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ギガンテスの記憶【外伝(1)】  作者: イプシロン
第1章 新兵としての日々――出会い
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第1話 赤い惑星への降下――火星へ

「嫌な夢をみました……」

 <スペランツァ>号の医務室のベッドにつっぷして、うとうとしていたガラティアは、その声で目を覚ました。

「……ミー、意識が戻ったのね」

「そうらしいね……」

 ミマースは船室の白い天井をぼんやりと眺めていた。

 規則正しく並んだ八角形のパネルは、それ自体が発光して部屋を柔らかく照らしていた。

 だが、ミマースは天井にある四角形と、その頂点から伸びた淡いグレーの直線に目を向けていた。

 それは巨漢の男が何度も見てきたものに似ていた。

「もう長いこと忘れてたんだがね……。いや、忘れようとしていたんだろうな……」

「え?……」

 ガラティアはミマースの言葉を聞き逃すまいと、眠けを払おうとしたのか、頭を左右に振った。

「また、この感覚か……。ありもしない腕が痛む……」

 ミマースはベッドに横たわったまま、ガラティアの座っている方へと顔を向けた。

 眼の中には頂点を上に向けた四角形とそこから伸びた直線がまだ残っていた。横に伸びた線の上には四桁の数字が並んでいるのが見えた。

 それから、二メートルを超す巨漢の男は無表情な顔で話し出した。

「俺は何もわかっちゃいなかったんだ……」


 星々が煌めく宇宙空間を、四機の着陸艇が降下していた。赤い惑星、火星へと向かって降下していた。

 ミマースはその小隊プラトーンの一員だった。彼の乗る着陸艇には班員チームメンバーである、ギュゲス、オトス、トアス、がいた。

 班は四人の名前の末尾の一字を取って、スー族と呼ばれていた。アメリカインディアンの部族名から頂いたものだ。

 肩にある班員章にはバッファローが描かれていた。しかし、この班の特徴はなんといってもメンバーの皆がみなニメートルを超す体躯を誇っていたことだった。

 小隊は新兵ばかりの編成であったが、スー族の面々の見た目や腕章などから、ミマースのいる班は早くも一目置かれる存在になっていた。

「そろそろ目的地だ、着陸の準備をしてくれ」

 壁一枚隔ててミマース達の前に座っていた、副操縦士が無線で伝えてきた。

 しかし、キャビンに座った三人の大男と一人の大女は、その声にはさしたる反応も示さず、雑談に励んでいた。

「酋長、俺達は一体何しにここに来たんですか? そろそろ教えてくれてもいいでしょう」

 班長を酋長と呼び習わすことを提案した、オトスが不満顔でギュゲスのヘルメットを覗き込んだ。

 ギュゲスは何てことはないという瞳で、その視線を受け流してからいった。

「演習が目的だそうだ。言っておくがな、俺にもそれしか知らされてないんだ」

「地球は平和過ぎるからね。基礎訓練は出来ても、ドンパチの真似事ひとつ出来ないってことじゃないの?」

 女の声がした。トアスだ。彼女は、それには興味がないのといった態度で窓の外を眺めていた。

 地球では戦火が途絶えて、随分と長い時間が過ぎていた。各国はまだ軍を保有してはいたが、それは次第にまとまり、地球軍を作り上げていった。

 しかし、軍は予算と身の置きどころを失い、兵隊は宇宙へと放り投げられていたのだった。

「火星って星は地球に似てるらしい。地軸の傾きも自転の周期もそっくりだ。大気もあれば、季節もある。違うのは、やたらと寒いということだけらしい。ってことで、演習には丁度いいらしいのさ」

「酋長、それだけじゃないでしょう。重力が弱い」

 ギュゲスの表情は穏和だったが、オトスの質問攻めと愚痴にはいつも参らされていた。

「まあ、それはそうだ。けど、平和を愛する地球人からしたら、そんなことは大した問題ではないんだろうさ」

「お偉方ってのはいつもそうだ。座学と基礎教練と武器の使い方をやっと覚えた兵隊を、いきなりこんな赤い星におっぽり出す。勝手なもんですな」

「火星も平和だってことなんじゃないの?」

 トアスは自分の行き先にある建物を探しながら適当に会話に参加していた。

「さあ、それはどうかな? 俺の集めた情報じゃー、ここじゃ、たまーに実戦があるらしいんだ……」

「そんな話、どこで聞いた? お前の情報はいつも怪しいからなー……」

 ギュゲスは面倒臭そうにいった。

「でも実際、前任の連中で棺桶に入って帰ってきた奴はいるじゃないですか」

「演習だからって危険がないわけじゃないだろう。事故も起これば、ミスも犯す。そういうことだろうさ。そうならんように、お前も気をつけろってことさ」

 そのとき、トアスが何かを見つけて窓の外を指差した。

「あれかしら? あたしらの寝床は?」

 全員の視線がトアスの指先にあるものに注がれた。

「なんだ、あれは……」

「ピラミッド?」

 見つけたトアスでさえ呆れたような声をあげた。

「ご丁寧に、ギザのピラミッドを模して三つか!?」

 酋長がそういった。

 窓外に視線を移していたミマースは、四色に塗り分けられた三角形が組み合わされて出来た正方形と、そこから長く地表に伸びている影を眼にした。

「てことは……あそこにあるのはスフィンクスのつもり?」

 トアスの瞳には、これから行く先で面白いことが起こりそうだという悪戯な光があった。

 着陸艇は間違いなくピラミッドを目指していた。

 三つ並んだ四角錐の真ん中に座しているカフラー王のピラミッドを飛び越えると、少し右に舵を切り、スフィンクス像の脇にある着陸床を目指しはじめたのだ。

 艇はほどもなくギザ基地の着陸床に足をつけた。

「おい、ミマース、到着みたいだぜ。ところでお前はどう思うんだ? このへんてこな演習場を?」

 オトスはライフルを片手にベルトを外しながら、それまで黙りこくっていたミマースに向かっていった。

「俺は兵隊だ。命令の通りにやるだけさ……」

「変わった野郎だ。まあでも、あんたが頼りになるってことは知ってる。地球と変わらず、よろしく頼むぜ」

「…………」

 オトスはミマースの肩をポンと叩いたあと、揚陸ハッチに向かって歩きだした。

 ミマースはゆっくり立ち上がると、軽機関銃を易々と持ち上げてから、彼の背中を追ったのだった。

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