世界で最も古きモノ・後編
投稿に時間が空いたのは久々にデモンズとダークソウルをやっていたからと言い訳してみる
地平線から立ち上る太陽を眺めて、ああ今日で異世界生活何日目だろうと過去を振り返って見る、そういえば最初に出会ったあの爺さん杖持ってたっけか?
どうだったかいまいち思い出せない、思い出せないって事はどうでもいい事なのだと言われた事が有るが、俺の実体験から考えるとそんな事は無い事が多々ある、家の鍵や携帯電話はさて置き、財布やハンコもどこにやったか忘れるのだから、そもそもそんな事を言ったら宿題を忘れた子に絶大な言い訳を与えてしまう、まぁ先生にそう言った所で通用しないと思うが……
戯言は捨て置いて、昨日早く寝てしまったからか、今日は日の出と共に自然に目が覚めてしまった、レイチェルが起きるのはまだまだだろうし、奴隷オークションもまだ始まらない、この時間からやってる店は勿論有るだろうが動きたく無い
要するに暇なのである、魔法の研究は起きて真っ先にやったし魔法辞典は読む気にならない、いくら楽しみの魔法辞典だからって寝起きに文字が細々とした物は見たくない
そしてそうなって来ると本格的にやる事が無い、丁度いい所で魔法研究の区切りが付いたのでこれ以上やるならレイチェルが起きた後も熱中して続けるかもしれない、流石にソレはどうだろうと諦める
だがやる事が無いのは事実だ、レイチェルが起きていれば大分違うんだけどな
俺は未だベッドで静かな寝息を立てるレイチェルを上から覗き込んだ、こんなに近いのにグースカ寝てるとは、俺が暗殺者なら死んでるぞコイツ
取り敢えずプニプニほっぺたを突ついて見るがあんまり面白くない、それもそうだろう、なんせこう見えて命懸けだ、もしこの瞬間にでもレイチェルのその真紅の瞳が目を覚ましたら俺の命は無いだろう
この圧倒的罪悪感、身を焦がすかのような緊張感、絶対にやってはいけない事をやっている緊迫感、これら全てが最高に極上の暇潰しを……提供してくれる訳が無い、極上っつうか獄上?
レイチェルのベッドから音も無く静かに、誇張が入ったが正しくはモゾモゾと音を立てながら降りて机の前に座る
俺は何をやってるんだろうか、自分で自分が恥ずかしい……
仕方なく魔法辞典を取り出して読みふける、集中出来てないのか意識が別の所へ飛んで行く、ここの教会は何を信仰してんだろうとか、レイチェルの影魔法がそろそろ使いたいなとか、魔力をもっとうまく使う為にどんな小細工を使おうかとか、この世界の常識だとか
そんな風に時間を潰していると、レイチェルが眠るベッドから物音が聞こえて来た、起きたかと思いベッドへ視線を向けるとモゾモゾと動くだけで起き上がる様子が無い
「……レイチェル?」
「んー」
「お前絶対起きてるよな?」
「……」
「おい」
「おやすみなさい」
「起きろごら、暇で死にそう何だよ」
それからしばらくレイチェルと俺の攻防が続いたんだが、攻防の間に起きたのかベッドから這い出て来た
黄金みたいな金髪に寝癖が伺える物の、寝癖何てなんのそのと言わんばかりに寝起きのレイチェルは絵になる、基本レイチェルが無防備に女の子座りしたりする姿は大変貴重……だったな、何か慣れて来たよ毎朝毎朝こうなんだから、取り敢えず陶器のような肌を覗かせるのは止めろと言いたい、非常に困る
なるたけレイチェルを視界に入れないように魔法辞典を見ながら着替えろと言っといた
「キカイジマって、毎朝起きろと言うのに、私が起きたら起きたで何時もそうね?」
「何が?」
「何て言えば良いのかしら?
