01 奄美剣星 著 道 『Road to Knight(騎士への道)』
(あと一人で、優勝。しかしあいつにはどうか?)
目の前にいる騎士はひとまわり大きい。
サトウの鼓動が高鳴る。
旗持ちが旗を降ろす。突撃。
桟敷には娯楽に飢えた大衆がひしめき合っていた。
桟敷中央には貴賓席があり、司教と取り巻きの商人貴族たち、それと――有能な婿を求めて遠国からやってきた――名家の跡継ぎ娘たちがいた。
騎士シュガアは、ボックス席の中に、宝石のように輝く美少女を見つけた。
「あれが噂の伯爵令嬢か――」
*
十字軍の遠征が盛んに行われていた時代の話だ。
伯父の男爵家で修行を終えて騎士の叙勲をもらったシュガアは、弟分である見習い騎士ミドルを引き連れて、ケルン市へとやってきた。
往時ののケルンでは、腕に自信のある騎士たちが、ヨーロッパ各国から駆けつけてきて日頃の鍛錬の技を競い合う大武術大会がある。……というのは、猫の額ほどしかない荘園貴族たちにとって、逆玉に乗れるかとうかという祭典でもあったからだ。
控室で騎士たちが話しをていた。
「例の公女が来ているって話だ。超セレブの上にすばらしい美貌とのことだ」
シュガアの脇にいたミドルが目を輝かす。
「シュガア様、チャンスっすよ。是が非でも優勝して伯爵令嬢の心を奪うんです」
*
騎士も騎馬も重装備だ。
騎士は馬を疾走させ、飛愴を宙に遊ばせつつ勢いをつけて、互いにぶつけんとしていた。
二頭の馬が交差した。
刹那。
鈍い音がして、一人が弾かれ地に叩きつけられた。
すると、鍛冶屋がすっ飛んできて、変形した鎧兜を打ち直し、中の騎士を救出した。落馬した騎士はあばら骨を折った様子だ。
大歓声があがり、会場は紙ふぶきが舞う。
*
伯爵家家宰を名乗る口ひげを生やした隻眼の老人が小走りしてきた。
「優勝おめでとう。わが姫君があなたをお気に召したとのこと。宜しければ……」
「シュガア様、いや『公爵』、おめでとうございます。いつか俺を公国の騎士隊長に任命してください」
喜々としたシュガアとミドルが連れだち桟敷の前に立った。
美少女が微笑む。
「手に口づけすることを許しましょう」
ところがだ。
手を差し出したのは、美少女の後ろに隠れていたアバタ面の女性だった。公女はアバタ面で婚期をとうに越した年配女性だ。彼女が公爵令嬢だったのか!
「シュガア様、大丈夫っすかあ!」
桟敷から下りて来た公女が笑った。
「ふぉっふぉっふぉっ、泡まで吹いて卒倒するなんて、騎士様は私の美貌にノック・アウトね!」
「そっ、そうですわね、――お姉様……」
こうして、ヨーロッパ一強い騎士の遺伝子が、名家の血筋にもたらされた。
歴史の一コマである。
了




