迷子の強者
iPhoneについ最近変えたやりにくい、 所でこの小説に期待してる奴なんていないと思うが一応今の内に言っとこう、この小説に期待してると裏切られるゾ!
「くっそ!
ざっけんなマジで洒落になってねぇぞ!」
大通りを宿屋に向かってひた走る、こっちの世界の俗に言う『吸血鬼』って奴が、人の家に訪問許可を貰わないと入れないって迷信が通じるかは解らないが、今の俺にはそれしかない
ノンストップで走り続けたからか肺が痛い、心臓が破裂しそうな勢いで鳴ってる、運が悪いどうこうのレベル超えてるだろ
後ろを振り替えって見るてみる、人影は見えないが安心できない、なんつったって奴は10mの距離を物ともせずに心音を聞き取る正真正銘の化物だ
明かり一つ無い街並みに、俺以外に人間は誰一人居ないんじゃないか何て馬鹿な考えが浮かんでくるが、その考えを走る事に集中して頭から追い出す
もうすぐだ、後もう少しで宿に着くからさっき見た事は忘れるんだ
そう自分で言い聞かせても、頭の中であの時の事がリピートされる
「ずいぶん五月蝿い心臓の音ね?」
「淑女の食事を覗き見るなんて、あなたも命知らずね?」
思わずブルリと震えた、幼い声なのに竜か何かに話しかけられたかと思った、振り返った顔にさえ強者の影を見た、黄金かと見紛うような金髪につり上がった朱の瞳、幼さを残しつつ整った顔立ち、何より、あの口から覗いていた鋭い牙
殺される、捕まったら確実に殺される、体が震える脳が凍える本能が恐れる、純粋に力の差が段違いだ
頭の中で色々考えている間にも足は確りと働いてくれていたみたいで、もうすでに俺の体は宿屋の前に来ていた
宿屋の扉に手をかけて、ふと後ろを振り返る、こう言う場合は大抵後ろに居る物だが、そこには夜の闇が広がるだけで、人ッ子一人居ない
ホッと、息を吐く
明日からどうしようか、とりあえずこの街には一時も居たくない、明日起きたら真っ先にチェックアウトして――
「どこに行くのかしら?」
ちょうど、今扉を開けて中に入ろうとしていた所だった、ゆっくりと振り返ると、やっぱりそこには彼女が居た
ついさっき人ッ子一人居なかった場所には、化物が、吸血鬼が、人食いの鬼が居た
「――こ、今晩はお嬢さん、どこにも?
見ての通り帰るだけだ、綺麗な夜空も見れたしもう帰る所だよ、うん」
――会話を途切れさせるんじゃねぇーぞ俺
何か奴の気を反らすような話をしろ、喋り続けろ、休むな、奴に時間を与えるんじゃないぞ俺!
何としても隙を見付けるんだ、話してる間に誰か人が来てくれれば踊り出す自信があるぜ
「あらそう、確かに今宵は綺麗な満月ね、こんなに綺麗な満月だもの、少々胸の高鳴りが激しくなっても仕方ないわ
所で貴方、こんな所で淑女に立たせ続けるつもり?
少し座って話したいのだけど、そうね、貴方のお部屋に招待して貰ってもよろしいかしら」
「――ッ!?」
い、いいいきなりどんぴしゃど真ん中来やがった、助けていーくん今は貴方の戯言がこの上なく必要です
「そんなに怯えてしまって、貴方随分とかわいらしいわね?
何もしないから、私を貴方の部屋に案内なさい」
「――ぁ、?」
何もしない、と言っているが、本当に?、本当だろうか?
もし本当ならの話しだが、別に彼女を部屋に案内する位構わないんじゃないか?
それに良く良く見なくても彼女は恐ろしい程に可愛いし、何より彼女を見ていると胸の高鳴りが止まらない、彼女の赤い月のような瞳がなんと魅力的な事か
彼女が欲しい、彼女に名前を呼んでもらうだけでいい、それだけで俺は満足できる、なんだろうかこの高鳴りは、もしかして、もしかすると、これが所謂恋って奴なのか?
なーんて
――なーんて、さ
ざっけんなくそが!!!
ぬかしやがれよ、どうした俺!?
何考えてんだ馬鹿が!
