日の出が綺麗な街
前よりは良くなってるはず
そんな事よりイースセルセタの樹海って面白いのかな?
それが気になって夜も眠れない、買うべきか買わざるベキか……
ーー兄ぃちゃん!
ガタゴト ガタゴト
背中から僅かな振動が伝わってくる、そう言えば俺は旅を始めたころは酷くこの感覚が嫌いだった
不規則に右に左に揺れる馬車の中は何か別の事に集中していないと酔ってしまって気持ちが悪い、睡眠ともなると地獄のよう
強制的に馬車の揺れに意識を持っていかれるからだ、今はそれ程でもないからか忘れるが、それ以外にもこっちに来てから変わった所は沢山有る……
……何で今更こんな事を考えてるんだろ、もう帰れないって決め付けてかかってるんだがなぁ、やっぱり心のどっかで帰りたいって思ってんのかね?
馬鹿馬鹿しい、どうせ俺も何やかんやでこっちに居たいと思い始める癖に、今まで異世界に行って帰ってきた奴なんざ個人小説でもみた事ねっての、しかも妹の子供の頃の夢とか、アイツが兄ちゃん何て言ってたのは本当に少しの間だけなんだが、俗に所謂ホームシックのような物だろうか、そんな物なんの価値も意味も無いのに……
鬱屈とした気持ちのまま寝床から這い出る、まだ日が出ていないのか、空が白んでいる程度で少し肌寒い
「むんんーー」
何か変な呻き声が聞こえたと思ったらレイチェルだった、毛布に包まって縮こまっている、どうやらそうやって寒さに耐えているんだろうが……何かの毛で出来てる毛布が床に落ちている為に、毛布の中では比較的薄い物で寒さに耐えている
いや、それじゃ寒いのは当然だろが
「はぁ、仕方無ぇな
ほらよ、今度は落っことすなよ」
「んー」
「ごぶっ!?」
布団が吹っ飛んだ、もとい毛布が吹っ飛んだ、吹っ飛んできた衝撃で床に倒れた身体を起こす、たかが毛布と侮る事なかれ、ヴァンパイアの怪力で放たれた毛布は結構強い
さて、それはさておき困ったな、まさか毛布が蹴飛ばされるとは、いや原因は分かってるんだがコレで大丈夫だったら良いなと
軽いため息と共に冷たい毛布を抱き上げて隅に寄せる、どうやらお姫様は寒がり体質らしい
しかしそうなるとこのついには震え始めたお姫様をどうするかだが、まぁ後で臭いとか文句を言われるだろうが風邪を引かれるよか良いか
ついさっきまで俺が毛布にして居た物をレイチェル団子の上に被せる、暫く見て居ると無事レイチェル団子に取り込まれた、文字通り取り込まれた、何だろう今の動きは……
見た目さっきより大きくなったレイチェル団子から離れて馬車の操車席に座る、どうやらまだ次の街とやらにはついていないようで
朝霧を切り進んで行く、何の虫だか知らないが早朝から忙しい連中だ、一角獣の操縦をしながらあちらこちらへ視線を動かして居ると話題の虫を見付けた、てんとう虫のような身体に二つの球体がくっ付いていてその球体が青白く光ると飛び始める
「なにこれすげぇ、どうなってんのコレ?」
「うるさいわよキカイジマ」
「あ、おはようレイチェル」
「おはよう、虫何かに構ってないで速くコッチに来なさい、外だと寒いでしょう
それに何で貴方今から操車席に居るのよ、何時までも寝ぼけないでちょうだい」
