3歳:「森へ行こう!(1)」
今日の昼食は、定番のパンケーキだった。3日に2回は昼食に出てくる。
挽いた麦の粉にヨーグルトっぽいミルクと卵を混ぜて焼いたシンプルなものだ。
オレは、自分の頭と同じくらいのサイズのパンケーキを2枚食べる。
もっと食べようと思えば食べれそうなのだが、食べ過ぎは肥満の原因になるしな。
この世界にダイエット薬があるのか分からないが、そういう魔術は覚えがない。あ、獣や鳥に変身したり、幻覚で一時的に外見を誤魔化す魔術はあったはずだけど。
ユリアなら、少しぽっちゃりしていても可愛いのかもしれないが、食べ過ぎは何より健康にも良くない。
さて、そんな昼食の最中。
オレはある目的のために、母親にお願いをしていた。
「お母さま、ご飯を食べ終わったら、うらの森におサンポに行きたいです」
「あら、それじゃあ、アイラさん、一緒について行ってくれる」
「かしこまりました」
昼食はアイラさんも同じテーブルについて、一緒に食事を取っている。
うちの家族は、あまり身分の低い高いには拘らないようだ。逆にアイラさんの方が気にしているように見える。
オレも前世の影響か、そういった身分と言ったものにはいまいちピンときていない。そもそも、前世ではただの貧乏学生だったからなぁ。
まぁ、さすがに父親と同じテーブルに付くわけにはいかないのか、朝食の時は壁際に控えて立っている。
「あの、お母さま。おサンポには、わたし1人で行きたいのです」
「まぁまぁ、ユリィちゃんは、アイラお姉さんがキライなの?」
「ちがいます! でも、わたしはもう3才になったので、おサンポくらい1人でできます」
「うーん……、でもねぇ?」
正直、オレなら普通の3歳児を1人でサンポに行かせるなんて無謀だと思う。
そもそも、こんなにしっかりした受け答えができる3歳児がいるということは例外そのものだが。
前世で自分が3歳だった時の記憶はないが、ペットの犬や猫と変わりなかったんじゃないだろうか。
同じ家で育った3歳児は、まさにそんな感じだったし。
少し、オレの正体がバレてしまう危険性もあったが、この程度なら早熟な子で済むレベル……だといいなぁ。
本当は早熟どころか、かなりの天才児だと思うが、両親共に訝しむどころかオレの優秀さを褒めてくれる。少し鈍くて、底抜けに優しい両親に感謝である。
「わたしは、いい子です。ちゃんと1人でおサンポできますよ?」
いまいち煮え切らない母親に必殺の《純真な眼差し攻撃》!
「もちろん、ユリィちゃんはいい子に決まっているじゃない! わたしとあの人の子供なんだから!」
こうかは ばつぐんだ!
「分かったわ。わたしはユリィちゃんを信じる!
でも、絶対に遠くに行っちゃダメよ? それと、小川と井戸の傍には、絶対に近寄らないこと。危険ですからね? お水が欲しくなったら帰ってくるのよ? 約束できる?」
「はい、やくそくします。お母さま、ありがとう!」
母親の承諾の言葉を引き出したところで、前言を撤回されないように、にぱっととどめの《極上☆天使の微笑み》を撃っておく。
「ううっ……あなた、ユリィちゃんは、立派な大人になっちゃいました。3歳でもう親離れの時期が来るなんて、早すぎるわ……」
「えと、奥方様……別に、親離れというわけでは……」
うん、オレ(の身体)は、まだまだ子供ですよ? 親離れにはちょっと早いと思います。
今ひとつ、母親にはとぼけた所があって、可愛い人だと思う。血の繋がった母親に持つ感想じゃないけど。
「お母さま! わたしは、リッパに1人でおサンポをしてみせます!」
「ユリィちゃん、頑張るのよ! わたしは草葉の陰から見守っているから!」
わざとノってみたけど、想定以上のノリの良さだ。
というか、草葉の陰から見守るのは、死んだ人ですからお母様。
あ、アイラさんがオレたちを見て、コメントに困る顔してら……。