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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
89/146

10歳:「月明かりの下でのお茶会(2)」

 

 

「……どうすればいいんだ?」

「あれ? つけ方が分からない?」

「ボクが知っている眼鏡とは少し形が違うからな……取っ手が変な向きに2つ付いているし」

「取っ手? ああ、ローネットのことか」

 

 

 多分フェルが知っている眼鏡はローネット、いわゆる柄付眼鏡えつきめがねで、棒やフレームを持って使う眼鏡のことだろう。

 

 私がクムさんに作ってもらったのはつる付眼鏡だ。

 前世の世界では、近視や乱視などの視覚障害は簡単な外科手術で治るため、眼鏡が必要な人というのはいなかった。

 

 ただ、眼鏡そのものはファッションアイテムとして残っていたし、私が死ぬ直前は第何次眼鏡ブームとかで、ファッションブランドの伊達眼鏡やサングラスが流行っていた。

 

 

「ちょっと貸して……コレをこういう向きで、ここを耳に引っ掛ける感じで……」

 

 

 眼鏡を受け取って、フェルの顔に眼鏡をつけてやる。

 

 

「どうかな?」

「少し窮屈な感じが、それに視界が急に明るくなった……

 ……キミは誰だ? どこから入ってきた? 今の今まで、そこにはユーリが座っていたはずだが」

「その様子だとうまくいったのかな?」

「声は……ユーリだな。

 この眼鏡はマジックアイテムか何かなのか? 周りが明るくなって、ユーリが別人のように見えるぞ」

「まぁ、マジックアイテムと言ってもいいかもね……そのレンズの部分に明かり系の魔術が付与されているんだ」

「はっ?」

 

 

 フェルの魔導は、私がたまに使う鑑定系の魔術と似た原理で動いているのだと推測した。

 例えば、《瞳が見る躯を知る(モア モァース ティス テラール)》は、私が見ている対象の身体的な状態を鑑定することできる魔術だ。

 

 多分だがフェルの能力も同様に、対象を見ることで発動し、対象の隠し事を読み取っている。

 

 魔術と魔導の違いは、任意による習得以外にも、汎用性に違いがある。

 簡単に言えば、魔導は応用が利かない分、効果の威力が強い。一点特化型という感じだ。

 

 また強力な魔導ほど、使用に制約が掛かる。

 私の制約は「攻撃魔術が使えなくなる」だし、フェルの制約は「夜間に相手を直接見ないといけない」だ。

 ただこの制約はきちんと理解すれば、問題は大分緩和される。

 例えば、さっき使った熱湯を作る魔術も、一度コップなどを経由さえすれば、相手にぶっかけても、それは攻撃用の魔術ではなく、あくまで熱湯を作る魔術なのだ。

 

 さて、夜間にしか使えない魔導に対して、昼間のような視界を与えたらどうなるか?

 

 結果は大成功。

 制約を逆手に取ったようなものだが、フェルの目には正しい私の姿が映っているのだろう。

 

 

「その眼鏡をかけていれば、フェルが人を見ても能力に反応しないようにしたってところかな?

 ついでに暗い場所でも明かりなしに読書ができる優れもの!

 個人的にはうまくいったらラッキー程度だったんだけどね」

「…………」

「ねぇ、フェルには、今の私の姿がどう見えてる?」

「あ、ああ……白っぽい金髪に青い目の少年っぽい女の子に見える……」

「よし。あとは窮屈さをなくすために、形とかを微調整する感じかな」

「……この眼鏡を作ったのはユーリなのか?」

「いや、細工師の人に頼んで作ってもらったけど?」

「そうじゃなくて、このレンズの部分の仕組みについて、考えたのは……ユーリなのか?」

「ああ、うん、ただの思いつきだったけどね」

 

 

 思いつきで作っただけに上手くいって良かった。勢いで頼んじゃったけど、伊達眼鏡の制作費が結構高額なんだよな。

 クムさんが面白いアイデアをもらったから、と言って代金を割引してくれるらしいのは助かったけど。

 

 

「……ユーリ」

「ん? 何?」

「キミは、いったい何者なんだ? ボクの能力について、何度か学者連盟の調査に付き合ったが、ここまでボクの能力を把握していなかったぞ」

「え~と、何て説明すればいいかな……本当に思いつきなんだよ?」

「それに! ボクの能力を無効化したことで、なんでユーリの姿が変わって見えたんだ?

 それじゃあまるで、ボクの能力のせいでユーリの“隠している姿”が見えていたように聞こえるよな?」

 

 

 フェルの……いや、フェルネ・ザールバリンの真剣な目が私を射抜く。

 その瞳の中に、切望や困惑などの揺れ動くフェルの気持ちが透けて見えた。

 まぁ、しょうがないか。私は心の中で小さな溜め息を吐く。

 

 

「それじゃあ、改めて挨拶から始めようか……」

 

 

 何となく、何となくだけど、私もこうなることを望んでいた気がするしな。

 

 

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