商人
翌朝目が覚めると俺は椅子の上で寝ていた、、あぁそういえば昨日は魔法について勉強したんだったか
起き上がってみれば肩に掛けてあった肩掛けがずり落ちて床に落ちる、拾って見ればなんだか良い匂いもする、バラのレースが綺麗なそれは一目で高価な物だと分かった
「……レイチェル?」
返答は無いが、この肩掛けはレイチェルが掛けてくれた物だろう、レイチェルの意外な優しさに少しばかり驚く
驚くのは流石に失礼か、ああ見えて根は優しいのかもしれない、今度からは魔法辞典に夢中になっても寝落ちだけはしないようにしよう
少しだけ温かい気持ちになりながらレイチェルが寝ている筈のベッドを探す
……無いな、ベッドもレイチェルも
えっと、どういうこっちゃ?
もも、もしかして捨てられた!?
信じた瞬間裏切られた!?
俺が寝る予定だったベッド、居ない
ベッドの下、居ない
天井裏、居ない
奇をてらってタンスの中、居ない
あれ、マジで捨てられた?
いやいや、まさかまさか、
いやでも?
もし本当に捨てられたのなら、俺的には万々歳何だが、こういう風に無言でってのはな
自分が寝ていた椅子に座って机の上に項垂れる、レイチェルとの旅はそりゃ楽しかったし、そこそこ一緒にいたんだからちょっと位声を掛けて行っても
そう思っていると右手になんか触れた、つかんで見て見ると小さな紙切れだった
「えー、キカイジマへ、私はちょっと用事があるから出かけてくるわ
外を散策するなり魔法辞典を読むなり好きになさい、ただし出かけるなら宿はチェックアウトしておいて
昼食を食べたら南門に来なさい、今日中にこの街をでるわ
さっきの俺は黒歴史だな、封じとこう」
それはさておき、そうなると問題は今後如何するかだが、個人的に魔法辞典を選択したいが、この街に今後来るかは分からないとなるとチャンスは今だけ、だが魔法辞典は移動中も読めると来た、こうなると魔法辞典を選択するのは勿体無いだろう
宿に部屋の鍵を預けて外に出ると宿屋周辺が貴族様とかが居そうな場所だった
ここじゃ金がかかって仕方ない、行くとすれば東側か、道中で東側が商売が盛んな場所だって聞いたからな
と言う訳でやってきました東側
馬車が行き交い人混みがまるで一つの生物の様に動く、その中で俺も周りの人混みと同じく露天を覗き見て行く
露天は見てるだけで楽しくなって来る、色んな露天の中で一際興味を引くのが有った
「なにこれ?」
「いらっしゃい!
お客さんその剣が気になるんでしょ?」
俺が興味を引いたのは剣(?)だった、柄は普通の西洋タイプ、鍔は装飾がついている、剣身は……
剣身はなんか丸いっていうか円柱、鞘だけかなと思って鞘から抜いてみたんだが、どっからどう見ても円柱、先端は尖ってなくて平
コレを売っているのは声から判断して男、なぜ声から判断したのかというと、彼が全身を覆い隠すマントを被っているからで
マントの上から体つきを判断すると男にしては細身だが、声からは弱々しさは感じられない、どちらかと言うと元気溌剌と言った感じだ
顔はフードを深く被っていてよく見えない
…………うん
「詐欺ならもっと上手くやれよ、じゃあな」
「あ、ちょっ、待ちなさいよ!
ちょっと、待てつってんでしょアンタ!」
「オカマ!?」
「違う!」
そう言って、少し離れた距離を縮めて服を掴まれて元の露天に戻される
彼は露天の上の先程の剣を取り出すと、おもむろに鞘から引き抜き露天の商品であるリンゴを手に取った
「おいおい、俺は暇だが詐欺には引っかからないぜ?」
「詐欺じゃないっての!