そうね、私は何故毎度毎度起こすのに、起こしたら興味を無くしたように冷たくなるのか、と聞いているの」
「うぉ、ちょおまっ!?」
唐突に身体中に巻きついて来る黒い物体を瞬時にレイチェルの影だと気付いた俺は無意味だと分かっていても暴れた、まるでスライムか何かのように俺を取り込んだ影は、スルスルとレイチェルのベッドに俺を運んで吐き捨てた
受け身も取る暇も無く、お腹の上にレイチェルがのしかかり、グッと体を寄せて来た、待てよ、この動きはッ!?
「あ痛ァーーー!?」
「ふるさふぃふぁ、黙りなさい」
「嫌あのレイチェルさぁああたたた!」
レイチェルの鋭い牙が首筋にゾブリと突き刺さる、何時もみたいな痛くない甘噛みみたいなのとは違って、意図的なのか無意識なのかは分からないが今回の吸血はちょっと痛い、頑張って抜け出そうとしてみるがレイチェルが脚と腕を使ってしがみついてきている為に抜け出せない、見た目こそ幼い姫だがその実吸血鬼だ、男女の力の差等は意味を持たないらしい
もしもこの状態でレイチェルが吸血鬼でなくて今まさに吸血行為を行っていなければ、などと無駄な事を考えるだけの余裕は有るらしい、体を密着させている為に何か匂いとか体温とか音とか感触とか痛みとか痛覚とか痛いって言うか凄く痛いというか
って言うか痛ぇ!?
「いたたたたぁ!?
あのレイチェルさん痛いんですが!?」
「ふぁんふぇふぁふぁぷぁ」
「何て言ってんの!?」
レイチェルがグッと力を込めた後に首筋に埋めていた頭が離れて行く、窓から差し込む光のせいでレイチェルの顔が良く見えない、だが此方を見ている紅く光る眼のジト目と目が合った事は分かった
「キカイジマは、私が嫌いなのかしら」
「ぇ、いやいやそんな訳が無いでしょうレイチェル様、ですから噛み付くにしても痛く無くして欲しいんですが」
「そう、なら恐いのかしら?」
「いやぶっちゃけ怖くないです、て言うか俺の話はスルーですか?」
「だったら、どうして避けるのよ」
そう言ったレイチェルが倒れるこんでくる、ちょうど抱きしめるような形になった所で蚊の鳴くような声でレイチェルが呟いた
「だったら、だったらどうして……」
「……レイチェル?」
「…………」
「あの、レイチェルさーん?」
「…ん……」
恐る恐るとレイチェルの顔を覗き込む、可愛らしさの中にも美しさを見る事が出来る顔が、瞳を瞑って健やかな吐息を零している
吐息、って言うか寝息?
いや、嘘だろコイツマジかよコイツ、この状況で寝ますか!?
胸元のレイチェルを抱き上げてベッドに戻してから気合を入れる
「起きろこのスットコドッコイ!」
「……ん、何よキカイジマ、朝からうるさいわね」
「おまっ、済ました顔して、さっきの事覚えてないのかよ!?」
「キカイジマ私は寝起きなの、少し静かにしてくれるかしら?
それでさっきの、って何かしら?」
「そりゃさっきのって言ったらーー」
そこまで口にして思い留まる、不自然な硬直にレイチェルが不思議そうに尚且つ機嫌悪く此方を見ているが止まった口は動かない
さっきの、って何て答えるんだ?
覚えて無いのはまだ寝ぼけてたとかなら分かるが、その時、どうして避けるのよって言ってたって言うのか?
抱きしめてましたとか言っちゃうのかこの吸血姫に?
