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NO.4 奄美剣星著 「やきもち」
「仮にその人の名を里奈と呼ぶとしよう。里奈が私の座っていた長椅子の横に掛けたとする。少し話をした里奈が、グラスに氷を入れボトルから安いか高いか判らないスコッチを注いだとする。私が少し口をつける。里奈がいくつか質問をしてきたので答えてゆき対話という形に至った。里奈という存在はなんなのだろう。おそらくは一過的なものに過ぎない。いうなれば除夜の鐘。いや形すらない音に過ぎない」
火鉢の炭は焼けてルビーのように怪しげな灯で私の頬を照らしていた。網の上の切り餅を裏返す。
「里奈と話が盛り上がったとしよう。気分が高揚する。年の初めの神輿祭りのようなもので、実に一過的なものだ。いうなれば昨夜の大晦日の十一時五十九分から、今日の十二時〇分での感覚。カウントダウン。瞬間のときめきってやつだ。けれども気が付けば年が改まっている。ただそれだけのことだ。何の問題があるというわけでもないではないか」
網の上の餅が風船のように急に膨らんだ。
「ふうん。それで、町内会忘年会の二次会のとき、シャツに口紅をつけて朝帰りしたというわけですね」
鏡に映る私の顔。横っ面が腫れ上がっている。やいてくれてありがとう。君の愛を感じるよ。