何が恋だくそったれ爆発しろ、似合わない事のたまってんじゃねぇよ!
「――ぇ?」
彼女がポカーンとしてるが知ったこっちゃない、正気を保てよ機械島済!
後ろ手に扉の取っ手に手をかける、そこで呆けてた彼女が似つかわしく無いが、あたふたと慌てふためきながら声をかけてくる
「あ、ちょ、な…ちょっと待ちなさい、何をやってるの貴方、悪いけど無意味よ、貴方が宿屋に入るより私の方が一歩速いわ!」
「む……」
一歩速い、彼女の方が、それはちょっと不味い、今のこの拮抗した状況が俺の敗北という形で終わる
それは不味い、どうする、考えてみせろ
一歩だ、彼女曰く(いわく)一歩の差なんだ、どうにかしてその一歩を稼ぐんだ、彼女より速く、もしくは彼女を俺より遅く
考えろよ現代日本人、お前ここより遥か未来むしろ別次元別世界から来たんだろうがそれくらいやってのけろ……遥か未来?
その時、俺の頭の中にティンと来た物があったーー
「――もう、いいわ貴方」
「豪速球!」
「無駄よ――え?」
彼女が動き始めた瞬間、作戦を煮詰めるまでもなく行動に移す、彼女にある物をぶん投げ宿屋に飛び込み扉を閉める
や、やったか?
何だかフラグを立てた気もする
一秒、二秒、三秒
――待てども待てども彼女は現れない、助かった…のか?
腰から力が抜ける、今になって体が震えてくる、なんだったんだろ今の
震える体に力を込めて部屋に向かう、ベッドに潜り込んで目を閉じる
窓の外は見ない、見たく無かった見たくも有ったけど、もう一度彼女を見るつもりは無かった
俺は異世界に来てから良いこと無いなと思いながら眠りについた
うっすらと意識が覚醒していくのを感じる、翌朝、なのだろう、人の気配、声や音が被った毛布の中の俺に届く
眠い、酷く眠い、このボロいベッドからすら出たくない、何でこんなに疲れてんの俺は?
えっと、たしか、そう、吸血鬼に会ったんだったか……
「二度寝しようかな……」
「随分と遅い起床ね?」
あ、俺死んだ
ぼけーっと彼女を見詰める俺の様子に気付いているのかいないのか、彼女は優雅にティーなんて代物を飲んでる
「もう昼よ?
私は貴方がヴァンパイアだと言われたら信じてしまう程の夜型ね?」
「……あー、と…今のってもしかしなくても嫌みか?」
「あら……理解できるだけの頭は有るのね?」
「解り辛ぇよ、てか、何で?」
「貴方のその言葉で理解出来るのは、貴方に対人能力が無いと言う事だけよ」
「……絶好調だなお前」
「ぉ、お前?
貴方、出会った頃と態度が余りに違わないかしら?」
「もう、なんか、ここまで来たらどうしようもねぇ、どうしようもねぇぜ」
この部屋に居る、って事は彼女は普通に不法侵入出来るって事だし、何より大切なのは今の時刻が昼で、彼女の足に太陽の光が当たってるって所だ
なんつったか、真祖の吸血鬼だったか、なんか滅茶苦茶強くて弱点が無いんじゃないっけ?
いやー真祖の吸血鬼さんマジパネェっすわ、ハイデイライトウォーカーなんてすごいっすねははは
勝てる訳がないじゃない
「で、何しに来たの?」
「……貴方にこれを返しに来たのよ」
「ぇ、……ありがと?」
そう言って受け取ったのは、彼女に投げた音楽プレイヤー、あの時大音量で流していた音楽はもう既に止まってる
あの時の俺には称賛を送りたい、魔法が有るこの世界でも音楽プレイヤーのような物は無いだろうと言う予想は当たっていたらしい、あの彼女の顔は傑作だったぜ
まぁそれも今となっては意味が無いんだけど、それからしばらく待っているが、彼女は一向に動かない、いや紅茶は飲んでるが動きはそれだけだ
「なぁ、口封じに血とか吸ったりしないのか?」
「もう頂いたわ」
「うそォッ!?」
首筋を触っていると彼女が紅茶を置いて此方に来た
ベッドの上、俺の上に跨がって首を触って目を見合わせてくる、てか何やってんのですかこの幼女
「……ヤッパリ、効いてない」
「何が、て言うか降りてもらえ――」
「ここ、ここに噛みついたのよ」
「うひゃっふぅ!」
息が、首に息が!