しばらく口を開けたり閉めたりした後、意を決して口を開く
「いや何でもなかった」
「……今何て言ったのしら?」
「いやー今日もいい天気だ、おお、そろそろ俺は奴隷オークションに行かなくちゃな、終わったらこの部屋に戻れば良いのか?」
「いえ、今日でこの街を出ようと思っているから、終わったらそのまま西門に来なさい、コレが奴隷購入に使ってもいいお金よ
……今日の予定も大事だけれど、さっきの事についてーー」
「でわ我輩行ってまいります!」
「ーー覚えておきなさい」
何か怖い事を言ってるレイチェルから逃げるように宿屋を出る、朝から元気な声を張り上げる商人達に感心しながら朝の街を駆ける
最初は走っていた脚が、今の自分が何だか情けなくなって来て、ついさっきレイチェルが言っていたように逃げてる自分が何とも情けなくなって、だんだんと走る速度が遅くなって来て、最後には奴隷オークションの前で立ち止まっていた
何時までもグダグダしてても仕方ない、レイチェルのペンダントと何かしらの手土産を片手に謝り倒すしか無い、噛まれないと良いんだが……
魔法薬に火を点け咥えて改めて奴隷オークションの会場を見るが、周辺には人影が一切見えない、奴隷が認められていると言って歓迎されている訳じゃないらしい
さて、招待状によればもう始まる頃合い何だが、店は開いてないし人が居ない……、もしかして俺は場所間違えてたりするか?
そこはかとない不安にあたふたしていると、閉まっていた扉が一人でに開いた、扉の先は明かりの無い一本の通路が続いているだけで人影は見当たらない
行くしかないか
「いらっしゃいませお客様、早速ですが招待状、もしくは参加証明書を見せて貰っても構いませんね?」
「……、は、はい」
「招待状ですか、確かにーー
改めまして、ようこそ置いでくださいましたお客様、お気に召す物が見つかると良いですね?」
「あ、はい
……あの、何時から居ました?
って言うか何処から出ました?」
「秘密でございます」
そう言って外に出て行く執事姿の初老の男性、男性が扉を閉めると、通路の松明に火が灯って行く
あの爺さん何者だよ、真後ろに居たのに声を掛けられるまで気づかなかったぜ、たしか首に首輪みたいなのが付けてあったんだが、もしかして奴隷か?
奴隷と言う者のハイスペックさもそうだが、俺は奴隷について何か勘違いしてたかもしれん、見た感じあの爺さん奴隷は暴力を受けた様子も見られないし服だってちゃんとした執事服だった、もしかしたら俺の着てる物より上等かもしれん
一本道を進んで行くと両開きの扉が見えてきた、設備が整ってるのかサビ一つ無い鉄の扉を両手で押し開ける
「1500万Gでの落札です!」
「次の商品はーー」
いやー、人が居ないからもしかしたら俺が一番乗りかなとか思ってたんだが、んなこた全然無かったな、俺が速いんじゃ無くて、遅すぎたのか
足速に会場の前の方に向かう、その途中で様々な物を目にしたが碌でもない物だった、買った少女を連れて不愉快な笑いをしながら物陰にそそくさと移動する奴、奴隷同士で戦わせている者
それ以外にも居るがあまり見て居たくはない、中には俺の感覚でマトモな扱いを受けている奴も居るが、人数としては半々かマトモが多いくらい何だろうか、余りにも衝撃過ぎてそっちに意識を持ってかれそうだが無理矢理意識から外す
んだよクソが、不愉快だな……
「次の奴隷は此方の家庭教師用奴隷でーー」
ペンダントを付けてないのを確認したらすぐさま意識から外した、レイチェルさーん早速ですが心が折れそうです、奴隷制度何とかならないかな俺は出来る気が微塵もしないから他の誰か
奴隷が次々売れて行く中で俺はペンダントの確認のみに目線を向けて後は目を瞑って次の奴隷が出てくるまで待った、そうしていると奴隷の値段も段々と高くなって来た
500万からのスタートだったのが今じゃ1000万からのスタートだ、その上行く時は3000万位まで跳ね上がる時もある、奴隷の思わぬ値段の高さに内心驚いて居たが、レイチェルから貰った軍資金を舐めないでもらいたい!