いいからアンタは黙って見てなさい、いい!?」
「ヤッパリオカマかなぁ……?」
そこはかとないオカマ臭さに我慢して待つと、円柱剣(今命名)を振るう、一線二線と振るう度にリンゴが切り裂かれていき、最後には綺麗な兎さんリンゴになった
「どうよ!?」
「兎さんリンゴ上手だな」
「へ?、そう?
ってそうじゃなくって、この剣の斬れ味は見たでしょ!?
アンタこれでもまだ詐欺って言うつもり?
撤回してもらうまで帰さないから幾らでも試し斬りしたげるわよ!」
「ちょま、分かった分かったから落ち着け、円柱でも斬れるのは分かったから一旦落ち着け、な?」
鼻息の荒い彼を宥めて剣を置いてもらう、あのままだと俺まで試し斬りされてしまう可能性も……考えないようにしよう
彼から剣を受け取って色々な角度から眺める、どっから見ても綺麗な円柱で尖った所は見当たらない、これでどうやってるのかリンゴを斬ったのか、気になる事だし聞いてみるか
「いやーごめんね?
あたし仕事と趣味の話になると、ちょっとね
んん、でも詐欺じゃなかったでしょ?」
「うん、ろくに確認もせずにすまん
しかし、この剣ってどういう理屈で斬ってるんだ?」
オカマの人(実際には言わないでおく)が待ってましたと言わんばかりにフードから覗く口元を三日月みたいに歪める
「この剣はあたしが個人的に契約してる、とある職人が創った物でね?
ここだけの話、柄に魔法文字が刻まれてるーー
所謂魔法剣なのーー」
魔法剣か、始めて聞くがもしかして希少なのかな?
そっからはオカマの人の独壇場、言葉巧みに魔法剣の魅力を伝えて来る言葉は神がかっている
曰く、その作りから刃先を気にしなくていいから剣の初心者でも扱えるとか
曰く、刃こぼれの心配が無くいつまでも変わらない斬れ味
曰く、剣で有りながら杖として使う事も可能とする特殊機構
曰く、職人が変り種で一本だけのオンリーワン
はい、買ってしまいました
「毎度有りー!
買う人が居なくて困ってたのよ、いやー本当にありがとうね?」
「買っちゃったしどうこう言う気は無いけど、なんで?」
「あー、その剣って軽いでしょ?
オマケに剣にしちゃちょっと長さが足りないし、普通の冒険者は使い慣れた剣を使うし、商人は剣を振らないし、初心者冒険者は師匠に言われて普通の剣を使うだろうし
魔法使いは論外だしで……そう言えばお客さんって、何してる人?」
「……どちらかというと、魔法使い」
目が、オカマの人の目が痛い、何か突き刺さって来る、コレ人殺せるって
殺人視線(死線)に耐えていると、オカマの人がおもむろにビンをくれた、中には液体が入ってるのかチャプチャプ音がする、蓋を開けて匂いを嗅いでみるとミントみたいにスーっとした匂いだ
なにこれオカマの人?
「なにこれオカマの人?」
「オカマじゃないつってんでしょ!
コレはね……んん、コレは魔力回復の調合薬、だ
まぁなんだ、元気だせ、師匠ならまた探せば見つかるでしょ」
「捨てられてないよ!?」
「あれ?、そなの?
いやーあたしてっきり師匠に捨てられて道中に使うのかと、それじゃなんで?」
このオカマの人、わりかし酷いな、しかも言葉すぐに戻ってるし、鳥肌しか立たないけどオカマだからってどうこうするもんじゃないし
オカマの人はマントで顔も体も隠してるけど、実は美少女でしたーとか、無いな、声が男だし、むしろちょっとおっさん入ってるし
しかし、それじゃなんでと来たか、うむいい質問だ
……俺だって知らねぇよ
いや、だって、欲しかったんだもん、しょうがないでしょ、しかしこのオカマの人にそう言うのか?
