10歳:「見守られているということ(1)」
「お嬢様、さっきの言葉は横で聞いててちょっとジンときたぞ」
「へ?」
さっきの言葉?
私なんか言ったっけ?
「俺とアイラも家族なんだって?」
「あー? あ~~ッ!?
いや、それはその勢いというか、ね? あるじゃないですか、そういうのがっ!」
「なんかこう心が温かくなるというか……」
ふ、ふふふ……一部の体温が上昇しているっぽい。
ああ、これなら、鏡を見なくてもわかるな。今、私の顔が真っ赤になっているだろう。
「……くくっ」
紅潮している私を見ておかしそうに喉の奥で笑う。
私がそういうのに弱いと知ってて、わざと言ったな。
「ええ、アイラさんもロイズさんもジルだって、大事な私の家族ですから!」
「それはそれは、光栄の至り……ところで、俺からも一個訊きたいんだが」
「何ですかっ?」
少し口調が荒くなってしまうのは仕方ないだろう。
照れ隠しってやつだ。
「どうも、旦那様や俺に隠れて危ないことをしてるんじゃないか?」
「……ハンスさんめ、私を売ったかっ!?」
って、あ……言ってから冷静になる。
ロイズさんのしてやったり顔が悔しいというか悲しいというか。
「なるほど、ハンスも何か関係してるんだな」
「ロイズさんの卑怯者……」
「何を言う、相手を動揺させて隙を作らせるのも立派な戦術だろう?
というか今のは、ただの自爆だと思うんだが」
墓穴を掘るって言葉は、こういう時に使うんだっけかな。
さて、これ以上、下手なことはバレないように気を引き締めて……、
「まぁ、ハンスの件はあとで追及するとして……お嬢様、夜中に部屋を抜け出して、何やってるんだ?」
「えー? 何のことでしょうかー?」
「アイラが心配していたぞ。
服や部屋の汚れとかで気づいたらしいが……ちなみに旦那様やマリナ様には、知らせてない」
推理小説で名探偵の話を聞く犯罪者って、こういう気分なのでしょうか?
気を引き締めたばかりなのに、もうくじけちゃいそうだよ。
「夜のお話相手になってくれる友達ができまして、決して危ないことをしているわけじゃありません」
「ふむ。真実のようだな」
「…………信じたんですか?」
「お嬢様のことは、小さい頃から知ってるからな」
それは答えになってない気もするけど、その返事がちょっぴり嬉しかったり。
なんだろう、私からするとロイズさんは、少し年上の頼れる兄貴って感じなんだな。
精神年齢的に考えると、そんな関係でも間違えてないか。
「それじゃあ続いてハンスが関わっている話とやらを聞こうか?」
……さ~て、こっちの件はどこまで話せば許してもらえるかな?