軍資金の金額は何と1億、完全に過剰戦力なんだけどこれ、なんか持ってるとどいつもこいつも泥棒に見えて来ちゃうやだぁ、気色が悪いなやめとこう
次々と売られて行く中でペンダントを身に着けている者は中々現れず、最初よりも客が少なくなって来た頃に、ようやっとソイツは現れた
綺麗な青紫色のショートカットの髪型に、可愛らしくも自信に溢れたニヤリとした笑顔、ネコのようなアーモンド型の目、って言うか髪と同じ色の猫耳と猫の尻尾、黒いショートパンツとチェス盤のような柄のノースリーブを着込んでいる女の子が両腕を組んだ形、俗に言うガイナ立ちをしていた
そして何より首に見えるキラリと光るペンダント
来た来た来ました、来やがったぜ、アレだよな、わざわざ一番前まで来たんだ見間違うはずも無い、アレは間違い無くレイチェルのペンダントだ
んだったら後は簡単だ、さっきから競り合ってるがあの娘の見た目もいい為か今日一番の3700万を叩き出してる、売り文句は何だったか聞いてないが、腕利きとか言ってた気もするな、俺からしたらペンダントのオマケみたいな物だが、て言うかいらない
他に購入希望の方はいらっしゃいませんかとの声が聞こえたので手を上げる、あいにくと何時までもこの場所にいる気は微塵も無いからな、速攻尚且つ即決で行くぜ
「5000万!」
「ご、5000万出ました!
5000万、5000万です!」
先程から淡々と声を張り上げて居た奴隷の男性の声に驚きが混じる、それでも続ける辺りは流石と言えるか、なんせさっきまで3700万だったんだ、お店の利益としても美味いだろう、オマケに俺はペンダントが手に入って嬉しい、そしたらさっさとこっからでようか
席を立って店員の元へ向かう、懐に手を入れてレイチェルから借りてる巾着を取り出して
「5200」
「ーー何?」
「5200万出ました、如何しますか?」
「……5500だ」
「5700!」
「5700、5700万です!」
「クソが何処のどいつだ!?」
「お客様、御用が無ければ席へお戻りくださいますか?」
「わぁってる!!
6000!!!」
「6000、6000万です!」
先程まで自分が座って居た場所に戻って音を立てて座る、余程不機嫌な顔なのか席が俺を中心に二席程人が居なくなる、上半身を後ろに振り返って見ても、幾らか少なくなったと言ってもまだまだ人は残っていて、俺以外にあの娘を買おうとした奴が誰か分からない
もしかして、さくらって奴か?
いやいや、5000万でも充分だろ、だったら普通にあの娘が欲しかったって事か?
体を元に戻してあの娘を見る、先程までの自身に溢れた顔は崩れ、意気揚々とした雰囲気は出ていない、先程と違って耳と尻尾が忙しなく動いている
あの娘の態度に気になる所が無い訳じゃないが、今はそれよりーー
「6200!」
「6200万でーー」
「6500万!」
「6500万でございまーー」
「8000万!!!」
「野郎!?」
「8000万、8000万です!
これ以上無ければ8000万でのご購入となります!!!
8000万です、8000万以上、居ませんか!?
……
…………
………………
それでは、8000万でーー」
巫山戯やがって、もうやってられるか、一気にケリを付ける、何処のどいつだか知らねぇが、この俺を敵に回した事を後悔しやがれ!
椅子から立ち上がって声を今までで一番の大きさで張り上げる
「1億だゴルァアア!!!」
「ンなに!?」
「ぃっ……一億、でました……他に、購入希望の方が居なければ、一億での購入となります……」
他に、と言いながら視線の先は俺の後方一点、多分そこに今まで激戦を繰り広げて来た敵が居るのだろう
頼む、頼むぞ、コレで勘弁してくれ、お願いだから、たかだか奴隷一人じゃないか、好い加減あきらめろよ……
祈るような気持ちで随分静かになった奴隷オークションに佇む、意識は後方、最新の注意を払った聴覚に反応があった
「1億2000万ッ!」
物音一つしない奴隷オークションに俺のため息が響き渡った、後方を振り返ると、髭を生やした小汚いおっさんが立ち上がって手を上げている、その顔には引きつった気色悪い笑顔が張り付いている
全く、最悪だぜ、不愉快壮絶極まってやがる、レイチェルから貰った軍資金は1億ピッタリ、どう頑張ったって2000万は出てこない、叩いて増える訳じゃないしな
だからーー
「2億6532万8千」
「ぐ、んな馬鹿なッ!?