無理無理、衝動買いしましたとか完全にカモですやん……どうしよう
しばらく自分が何でこの剣を買ったのか考える、自分が買った理由を考えるなんてほとんど無い経験だからゆっくり考えよう
ゆっくり考えるって言ったって、そうそう長い時間考えてる訳にもいかない、だってオカマの人が待ってるし、というわけでちゃちゃっと決めた
「旅をしてたらどんな事が起こるか分からない、もしかしたら魔法が使えなくなる遺跡とかに知らずに潜り込むかもしれない
そんな時は小型とはいえ剣位は欲しい」
「そ、そんな遺跡が有るの!?」
「いや見た事も聞いた事も無いけど、ほらもしかしてって有るじゃん
てか興奮するな、……大丈夫か?」
「へ?
いやいや大丈夫よ、ぜんぜん、……
そっかもしもが有るよね……」
何やらぶつぶつ呟き出したオカマの人はどうしようか、ほっといて先にいこう、いやーいい買い物したな
そろそろお昼だしどっかで喰わないとな、っとお昼どうしょう、んー……商人ってくらいだからいい場所知ってるかな?
オカマの人の露天から離れようとしていた足を止めて踵を返す、未だにぶつぶつ言ってるオカマの人に話し掛けるのは勇気がいるが、時間は待っちゃくれないのでパパッと聞く
「おーい戻ってこーい」
「へ?、ああアンタか、何、何かその剣で聞きたい事でも有るの?」
「いや剣じゃないけど聞きたい事が……
どっか良いお店知らない?」
「ココ」
「いや、質問が悪かった、飯屋で良いお店知らない?」
「知ってるけど、来る?
言っとくけど一見さんお断りだからアンタ一人じゃ行けないわよー、露天畳むからちょっと待ってて」
そう言って露天を片付けてしまうオカマの人、ついさっき出会ったばかりなのに申し訳ないな
「リオ•モンテグラル」
「……何?」
「リオ•モンテグラル、あたしの名前
一緒に食事するのに名前を知らないだなんて変でしょ、アンタは?」
「機械島 済
魔法使い……見習いだぜ」
「自信満々に見習い宣言?
まいいや、あたしの事はリオで良いから、行くよキカイジマ」
「あい分かった、所でその店って高い?」
「あたしが払える位」
成る程分からん
オカマの人改めリオの後について行く、どの位か分からんが財布の中身はレイチェルから貰った金で潤っているから問題ない
……お金は稼いで返そうか
それはさておき捨て置いて、道中男二人で黙々と静々と歩いていても面白みが無いので何か話そうかな、そうだ魔法剣って何かとか聞いてみようかな?
よしそうしようと、リオに話し掛けようとしたタイミングでリオの声が重なった
「キカイジマは魔法使い見習いだって言ってたけど、魔法ってどんなのが使えるの?」
「どんなのって言われても、初歩的なのしか使えないぜ?
五属性の1番簡単なレベル」
「……ふーん」
「あ、おま、何だその興味無くしたみたいな顔は!?
腹立つ、スゲー腹立つんだけど!」
「ま、大魔法使い位になったらあたしの店紹介してね、期待しないで待ってる」
いつの日かヒーヒー泣かせてやる事を心の中で誓っていると、唐突にリオの足が止まった
どうやら目的地についたらしい
良いお店は人目につかない所にあると思っていたが、どうやら俺の勘違いだったらしい、普通に表通りにあったそのお店は繁盛してるのか結構な人数が居る
その店の中に入って行くリオを追いかけると、リオはそのまま席には座らず、二階へと続く階段を登って行く
「一階じゃ無いのか?」
「一階は普通の飯屋、けどここは一階よりよっぽど美味しい
あたしも紹介が有ったから来たんだけど、アンタあたしに感謝しなさいよ」
そう言って一階より少し小さめの二階のカウンター席に座る、俺もリオの隣に座る
チラリと横目で室内だと言うのにマントを脱がないリオを盗み見る、何というか、ついさっきまで元気溌剌と言った感じだったのだが、今では……何か疲れてる?
いや、不機嫌?
