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幕間

 砦の篝火も届かない闇夜が支配する山中に、それでもまだ闇が足りないとばかりに深くフードをかぶったふたつの人影があった。

 それが愛に飢えた男女の密会でないことは、両者が醸すどこか殺伐とした雰囲気と警戒感を表わす二人の距離が物語っていた。

「どういうことだ、こんなことになるなど聞いてなかったぞ」

 怒気をはらんだ男の声は自分で思っていた以上に山中に響いたらしく、言い終えるとほぼ同時に彼は慌てて辺りを窺った。

 だが、その声を聞きつけて誰かがこちらにやって来るような気配はなかったらしい。

 男は安堵すると、改めてもう一人へと鋭い眼光を向けた。

「ああ、少々手違いがあってな。だが問題はない。明日ですべてケリがつく」

 こちらは辺りを気にする様子もなく、自分の側の不手際にも謝罪の言葉ひとつない。

 完全に両者の力関係がその遣り取りだけで明らかだった。

「今度こそ信じていいんだろうな?」

「無論だ。この山に関しては、ヤツらよりお前たちの方が詳しいのだろう? 砦の抜け道なども知っていたはずだな?」

「ああ、あれは我が国が作った砦だ。秘密の抜け道は一部の者だけが知っている」

 余裕のない男の言葉に横柄な男が口許に笑みを刻んだが、相手の男はこの暗闇ではそれを目にすることはできなかった。

「ふっ、ならば問題はない。陽巫女は落ちる」

 ――そして、もう二度と輝くことはない。

 声に出さなかった言葉は、まだ誰にも聞かせられないものだった。

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