吸血鬼とヴァンパイアの違い
何時もより出来が悪いのは自覚してる……
……ぇ、何時も出来が悪いだろって?
( T)貴公……
夜空の光を見上げながら物思いにふける
そう言えば、俺はこの世界を異世界と断定しているが、本当の所はどうなんだろう?
確かにここには魔法と呼ばれる物が存在するが、だから異世界だと言うには少し早計な気がする、もしかしたらココは異世界何かじゃなくて同じ銀河系の中の星なのかもしれない、確かに……レイチェルがよく使う影魔法は物理法則を完全に無視しているように思えるが、そもそも本当に影を操っているかどうかも怪しい、影とは名ばかりの虫の大群かもしれない、異世界何だから物理法則位俺の知ってるのと違わなくては困る、そこで出てくるのはやはり収納の影魔法か、あの完全に物理法則ってナニと言わんばかりの影魔法は問答無用で異世界と判断するに事足りる情報だろう、俺は始めてコッチに来た時に出会った狼型の魔物も見た目的に異世界っぽかったが、あんな生き物が元の世界に居ないとも断定は出来ない筈だ、普通に暮らしている内は出会わないが、ネットで深海の生物とかを見れば可能性が出てくる
まぁ、異世界だろうが別惑星だろうが知ったこっちゃ無いんだけど
「何時まで頭を出しているの、次が来たわよ」
「マジか、あぶねーあぶねー」
さて、現実逃避はそろそろ止めて現実を見ようか
レイチェルの注意に従い馬車の窓から乗り出していた頭を引っ込める、中ではレイチェルが地面から浮き上がった影に何やら掌を向けて集中している、ここに魔法陣があればまだ解析の余地は有るが、魔法陣を晒さないレイチェルには意味が無い
レイチェルの隣の椅子に腰掛けるとほぼ同時に、外から何人もの大声が聞こえた
『我等一切を灰塵に期す事を胸にーー』
「うっわマジかよ、恥ずかしくないのあいつ等!?」
「仕方が無いわ、アレ等は杖が無ければ何も出来ないと信じ切っている赤子よ、呪文が必要だと、そう教わって来たのだから」
「いや、俺が言ってるのはソッチじゃなくてあの鳥肌が立つ呪文の方にーー」
『ーー篝火に火を灯せ、宿敵に止まらぬ災禍を、灼熱の雨!』
「やべぇ、これは新手の精神攻撃か何かかよ、新手って言うか荒手と言うか、俺には出来ないな恥ずかしくて、諸刃の剣すぎる
これが成長環境の差か、深いな……」
「キカイジマが何に驚いているのか分からないのだけれど?」
「気にするな、中学二年生時代が無い者には分からない事だ」
レイチェルと駄弁っているが、その実結構緊迫とした状況の中に俺とレイチェルは居た
空から降り注ぐ火の雨を耐え忍んだ後に様々な種類の魔法がこれでもかと飛んでくる、それ等の魔法は全てレイチェルの影に叩き伏せられて馬車に届くまでは至らない
魔法を打って来た連中は魔力が尽きるまで打ち続けると、また別の奴が魔法を打ち始めるので切りがない
「で、結局奴等って何なのさ?
もしかして、最初に出会った時みたいに襲われそうになったから吸血したん?」
「馬鹿な事を言わないでちょうだい
あの時は本当に仕方なく殺したのよ、人間を1人でも殺すと後から後から何処からともなく出て来て気持ち悪いって家の書物に書いてあったわ」
「そんな、何かゴキブリみたいな言われ方してんの人類って、気持ち悪いって……」
「とにかく、人目につく所では殺す訳がないわ、アレ等は教会の人間よ、吸血鬼も何人か混ざってるみたいね、道理でしつこいと思ったわ」
「吸血鬼?
お前の同族かよ、そもそもレイチェルお前なにしでかしたの?」
「私は吸血鬼じゃなくてヴァンパイアよ
何、と言われても、教会が余りにも大きいから、家の有無を確認しただけよ、そしたら薄汚いブタが五月蝿いし、蹴飛ばしてやれば別の人間がお前は何だと喚き出すからヴァンパイアだと答えたらこの有様よ
本当に沢山出て来たから驚いたわ、書物にあった通りなのね、1人居たら三十人は居ると思えって信じてなかったわ」
「だから人類をゴキブリに例えるのは止めてくれませんかねぇ作者さん!?」
「あら、お母様を侮辱する気なら相手になるわよ?」
「作者レイチェルのお母さん!?
