラゴン

攻撃力5000 アタック3 駒属性、龍。移動タイプ……龍馬

 自分のコントロールする王以外の任意の駒一つを取り除き、その場に現れる。この駒が現れた時、追加で自分のコントロールする駒を盤上から2つまで取り除くことにより、このカードの上にその取り除いた駒を乗せる。1ターンに1度、このカードに乗っている駒を一つ取り除く事で、この駒に隣接するカードを一枚破壊する。この効果は、この駒が移動する前、あるいは移動した後に使用が出来る。



 周囲の大気を振るわせる雄叫びと共に、亜利果の持つ巨大な鋭角染みたドラゴンが場に現れる。風格ある翼を持つところによると、相当高等なドラゴンのようだ。

「血迷ったか! いきなり体力を半分支払うなど!」

 開闢が煽るが、亜利果はそれを無視する。

「消し飛ばしてやりな! ハイパー・ビーム・ブレス!」

 デザイアヴェート・ドラグノフ・ドラゴンが破壊の光弾を放ち、閃光が人鬼 梁塵を一瞬で塵にする。

「ぐぉぉぁぁぁぁぁあぁああ!!」

 衝撃波は向こうにもいくようで、開闢は10m程吹き飛んで膝を付いた。


 城亜利果 ヴィス11 平開闢 ヴィス19

「△3二金で終了。自慢のあんたのカードも大したことないねぇ。積み石2枚はあんたの人鬼 梁塵が破壊された事によりデッキに戻る。三途の川の効果で引っ張ろうとしても暫くは出せないよ」

 亜利果は秦太郎に言い聞かせるように、そう喋る。

 ーーそうか。こいつは自分の体力を削ってでも相手を処理したかったのか。



「……亜利果。本来の駒の効果を使ってもよかったんだが、何故わざわざДрагуновを使うようにして、フィールドの駒を取り除かなかったんだ?」

 秦太郎は亜利果に尋ねる。色々と今の動きというのは、解せなくもある。

「……本音を言えばダメージの大小で相手の吹き飛び方が違うか見たかったんだよ。さっき秦太郎が吹き飛ばされたみたいなのがダメージ量に比例するんだとしたら、攻撃力1万のハイパー・ビーム・ブレスで攻撃したらそのまま向こうが戦闘続行不可能になってカタがつくかなって思ってさ」

 ーーこいつ、何気にそんな恐ろしい事も考えていたのか。

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