NO.2 cheru著 「初謝罪・息子」
その日、 登は 青年に対する質問の流れを考えていた。
言動の悪さをも “売り” にしていたスポーツ選手の謝罪会見。
“売り”にしていたのは 自分たちマスコミも同じなのだが
そんな事は今はどうでもよかった。
世間が注目しているのは 俺ではない。
試合で反則行為をした事を 世間に謝る選手の姿に注目しているのだから。
それにしても到着が遅いな。
フフ。
謝罪会見に遅刻するとは
そこも責めてくれと 言っているようなもんじゃないか。
チンピラのような振る舞いだが 父子の信頼関係は深いからな。
そこを押すと 泣く画がとれるかもしれない。
ネチネチ質問して いっそブチ切れたら それはそれで面白いかもしれないな。
◇
予定より遅れて選手が会場に現れた。
フラッシュの中にいる二十歳の青年を見た瞬間、
何故か 登の脳裏に 一人で遠くに暮らしている息子 「正義」 の姿が浮かんできた。
(なんだ? しっかりしろ、これから質問を始めるんだぞ!)
「あの試合は反則があったと認めるんですね?」
「・・・・反省しています」
「お父さんは 反則行為について何といっていましたか?」
「・・・・何も言い訳しません。 深く反省しています」
◇
質問をする登の脳裏から 息子・正義の姿は消えなかった。
同い年だ・・・
目の前にいる この青年と息子は 同い年だ。
もしも 俺を責める言葉を 息子が浴びせられたら
あいつは・・・
◇
「何故お父さんは出てこないのですか? 息子のあなたに全てを負わせて」
登は 息子の事を考えながらも質問をしていた。
「無責任ですよねぇ。 そんなお父さんを どう思いますか?」
「俺にとっては 大切な親父です」
・・・・・・・言ってくれるだろうか。 正義は。
世間がどう思おうと どう言おうと、
俺の事を 「大切な親父だ」 と言ってくれるだろうか。
これも この青年のパフォーマンスなのか?
登は 「羨ましい」 と思った。
それが真実か パフォーマンスか 関係なく。
君達がやった事は間違った事だ。
やってはいけない事を やったのだから 責められて当然だ。
だが 世間の君に対するイメージを 少しは変える事はできる。
耐えろよ・・・・!
◇
登は他の記者たちと質問を続けた。
繰り返し、 執拗に。
「お父さんは今日 あなたを送り出す時 何と言ってくれましたか?」
「お父さんも出てきて きちんと謝罪するのが筋でしょう?」
「何故 あなた一人に全てを負わせるようなことを?」
「ここに現れないという事は 反則を指示したと認めるんですね?」
「お父さんに対して何か言いたいことは?」
(耐えろ。 切れるなよ。 きちんと応えるんだ。 耐えてくれ!)
「親父も深く反省しています。俺は長男だから家族を代表して謝ります。
本当に すみませんでした」
◇
急いで記事にしなければ。
会見が終わり 会場を出た登の頬に 雨に紛れた涙がつたった。