兎に角さっきみたいな元気はみられない
「えっと、どうした?」
「どうしたって何が?」
「いや、なんつーか、不機嫌?」
「あー、違う違う、商売の時って無理矢理笑顔で楽しそうな顔作らないといけないでしょ?
あたしアレが、大っっっっつ嫌いなのよ、楽しかったら楽しそうな顔するっての、なんでわたしが作り笑い何かしなきゃいけないのよ
まぁ、だから商売が終わると反動でねー
……あによ?」
「いや、商売って大変なんだなぁ、と」
少なくとも俺はしたく無い、と言うかできる気がしない
それでもその商売をするって事は何か理由が有るんだろうが、流石にソコを突っ込む程愚かじゃない
飯屋に来て飯を頼んで無い事に気付いてオススメをリオと一緒に頼む
「ーーでね、ソイツがまた無茶苦茶気持ち悪いクソデブでね、もうソイツの近くに居るだけで死にそうになるのよ!
って、ちょっとアンタ聞いてる?」
「聞いてる聞いてる、そんな事より飯来たぞ飯」
「あ、もうか」
「もうだ、いただきます」
俺一人だけいただきますをして出された料理をモグモグ食べる
…………くそ美味ぇ
「これでたったの300Gとは、正気の沙汰とは思えんぜ、うまうま」
「当然、あたしに感謝しなさいよ?もぐもぐ」
「よく言うぜ、それよか気になってたんだけどさ」
「あによ?」
「この剣の説明でも言ってたけど
ーー杖って何?」
「ぶッ!!?」
「うわ汚ッたな!!!」
「アンタ正気!?
てかマジで言ってんの!?
アンタって本当に本当に魔法使いなの、てかアンタの師匠は何してんのよ!?」
「……まず謝罪とタオルを所望する」
「そんな事よりよ!」
俺の顔面状況をそんな事呼ばわりしてくれやがったコイツは懇切丁寧に説明してくれた
杖とは、魔法の神秘が秘められており、魔力を流す事により魔法を発動させる、魔力操作を格段に跳ね上げ威力の底上げ、て言うか杖無しで魔法使う人なんて居んの?
と言った事を食事中延々と話してくれた
「はぁ、そんな便利なのがねぇ」
「信じらんない、杖を知らないなんて……
って事は、もしかして最初に言ってた一番簡単な魔法って……」
「いや杖使ってたわ、師匠から説明されてないだけで」
「なーんだつまんないの」
「詰まってたまるか」
ナイスプレー俺!
自分で自分を褒める、だって誰も褒めてくれないし、それよかだ
危ねぇ、まさかそんな地雷が埋まってようとは、これで認めたら何かフラグが立つんだろ?
そうはさせねぇよ、させてたまるかよ、偉大なる先人達の誤ちを俺が繰り返してなるものか、先人達つっても個人小説だけれど
とにかく、よくやった俺、今日はパーティーだぜ
そんなこんなで無事に何ごとも無く食事を終えて、レイチェルとの待ち合わせ場所に向かう事にした
「それじゃまた何時か何処かで」
「縁が有ったらまた会いましょう、後また愚痴聞いてね」
「できれば二度目はゴメンかな、んじゃなダチ公」
「ダチ公?」
「気にすんな、ただの友達って事だから」
「友達……そう、そっか」
「どした?」
「んん、何でもない、それじゃ」
「おう、それじゃ」
何だかその後も、リオとはまた何処ぞで出会うような気がした、その時にはコレの使い心地でも駄弁るとしよう
「キカイジマ、一体何を買って来たの?」
「おう、剣にもなる杖を買ってきた」
「杖?
……残念だけれど、家にあった本は幾らか年代が古いから分からないわ、教えなさい」
「いや、そんな命令じゃなくても説明するけど」
「何だか貴方に教えられると言うのが気に食わないのよ」
「まいいか、いいか杖ってのはーー」
そんなこんなでカインズの街を俺達は後にした