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5.

戦っている中で、だんだんと気分が高揚している自分にカンナギは気付いていた。


忘れていた感覚が呼び醒まされ、長い眠りから漸く目覚めたような感覚だ。今まで感じていた胸につかえたモヤモヤしたものを一気に拭い去って、全てを思い出した。



記憶を失ったその先に、こんな喜びがあるとは思わなかった。

全てを思い出した今なら、自分の手で全て終わらせることは可能だろう。


自分が属していた組織ではあったが、仲間意識などというものはなかった。

あるとすれば、自分を追うことに他の仲間を指揮した一人の男との因縁じみた付き合いのみ。



「ミクモ、俺はどの道お前らの元へ戻るつもりはないよ」



刺すような視線の先には、呆れたように溜息をつくかつて共に肩を並べた唯一の仲間。



「お前の性格は熟知してる。

何言っても聞かねえってんなら、こっちにも打つ手ってのがあるもんだ」



冷静な声音だが、やはり切迫しているのだろうことが感じてとれる。

明らかな殺意を告げられているのは、見て分かるし、組織のはみ出し者を野放しにはできまいというのは、理解できる。

殺し屋稼業を行っていたら仲間内で消されることなど、よくあることだった。


殴り掛かってくる拳をカンナギは寸でのところで受け止め、振り払う。



「いくら性格を熟知していると言っても、モノには限度がある。

確かに殺しは俺の生き甲斐であり、生きる為の手段だった。

手段ってのは大抵、成し遂げれば喜びが生まれるんだ。

…けど、そんなものまやかしだ。ただの錯覚なんだよ。

錯覚と気付いた今、そんなモノに溺れる興味なんて俺にありはしない」



淡々と言葉を語るカンナギだが、これはリラと過ごしたこの数日で気付いた事実だった。


感情に流されるままに生きたどうしようもない結果が、これなのだ。

強さを求め喜びに浸り、自分の本当の意志などとっくに流されてしまっていた。

何が強さだ。既に自分は自分自身に敗けているというのに。



「錯覚というなら構わないさ。……ただ一つ教えておくなら、俺にとって殺しは生きてる上での…娯楽だ」



ミクモは、ニタリと口角を吊りあげた。


依然として攻防が続き、カンナギに焦りが生じる。

こんな森の奥、お互いに武器はない。

銃があれば、今より圧倒的に戦いやすかったと思うが、身一つで逃げて来たカンナギにはそんなものを持ち合わせていないし、ミクモも山奥での捜索に備える為か装備が軽いのが見て取れたので、それがせめてもの救いだった。


何人かいた雑魚は早々に片付け、残っているのはあと数人程度…。

ミクモが残っているのが問題だ。こいつは、ただで見逃してはくれないだろう。


久々の乱闘のせいか、さすがに血の臭いに咽せ返りそうになる。

大方は自分のせいではあるが、それ以前に胸の高鳴りが収まらず、血が騒ぐ。

かつての仲間だろうが何だろうが、その顔に覚えなどない下っ端の奴らにさえも加減はしなかった。


これほどまで、血に飢えていたのか。冷めた頭で、足元に落ちていたナイフを拾い上げる。

既に戦闘不能のヤツが落とした物だろうが、丁度良い。

切っ先をミクモに向け、不敵な笑みを浮かべる。



「お前と殺り合うのは、これが最初で最後だね」



突き刺さるような視線と交錯し、凍りついたような笑みをお互いに浮かべた顔を逸らすことはなく、間合いを詰める。


邪魔な奴は消す。


心に留まっていた感情は、ただそれだけだった。



「馬鹿だな、お前は」



不意にミクモがフッを笑う。その表情からは、意図することは見えないが構うことなく続けて口を開く。



「お前は殺すに惜しい人材だ。殺り合うのは嫌いじゃないがな」



この期に及んで、まだ連れ戻す気なのか。

しかしそれを問うだけの気力もなく、両者相対し、足元にどちらのモノとも分からない鮮血が散った時。



「きゃあっ!!」



突如悲鳴が聞こえ、カンナギは反射的に振り向く。

決して忘れていた訳ではない存在だが、この状況の重要性に気付いていなかった。



「………リラ」



その名を口にした途端、全身の血の気が引いた。


ハッしたように息を飲み、こちらを見据えたリラの姿を見て、先程までは全く感じていなかった感情が一気に駆け巡る。


怪我もないのに、ズキンと痛んだのは何だったか。


こんな風な痛みを感じるのは、初めてのことだった。


何をするにも、目的の為ならば手段を選ばず、自分の欲望の為なら人を殺すことにも躊躇いはなかった。


なのに俺は……ただ一人。




__リラにだけは嫌われたくないと、心が悲鳴をあげていた。



リラの名前が間違っていたので訂正しました。

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