そう言えば人影も無いのに俺は何をやってんだか、いやあの虫を見れただけ良しとするか、良しとしないと何だか俺が馬鹿みたいだ
操車席から立ち上がって馬車の中に入ろうとした所で顔に何かがぶつかる、ふわふわしていて暖かい、後なんかレイチェルみたいな匂いがする……
顔からどかして見ればなんて事は無い、レイチェル団子に取り込まれた俺の毛布じゃないか
「ずっと外にいて寒いでしょうに、キカイジマって本当に馬鹿なんだから」
「面目ない、修行僧ばりに反省しとく」
「そんな物は良いから速くなさい、せっかく入れた紅茶が冷めてしまうでしょう」
「うい」
毛布で身体を包み込んで馬車の中に入ると、紅茶の良い匂いが広がってる、ここ最近炭酸飲料を飲みたくなる時が多々あるが、こう言った物もやはり嫌いじゃない、なにより異世界ってだけで下手な物より価値がある、本当に価値が有る物は金で買えないとは真実だったか
まぁその価値有る物はコッチの金で買えるんだろうが、それは言わないで置くのが花ってもんだろう
椅子に座ると既に用意されていた紅茶を手に取る、コッチの世界でも指折りの紅茶であろう物だ心して飲まねば
「…………おかわり」
「紅茶を一口で飲み干す人は始めて見たわ」
「しょうがないだろ、こんなに寒いんだから」
「今度は一気飲み出来ないように酷く熱くしておいてあげるわ」
レイチェルがポットを手に取って俺のカップに紅茶を注ぎ込んで来る、なんやかんやで優しいレイチェルさん流石です
カップに手を付けて持ち上げる、紅茶のいい匂いが広がってくる、琥珀色の綺麗な紅茶が馬車の揺れで波紋を作っている、一通り匂いを堪能した後に元に戻す
「熱すぎて飲めません」
「あら、反応が無いから平気なのかと思ったわ」
「これどうすりゃいいの?」
「堪能なさい」
レイチェルはどうやら助けてくれないらしい、仕方が無いから冷めるまで放置しておくしかなさそうだ、街に着くまでに冷めてると良いんだが……
まさかこの朝の寒さが有効活用できるとは思いもしなかったが、朝の寒さ様々だな……
いやまて、何で寒さ対策の紅茶を飲む為に寒さに感謝しなくちゃいけないんだよ、本末転倒どころの話じゃない
窓の外を眺めれば結構な速さで動いているのか、木々や草原が後方へ流れて行く、深く考えなかったが、この窓ってのもおかしなもんだな、中世ヨーロッパにはガラスって無かった筈だけど
何で中世ヨーロッパって思ったんだったか、やっぱりレンガ作りの家と武装してる人とかを見て変にファンタジー小説とかを読んでいたからか
「今度からはちゃんと楽しむ事ね、せっかく私が入れてあげたのに一口で飲み干すだなんて」
「申し訳ございません」
「紅茶が冷めるまで時間がかかるでしょうからコレでも覚えておきなさい」
レイチェルが差し出したのは魔法陣だった、それもただの魔法陣じゃない、こんな魔法陣は魔法辞典の中級にも乗ってない、だとすると必然的に上級だと思うんだが
コレは何の魔法だ?
魔法陣の隅から隅まで見るが、俺の知らない魔法文字も使われているから判断が出来ない、そも魔法辞典に乗ってない魔法文字もあるのかよ
その事に少なくない衝撃を受けながらレイチェルに聞いてみる
「コレ何の魔法陣?」
「私が何時も使ってる収納魔法の魔法陣よ」
収納魔法ってーと、あの影魔法か!?
