10歳:「月明かりの下でのお茶会(4)」
「つまり、まとめると、ユーリの前世はカルチュアとは異なる世界の人間で、そこにあった遊びのルールと、この世界の法則がそっくりであり、生まれた時から記憶があったために魔術の知識があった。
――ということか?」
「…………」
賢いとは思っていたけど、フェルの理解力の高さに思わず絶句する。
もちろん、できるだけ分かりやすく簡潔に説明したつもりだけど、途中からフェルの方から的確な質問をし始めて、私はそれに答えるだけになっていた。
「ん? どこか間違えてたか?」
「いや、あってるよ。あってるから驚いてたんじゃないか。フェルも私と一緒で転生者だったりしない?」
「そうだったら面白かったがな。
実は聞いていても、分かってないことの方が多い。ただ演劇なんかと一緒で、そういうものだと受け入れただけだ」
その受け入れただけ、って言うのは十分すごいんだと思うけどな。
子供らしくないのか、子供だからできることなのか。
「ただ1つ気になるんだが……なんでユーリはこの世界に転生してきたんだ?」
「そんなことを訊かれても、私には分からないけど……むしろ私が知りたいくらいだし……」
「いや、言い方が悪かったかな。
この世界の常識として、ボクは魂の転生自体は当たり前のことだと思っていたから、前世の記憶を持っているのは珍しいけど、そういうこともあるかもしれない位にしか感じていない。
けど、ユーリの前世はこの世界の人間じゃないという……が、ここまではいい」
「いいんだ……」
「ああ、ボク自身の能力にも関わることだからな、多少は信じやすい。
その上で、ボクが気になっているのは……なんで、ユーリはこの世界のことを知っていることができた?」
「それは、たまたまこの世界とゲームの設定が似ていたからで……それこそ、偶然としか言えないんじゃない?」
私の答えに満足がいかないのか、フェルが少し難しい顔をする。
いや、転生者であることを暴露した以上、私の方が精神的にはずっと年上なんだけど……なんかこう、フェルの大人っぽさは筋金入りなのか、精神的にも私と同い年ではないかと感じるときがあるからすごい。
「偶然で済ませるには、不自然さが残るんだ……」
「不自然さ?」
「ユーリ、想像してみてくれ。
ボクたちが暗号遊びをしていたとしよう。例えば、お互いだけに通じるような文字を作るんだ」
「うん」
「朝起きたら、別の国でもいいけど、どこか知らない場所に連れ去られていた。
そして、その場所では、ボクたちが使っていた暗号が当たり前に使われている文字だった。
……な? 変な感じがしないか?」
「…………」
フェルに言われて、私も初めてのそのことに違和感を覚える。
いや、むしろ敢えて考えないようにしていたことなのかもしれない。
私がこの世界に転生したのは偶然なのか、それとも誰かの意図が働いているのか。
もし、誰かの意図だとしたら、私はひとまず感謝をしよう。
少なくても、この世界に生まれて大切な人たちを得ることができた。
その誰かによって、私や大切な人たちが傷つくならば、私はその誰かを許しはしない。
もちろん、私ができることなどささやかな抵抗にしかならないとしても、だ。
「とは言ったものの、そもそも何の理由も根拠もなく、ただボクの考え過ぎって可能性が高いな」
「あぅ……」
フェルが無責任なことをさらりと言い放つ。
いや、フェルは責任を負う必要なんかこれっぽっちもないんだけどな。
私が決意を新たにしたところで、いきなり水を差された気分だ。
熱血しそうになってた自分がちょっと恥ずかしい。
でも、私の想いは揺らぐことはない。
世界を救う勇者になるつもりも、目の届く範囲全ての人を救う聖者になるつもりもない。
ただ、手の届く触れる範囲で大切な人を大事したいだけのこと。
「さて、今日はそろそろ帰るとするよ」
「そうか。それじゃあ、また明後日の晩に」
「……ああ、明後日の晩に」
残っていたお茶を飲み干して、席を立つ。
「フェル、ありがとう……」
「ん? どういたしまして?」
突然の私の感謝に、意味も分からずその言葉を受け取る。
フェルへの気持ちを言葉にしたら「ありがとう」の言葉を紡いでいた。
というか、私も何に対しての感謝だか分からないんだけどな。