だったらこっちは3お、ぇ?
いや、ちょ待ってくださいよ、今……はい、はい、分かりました」
「2億6532万8千、で、宜しいですね……
では、2億6532万8千での購入となります」
些か奴の反応に不安を残しながら、店員にお金を渡して書類にサインする、すると書類が自然に燃え上がって消え去った
此方に連れてこられた女の娘の手をとって足速に店から出る、しかし危ない所だった、俺が余り金を使いたがらない人間で良かった、確かに軍資金は尽きた、軍資金は尽きたが俺個人のレイチェルから貰ったお金が有ったからな、それが無かったら、マジで終わってたよ
奴隷オークションを出てそのまま少し暗くなり始めて来た路地裏を突き進む、奴隷オークションをやるにしてももう少しマシな場所でやって欲しいような欲しく無いような
しばらく無言で歩いていると女の娘の脚が止まった、必然的に俺の脚も止まる訳だが、斜め後ろを振り返れば、女の子が片手を振り払った
「何時までキララ様の素肌に触れているつもりだ愚民」
「……、ぇ愚み、グミ?」
「お前は愚民と言う言葉も知らないのかバカめ、低脳も程々にしないとお前の愚民度数が飛竜の如く飛び上がるぞ、いや最早飛び上がりすぎて太陽に焼き殺されるレベルだな!」
「ぅ、うわぁ聞き間違いじゃ無かった!?」
「良いか愚民、愚民と言うのはお前に与えられた最上級の褒め言葉なのだ、そしてお前はその名に相応しくなる為に特訓をしなければならないのだ、さぁ早速だがキララ様のこの不愉快な首枷を取り払うのが貴様の役目だ」
「しかも驚く程口が悪いんだけど!?」
始めて奴隷オークションで見た時のような傲岸不遜な態度で此方を睨みつけている、どういう因果関係かは知らないが俺は子供にとことん嫌われて睨まれる運命に有るらしい
と言うか何でこんな親の仇みたいに見られて罵倒されなきゃならんのさ、俺が何したってんだ、思い当たる事何か奴隷として買った事くらいじゃないか……
ソレかなぁやっぱり?
女の娘がガイナ立ちの体制に移るとつり上がった目が更にキツくなった、あゝ無常、猫耳女の子に嫌われるだなんて、せめて人耳が有るのか無いのかハッキリさせてから死にたかった、まだ死なんけれど
「それで、貴様に幾つかキララ様から質問が有るのだ、心して聞くが良い!」
「やだ」
「どうしてキララ様を買ったのだ?
確かに恐れ多くも賢くもキララ様は唯一無二にして絶対の存在だが、お前がキララ様の事を知ってない事くらいは分かる
お前の目的は何だ?」
「ヤダっつったじゃんとか言っても無意味そうだから言わないけど、アレだ、もう目標は達成されてるよ
ちょっとペンダント頂戴」
「ん?
このペンダントがどうかしたのか?」
「はい目標達成、じゃ後は、えっとアレだ
主人として命ずる、後は好きにして良いよ」
「…………ん?」
カシャンと女の子の首枷が音を立てて外れる、ソレをシッカリと確認した俺は背を向けて歩き出す、いやー良かった良かった目標達成だよ、見事ペンダントを奪還完了、コレで後はレイチェルとの待ち合わせ場所に向かうだけだな、よし
と、そんな簡単に行けば良かったのに、俺の服の袖に重しがくっ付いてる為に立ち止まらないといけない
「は?、いや、待て……ちょっと待て!?