レイチェルのかざす影魔法陣を記憶する、ゲームの事の記憶力を勉強に生かせればと言われ続けた男の実力を舐めないでもらおうか
「よし記憶した」
「……貴方って馬車の操縦や紅茶の入れ方にはあんなに手こずったのに、どうして魔法に関する事だけはこんなに記憶力が良いのかしら?」
「それはそれ、これはこれ
それはさておき、早速試すとするぜ」
魔力を固めて魔法陣を作り出す、何時もなら剣を使って隠すんだが今はレイチェルしか見ていないから構わないだろう
いやぁ黒色ってのは良いよね、確かに漆黒のうんちゃらとか聞いていて鳥肌ダッシュ物も有るのは確かだけれど、黒色が悪いって訳じゃないしね、そもそも中学二年生に特有のアレは自分が普通じゃない周りとは違う特別な存在なんだと思いたいが為の物だ
その結果として人に怖がられる闇を連想させる黒色が上げられているんだろう、だけれど本当に人と違うのが良いならいっその事茶色とかピンクとかにすれば良いのに
それこそそれはそれか、いくら人と違っても格好がつかなくっちゃダメなのか、しかし……
「一向に出来ないんですがレイチェルさん」
「それはそうよ、その魔法陣は何かの影で無いと発動しないの」
「ああ、なるほど」
今一度掌の上の魔法陣を見れば綺麗に窓の光が当たっている、発動条件を満たしてない、なるほど発動する訳が無ぇわな
魔法陣を掌から机の上に移動させると、魔法陣が光を伴って変化する、ブラックホールみたいに広がったそれに恐る恐ると剣を入れてみる
ぞぶりぞぶり、と剣が入り込むのは少し怖い、完全に入り込んだのを見届けると今度は手を突っ込んで剣の柄だと思われる物を掴んだら一気に引き抜く、そこには全く変わらぬ姿の剣があった
「やべえ、感動のあまり今なら天変地異だって起こせるぜ」
「馬鹿な事を言わないでちょうだい、あら?
どうやら次の街にもうそろそろ着くだから準備なさい」
「はいはい了解お姫様」
どうやら紅茶が冷めるまでの時間は無いようだ、はしゃぎ過ぎたせいか肩から毛布がずり落ちている
次からははしゃぎ過ぎ無いようにしよう、そう思いながら身体を毛布で包み込んで操車席に乗り込むと、朝の寒い風が吹いて来た、毛布をもう一度キツく身体に纏って手綱を握る
肌寒いな、それに……こりゃ海の匂い?
耳を済ませればミャアミャアという鳴き声も聞こえてくる、そうかここからは海が近いのか、コッチも海は同じく青いのかな?
今はもう行けないアッチの海に思いを寄せていると、後ろからレイチェルがポットを片手に出てきた、俺に持ってきたって訳じゃなさそうだが
レイチェルの顔を見てみれば困ったような顔をしている
「熱くて飲めないわ」
「……レイチェルって時たま馬鹿だよな」
「……それより速く冷ましなさい」
「俺?」
「そう貴方よ、ちなみに魔法を使ってはいけないわ」
「八つ当たりだろ!?」
「いいえ違うわ、これはただ単純にキカイジマの困った顔が見たいだけなの、八つ当たり何かでは無いわ」
尚更悪いわと思いながらも隣に座ったレイチェルからカップを受け取る、中の紅茶はもう冷めていて程よい暖かさだ
チラとレイチェルを盗みみれば、毛布に包まって紅茶を飲んでいる
「……外は寒いし、中に入ったらどうだ?」
「中で何もせずに居るのは退屈なのよ」
「さいで」
それから俺たちは言葉少なに馬車に揺られていると、道の先に大きな街を見付けた、空には鳥が飛び回っていて、その更に向こうには大きな海が見える
港街から登る日の出は朝霧を消し飛ばす、日の出ってのは見ていて気持ちいい物だな、出来る事なら、元の世界でも見てみたいもんだ
「アレが次の街、港街ダイスよ」
レイチェルの声に耳を傾けて手綱に力を入れる、どうやら今度は船に乗り込むらしいが
……さて、俺は酔わずに済むのだろうか?
話が進まなくてゴメンね、なんせこの話って道中だけで終わっちゃったし
作者の道中から街への繋ぎ方が今一納得出来ないってだけでここで区切らせた物だからね、ゴメンね
さて、次回は……いや明日になったら忘れてるかもだし言わないでおこう
それでは諸君、おやすみなさい