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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
90/146

10歳:「月明かりの下でのお茶会(3)」

 

 

「《風をウィス 駆けるはリァート 空をフィス 舞うロァース 竜の翼ドレイク・ド・フェス》」

 

 私は飛行の魔術を使って、ベランダから空へとその身体を浮かべ、フェルを見下ろす位置まで上昇した。

 その私を黙って見上げるフェルの顔には、私が用意した眼鏡が掛けられている。

 

 ふたつの月が作り出す淡く優しい光に照らされ、フェルが私を見つめ、私がフェルを見つめた。

 フェルは私の唐突な申し出をゆっくりと噛み砕いて、そして呑み込んだ。

 

 

「お初にお目にかかる、夜空を舞うお嬢さん。

 ボクの名はフェルネ・ザールバリン。よかったら友達になってくれないか?」

 

 

 まるで淑女を踊りに誘う騎士のように、誘惑をささやく悪魔のように、果物をねだる子供のように……私を求め伸ばされる右手。

 

 

「初めまして、雪花石膏アラバスターの如き“真白の司ましろのつかさ”。

 私の名はユリア・バーレンシア。貴方が友を望むのならば友となりましょう。誓いは〈大きし月精霊ディナ〉の名の下に」

 

 そして、私はベランダに降りて、差し出されたフェルの手をそっと掴む。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 一瞬の沈黙。

 

 

「……くっ」

「……ぷっ」

 

「「あははははは……!」」

 

 

 どちらともなく吹き出し、2人の笑い声が二重奏を奏でる。

 いや、本気でツボにハマった。笑いすぎで息が少し苦しい。

 

 

「……はーはー。何が、夜空を舞うお嬢さんだよ。似合わないことするね~」

「ふー、そう言うユーリだって……いや、ユリアだったか?」

「別にユーリでもいいよ。

 本名とそんなに違ってないし、愛称で済む程度でしょ?」

「そうか?

 なら、ボクもフェルのままでいいな。ユーリにフェルネと呼ばれると思うと、少し変な感じがする」

 

 

 なんか少しすっきりした、かな。

 

 

「しかし、何でまた……こんな恥ずかしい真似を?」

「何でも何も、私の正体が知りたいと言ったのはフェルだよ。それにずいぶんノリノリだったじゃない」

「いや、まぁ、それはそうだが……」

 

 

 フェルがぶつぶつと、何かを呟いている。

 私は彼が何を言いたいのかは分かっているけどな。

 

 

「そうだね。すぐには信じられないような話だけど……」

「今更の話だな。ユーリの非常識っぷりには慣れたつもりだ。ユーリの言うことなら信じるさ」

 

 

 むぅ、相変わらず10歳児らしくない言葉だ。ちょっと嬉しいけど。

 

 

「私はね、前世の記憶が残ってるんだ。

 そのお陰で幼い頃から魔術の修行をしてきた。だから、こんな年で魔術を使えるんだ。

 それから、フェルが能力で見ていた黒髪黒目の顔だけど、それは前世の影響だと考えてる」

「……思ったよりは普通だな」

「その返答は、かなり気が抜ける……、人の告白を普通の一言で済ませないでよ」

 

 

 普通って、ボケ殺しな単語だよな。

 いや、別に今の流れでボケるつもり、ボケたつもりもないけど……。

 なんか、ほら「もっと別に反応があるだろう」みたいな気分になってくる。

 

 

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