な、何か、キララ様はそのチンケなペンダントのオマケだとでも言うつもりか!?」
「オマケにすらなって無いな」
「そ、そんなバカな事が有ってたまるか!
キララ様をどなた様だと思ってるんだ、完全無欠の超ウルトラ最強無敵のキララ様が、あろう事か、無機物に負けただと!?」
「勝負になったらさぞかし笑えたろうな?」
「言うに事欠いて勝負にすらならんだと!?
と言うか2億もしたのに契約破棄だと、お前バカか!?」
ガヤガヤ騒いでる女の子、キララ様とか言ってるから名前はキララ何だろうけど自分の事を自分の名前で言う奴始めて見たな、しかも様付け
何だかこの娘凄い面倒事の匂いがするんだよなぁ、できる事なら早々におさらばしたいんだが
歩いている俺の隣のキララ様とやらは一行に消える気配が無い
「もっとこう、何か無いのか?
ぐへへ可愛い女の子だなぁ、へいお嬢さん飴ちゃんあげるからコッチにおいで、とか」
「ねぇよ、てか論外だぜ、お前の中での俺はどんだけ変態何だよ、てかお前はもう自由何だから俺について来なくて良いんだぞ?」
「そうなんだが、このままだと何か負けた気がすると言うか、反応が気に食わないと言うか
お前キララ様にムラムラ来たりとかしないのか?
ちゅーしたいとか、無いのか?」
「ねぇよ!?」
「ほら、奴隷の愛くるしいキララ様に一目惚れしてしまっているお前なら有るかと思ってな」
「惚れてねぇし最早奴隷じゃないだろう、何が悲しくて奴隷に襲い掛からないかんのだ、何だよその自分モテてないです宣言みたいなの」
「ほう、モテモテだと?」
「この話はもう良いだろう、何処へなりとも行くと良いさ」
「キララ様もそうしたいんだが、説明しないと無益な争いが起きると言うか、流石にキララ様もこんな事になってしまったから何もしないのは後味が悪くなると言うか」
「お前は何を言ってるんだ」
一行に消える気配が無いこのキララ様とやら、はてさて如何するか、レイチェルの所までついて来たらこの娘の罵声でこの娘が死ぬわな
如何するべきか頭を捻らせていると、狭い通路の脇道から人影が現れた、その姿には見覚えがある、というよりついさっき見た、アイツは奴隷オークションでの俺の敵じゃんか
一体全体どういうつもりだと言おうとして奴の手に持ってる物を視界に入れる、少しボロいが間違い無く剣である
「……なんの用だと聞かせてもらうぜ、何と無く答えは分かるが」
「その人を置いてって貰おうか、なぁに素直に明け渡せば悪いようにはしないさ、くっくっくっ」
「おお、丁度良い所に!
実はだな、コイツわッ!?」
「逃げるぞ!」
女の娘の手を取って変態の反対に駆け出す、後ろから奴が来る気配がしたためそこらのゴミをぶちまけて足止めに使う
ああもう、やっぱり面倒事になった、どういう理屈か知らないがあのド変態はよっぽどこの娘が欲しいらしい、もしかしたら既に薬とかで正気じゃないんじゃないか
しかしさっきからこの娘の足取りが遅い、脚が遅いのか挫いたのか、とにかくこのままじゃいずれ捕まる、だったら
「お、おいお前人の話しをおお!?
にゃ、にゃにをしてるんだお前はぁああ!?」
「お姫様抱っこだ、それより黙ってろ暴れるな、あの変態に捕まるぞ!」
「変態、アイツの事か?」
「アイツの顔見たろ、ああいうのこそがお前の言ってた奴隷にムラムラ来る変態だ!」
「いや、確かに顔は悪いけど、ついでに頭も悪いけど、ほら人を見かけで判断しちゃいけないって言われなかったか?」
「ん、それもそうか」
走りながら首だけ後ろを振り向いて見る、必然的に奴の顔が見える……
前を向いて走る速度を上げる
「何事にも例外は存在する!
子供をあんな変態の元へ渡せるか!」
「キララ様を子供扱いするな!