侮辱する気など一切御座いませんが、それよりあのしつこさは異常だぜ、何か統率が取れてるし、あんな歴戦の動き簡単に出来るもんじゃねぇ、間違いなくプロだぜ」
「何のプロよ何の、キカイジマに統率と言う物が分かるだなんて始めて聞いたのだけれど」
「分かる訳無いだろ、ノリと感覚で言ってるんだよ、それにしたってあいつ等の殺る気がヤバイんだが、本当にそれだけ?」
後方の魔法を放ち続けている彼等を馬車の窓から覗き見る、最初の頃より大分距離があるが未だに諦める様子が無い
あの必死の形相を見るととてもじゃないがレイチェルの言ったことだけだとは思えんのよな、あいつ等の殺る気が怖い、だがレイチェルの魔法で全くの無意味に終わってるんだが、レイチェルの魔力だって無限じゃないはず、速めに何とかした方が良いかもしれない
「そうね、良い機会だし何か勘違いしてるみたいだから教えてあげるわ、ヴァンパイアと吸血鬼の違い」
「……同じじゃないの?」
「全くの別物よ、でも私の情報は古いと言う事を念頭に置いておきなさい」
「任せろ」
「吸血鬼と言うのは元々が人間だった者がヴァンパイアに吸血されて作れるか、ごく稀に吸血され尽くした者がなるの
吸血鬼にはヴァンパイアと違って弱点が多い事も上げられるわ、代表的なのは太陽の光を浴びると灰になる事くらいかしら」
「む」
後方の人達を見るが誰も灰になどなっていない、早速レイチェルの情報の古さが露見した
それで一々話を遮ったりしないが、気になる物は気になる、種族として進化したのか、それともそう言う道具を使ってるのか
レイチェルが影に向けていた身体を此方に向け足を組んで完全に話す体制に入った、魔法はどうしたと言うべきだろうか、いやレイチェルが話に夢中になってそこら辺を忘れる何てないから何かしらの対策をしているんだろうな
そのままレイチェルは何時もと同じ優雅な体制で、何時もと違って紅茶を出さずに話を続けた
「何が言いたいのかは分かるけれど、それは私にも分からないわ、どこか詳しい情報が集まってる所があれば良いのだけれど
今言っても仕方が無い事ね、彼等吸血鬼は基本的に昔はヴァンパイアと同一視されて居たようだけれど、吸血鬼の中に人と関わってヴァンパイアを倒そうとする者が現れたの
高々人と吸血鬼如きでは話にならないのだけれど、何分人の数が多くてね、元々数が少なかったヴァンパイアは極端に減ってしまったの
その時に人の宗教に入り込んだ吸血鬼がヴァンパイアを悪の象徴、倒すべき敵とした事で吸血鬼に向かう筈の人を全てヴァンパイアに向けて居たわ
私はこれがアーヴィング城を影に隠した理由と何か関係が有ると見て居るけれど、もうずっと昔の話だから分からないわね」
「分からない事だらけだけど、あいつ等教会の連中が追って来るのはそう言った理由だってのは分かった
だがどうするよ、宗教ってのは何処の世界でも一方面だけじゃないってのは分かったが、あいつ等がただじゃ諦めないって事しか分からなかったぞ」
「あら、キカイジマの世界でも宗教は有るのね?」
「色々有るぞ、色々な、例えその宗教を信仰していてもとある民族じゃないと救われない宗教も有る、まぁそんな宗教になったのは理由が有るんだが、今はそんな事より後ろの……
ーーアレ?」
振り返って後方を指差すも狙いの物は見当たらない、先程まで見えていた雪崩のような土煙も、人を飲み込む津波のような人影も、闇夜を切り裂いてここら一帯を明るく照らしていた魔法の雨も、どれ一つとして目にする事が出来ない
どう言う事だ、振り切った……何てこた無いだろう、あいつ等を最後に見てからまだそんなに時間が立ってない、その間に振り切るだなんて流石にこの馬車でも出来ない筈だ
「……どっかで待ち伏せしてるのか?」
「それは無いわ、何せアレ等は今頃闇沼に足元を捕らわれて動けないのだから」
「……闇沼ってのは何なんだ?」
「足止め用の魔法よ、本来なら直径3m程の闇沼が出来上がるのだけれど」
「3mじゃまだ小さいと思うんだが」
「広げたわ」
「……そうですか」
「そろそろ寝ましょう、何だか疲れたわ」
「はいはいっと、馬車はこのまま走らせて置いて良いのか?」
「構わないわ、アレ等は本当にしつこいらしいから距離を離しておかないと
明日の朝にはきっと次の街の近くよ、そこには大きな城も無いし、直ぐに次の街に行くわ」
「極めて承知、朝から手綱か、こいつ等レイチェルの見てない所だとあんま言う事聞かないからさ、その……
出来ればで良いんだけどーー」
「ーー嫌よ」
「まだ何にも言ってないじゃん……」
「それじゃ、おやすみなさいキカイジマ」
「はいはいお休み」
そう言ってレイチェルは自分とその周りを影で包み込んで、一瞬の内にベッドに潜り込んだレイチェルが現れた、今まで別個に出していたのしか見た事が無いが、どうやら一緒に出す事が出来るみたいだ
まさか異世界で宗教の問題にぶち当たるとは、頭が痛くなるな、だけどもう出会う事も無いだろうし頭の片隅に放置で良いだろ
まずは明日の朝の為にも寝るとしますか