プロローグ
機械島 済
それが俺の姓名である
ちなみに小さい頃の夢はホグワーツに通う事、誕生日が実に何事も無く過ぎ去って行き翌日に号泣した記憶あり
別段ガリガリとは言わないけど、殊更鍛えている訳でもない体に、背筋が良いって訳でもないし
背丈が170cmとまぁ良くも悪くもない上、特にワックスも使っていない髪型と相まって一層普遍的
別段面白い物語が有るだとか出生が有る訳じゃない
普通に、そこら辺に転がってるような人生を送ってきた……つもりだ、が、強いて言えば喧嘩した事は無かったな
そんな訳で、俺は今のこの状況には大変相応しくない、役者不足だと言える
「結構な人数が居ますね、へへへ何人か上玉も――」
「楽しむのは後だ、おら檻にぶちこんどけ」
「へい」
見た目的にも臭い的にも、どうしたって現代日本に居るわきゃない人物達、なんかギラリと光る鋭利な物まで持ち出している始末
そんな彼等に無理矢理檻の中に入れられている人達が居る、身なりが良い人が殆どであり、抵抗する人も居たが皆等しく暴力的に眠らされている
こんな現状の正しい行動とは何か?
携帯電話で警察に電話して知らせる、なるほど賢い選択だ、日本の警察はとても優秀だそうだ、と言っても俺は警察の活躍なんてテレビか交番でしか見かけないから実際の所は知らないんだが
だが賢い選択には違いない、携帯電話の画面左上に圏外の文字がなければの話だよクソッタレ
だが諦めるのはまだ速い、近くの交番なり他の人なりに話に行けば良いんだ
だけど周りには草原と賊が降りてきた傾斜しかない、警察なんざ居やしない
「コイツ良い服来てるな、ひっぺがすか?」
「男の裸なんざ見たくねっつの」
さてどうするか?
しばらく考えている間にも、もう殆ど檻の中で、中からは泣き声やら悪態を吐く声
彼等の先の運命など考えたくは無いが、つい考えてしまう
どうしてこんな場面に出会ってしまったのか、その事を、なんで俺がこんな出来事に巻き込まれてるのか、少し現実逃避してみよう
現代日本において満天の星空と言うのはある種の奇跡だと言える
その日、俺は深夜一時頃に近くのコンビニで買い物をした帰りだった
ビニール袋をガサガサ揺らしながら、人気の無い道をiPodから流れる曲に耳を傾けながら歩いていた
代わり映えの無い休日の過ごし方にわずかばかり満足して、少しだけ勿体無くもあり、明日からまた学校だとしょげかえって、ふと顔を上げると恐ろしいまでの星空だった
「すげ……」
ボソッと呟く程に凄かった、産まれも育ちも都会人な俺はこんな星空を見た事が無かった
ギラギラと輝く星々に目を奪われた、雲ひとつない星空は何時もの真っ暗な天幕にひとつ二つとポツポツある星空とは次元が違う輝きで
イヤホンを外してみると、歌声が消えて何だか解らない虫の鳴き声と風に揺れる草木の音
しばらくの間、都会に似つかわしくない情景に感動して、こんな些細な事でテンションをはね上げられる自分に少し得した気分になって
ようやっと気付いた――
「……あれ?」
無い、無いのだ
この星空の主役が、一番目立つあの星が
建物の影に隠れたかと思ったが、今居る場所は小高い丘のような場所の一番上であり、周囲にはそこまで高い建物は無い
もしかして後ろかなと思って振り向けば、そこには確かに探し物が見付かった、いつもよりなんだか大きすぎるような気がする満月が――
可笑しい
確かに満月が何時もよりデカイの位許せる、ソレが常識的な範囲ならばだが
どう見たって、非常識的な大きさだった
月の表面のクレーターがハッキリと肉眼で確認出来る大きさってなんだ、視界の殆どを埋め尽くす大きさの月って何だよ
それがこの俺の、最後の地球での記憶
そこからは酷く曖昧だが、なんやかんや紆余曲折あり今に至る、となんだか長くなったが、そんな現実逃避も終わりがきた
「おら、さっさと入れのろま」
「おい殺すなよー?」
「そら、自分で脱ぐんだよ!」
なんやかんや考えてる間にも事態は進行している、着ている物を脱がされてる女性も居るが、ここでどうこえって話ではないらしい
殆どの人が檻の中に押し込められ、残りは数人と、それに混じる泣いてもおらず、賊のように卑下た笑いもしていない普通の青年
て言うか俺だった