自分より小さいからって子供扱いをするのは可笑しいと思わないのか愚民その一!
だいたい、アイツはなーー」
「さっきからお前お前って、俺には機械島 済って名前があんだよ、お前はキララだろ、さっきから自分で言ってたからな
それより安心しろ、流石にあんな変態の元に置いてけぼりにしたりはしないからよ、シッカリと守ってやるから掴まってろよ」
「だ か ら、アレはキララ様の身内だ!!!」
走る速度を段々と落として立ち止まる、振り返ってみれば距離は開いたがまだフラフラしながらこっちに来る変態、体力は既に無いのか顔面崩壊している
手元の女の子を見る、随分身長の小さい少女だ、レイチェルと良い勝負何じゃないだろうか、普通に罵詈雑言が無ければ可愛い女の子だ、身長が無いついでに言えば胸も無い
「アレが?」
「アレがだ」
「えっと、つまりなに?
もしかして人間1人抱えて走ったのも、もしかしてお前を買ったのも……全部無駄な苦労?」
「ペンダントが手に入ったじゃないか、逃げたのには驚いたが、ハッキリ言えば無駄な苦労だな」
「や、やっと観念し、たか、この、変態ぃ……」
「おーいギル、もう良いぞ、コッチはキララ様が解決したから」
お前何にもしてないだろと思いつつ地面に下ろすと、ギルとか言った変態の元へよって説明を始めた、中身が変わってた気もするが、それをどうこう言ってもややこしくなるだけだからやめておく
しばらくの説明の後、ようやっと理解したのか落ち着いた表情でコッチに来た
「すまん!」
「頭を上げてくれ、何にも危害が無かったから良いよ、ソイツ連れ帰ってくれれば」
「ソイツとは何だ、キララ様の事か!?」
「シッカリと連れて帰ります、もう無茶しちゃダメですからね、皆心配したんですから」
「ぐぬぬぬ、納得がいかんぞ……」
「それじゃ俺はこの後用事が有るから、んじゃな」
「それじゃ、団長がお世話になりました」
「おい、今は団長じゃなくて船長だ
それとキカイジマ、一応助けて貰ったからな、何時か困った時はヒーローの如くカッコ良く助けてやるから覚えておくが良いぞ!」
「そんな状況にならない事を心から祈ってるよ、んじゃあな」
颯爽と去って行く猫耳少女とおっさん、団長と船長ねぇ、まるっきりリーダーに向いてなさそうなあの少女に任せるなんてどんな所か興味が尽きないが、今後会う事も無いし早々に忘れるか
しかし猫耳に猫尻尾か、獣人って奴だな、俺は基本的に犬より猫派だが、自分に懐いてない猫を好きになる程の猫好きじゃ、いやまてよそれでも充分可愛いような……、人間素体だったからノーカウントだな
取り敢えずは、レイチェルとの待ち合わせ場所である西門に行きますか
もうすぐ夜だが、レイチェルはあんなでも吸血姫だし夜行性だからな、むしろ領分か
西門の各所に早めに点けられた松明の灯りを頼りに、レイチェルの馬車を見付けてそれに乗り込む
あ、土産忘れた
「おいすレイチェル、見さらせこのペンダントを、取り返して来たぜ」
「ありがとう、本来なら褒美として踏んであげる所なのだけれど時間が無いわ」
「いや、それは褒美として間違ってる……時間が無い?」
「ええ、いきなりだけどシッカリと捕まってなさい、全速で行くわ」
「は?、な、ぅ……ぉぉおおおッ!?」
言葉少なくレイチェルがそう言った時、影が俺を包み込むと同時に門番をスルーして物凄い速さで飛び出した
後ろに飛んで行く景色と、後方から聞こえる爆発音などを脳内で掛け合わせる事三秒
物の見事に俺の脳内は、ヤバイ事に巻き込まれていると叩き出してくれた
青紫色の作者のイメージはラハール様の髪の色
趣味は高笑い