抱き寄せるように首筋に彼女の顔が迫る、わぁーおんなのこがこんなにみじかに、って違うわ!
「うるさいわ貴方の心音」
「はい、ごめんなさい」
「……ふぅ、そうね、決めたわ」
それだけ言って彼女は俺から降りると、椅子に座ってまたしても紅茶を飲み始めた、彼女が乗っていた場所が未だに熱いが、気にしてる暇は無い、んだけど片隅程度に気にしておく
ベッドから降りた俺は彼女の反対側の椅子に座って彼女を睨み付ける
「あら怖い、今にも襲い掛からんとしてる野犬のようよ?」
「……聞きたい事が有るんだが
何で俺はまだ生きてるんだ?
音楽プレイヤーなんて俺を殺せば返す必要なんて無かった筈だし、そもそも血を吸われたのなら、何で俺はまだ生きてる?」
「私の気紛れ」
「……は?」
「あら、聞こえなかったのかしら?
貴方は私の気紛れで生きているのよ?」
「そうか……」
これ、どうしろってんだよ
目の前にはどうしようもない、どうこうできない存在が居る
この状況で俺はどうすりゃいいんだよ、逃げりゃいいのか?
どこにだよ、流水だって効かねぇぞきっと
倒すか?、ぬかせよ
対話?、今してんだろ
まぁ、つまる所はそう言う事なんだろう
この俺の命は、あの夜に彼女に出会った時から全権を彼女に握られているんだ
気紛れに生かされ、気紛れに殺される
そのどちらもが彼女の思うがまま、彼女が絶対的な強者であり、戦う前から勝者である、であればだ
いい加減この幼女に聞かなきゃならん
「で、何が『決めたわ』なんだお嬢ちゃん」
「もちろん、これからの待遇よお兄ちゃん」
「――おにッ!!!」
思わぬ反撃を受けた、ボクシングでここぞのチャンスにストレートを打ち込んだら外野から機関銃で撃ち込まれた気分だ
静かに椅子から立ち上がった彼女は、その黄金と見紛う金髪をかき上げて俺の命運を宣言した
「私は、家に帰っている途中なのだけれど、少し厄介な所にあって場所が解らないの」
「――吸血鬼が迷子かよ」
「口を慎みなさい、厄介な所にある、と言ったばかりでしょう
それと、私は吸血鬼と言う言い種が嫌いなの、解ったかしら」
「吸血鬼ならぬ吸血姫なら――」
「その旅に、貴方を連れていくわ」
彼女は連れていくと言った、ならばこれは決定事項なんだろう、喰われる餌である俺には、元より拒否権など無い
であれば次に気になるのは
「なぜ?」
「何か疑問かしら?」
「俺を連れていって何になる、特がある訳じゃない、むしろ損しか無い筈だ
命が助かるなら小躍りしながら着いてってやるが、旅の途中でやっぱいらないとか言って殺されるのは勘弁だぜ?」
「気になる事があるのよ、それと貴方の血を好きな時に飲ませてもらうわ
そうね、私が帰れたら、後は好きにして良いわ」
「そりゃありがたい
所で、俺は所持金はほぼ0だぞ、おまけに何にも出来ないからな、それで良ければ何処へなりとも」
「そう、元から期待してないわ」
「ああ、そういやうっかりしてたわ
俺の名前は機械島 済
人間だ、これから宜しくな?」
「――そうね、うっかりしてたわ
私の名前はレイチェル・D・アーヴィング
真祖の吸血鬼と呼ばれる者よ
ほら、何をグズグズしているの、速く行くわよ」
そう言ってティーカップを、見た感じ影に放り込んで部屋を出ていった
何だか猛烈な勢いで話が進んだが、まぁほぼ無一文の俺には結果的に良い事だったな、おまけにあの影、もしあれが魔法だとしたら教えてもらう事が出来るかもしれない
これから先に本の少しの期待と大きな不安を残して、彼女の後を追って宿屋をチェックアウトした