10歳:「花の香りとエルフの少女(3)」
「なぁ、ケイン……」
「ん? ああ、どこに向かっているか話をしてなかったね」
ペルナちゃんの前で細かく説明するわけにはいかなかったから、曖昧にしたまま連れ出しちゃったんだよな。
一応、事前に説明しておいた方がいいか。
「いや、それも気になるけど、それより……ケイン、姉ちゃんのこと幸せにしてやってくれよ?」
「ぶっ! い、いきなり、何を言うの?」
「姉ちゃんならケインときっとお似合いだと思うからさ!」
え~と?
何、この“うちの娘をよろしく頼む”的な雰囲気は?
「ペート、ちょっと落ち着こうか。私も落ち着くから」
「別におれは落ち着いてるよ?」
「それで、なんで私がペルナちゃんを幸せにするのかな?
いや、もちろん、ペルナちゃんのことを不幸にしたいってわけじゃなくてね」
「だって……さっきのプレゼントはアレだろ? 女を口説くためのプレゼントだろ?
姉ちゃんだって悪い気はしてないみたいだったし……」
いや、私もペルナちゃんも、そんな歳じゃないでしょ! と言いかけてやめる。
……15歳で成人なら遅くもないのか? いや、そもそもペートが勝手に妄想しているだけだよな?
ペルナちゃんが悪い気はしてないって、そりゃ香水を喜んでくれてたからだろうし。
「私はペルナちゃんに喜んでもらいたかっただけで、そんな気持ちは一切ないよ!」
「姉ちゃんじゃ不満なのかよ?
今はまだ成長途中だけど、きっとすぐにきれいな大人の女性になるからさ!」
「不満とかじゃなくて~! そもそも私は女の子――」
「女の子?」
「――や小さい子が喜んでくれるのが好きなだけなの! 別に見返りとか求めてないから!」
せっかく変装しているのに、うっかり喋るところだった。
いや、女の子は嫌いじゃないけど、身体は女の子だし……まだ色々と割り切れてないし……。
この2人には、もう正体とか喋っちゃってもいい気はするんだけどな。
ただ、謎の少年のケイン君のままでいた方が良さそう気もするだよなぁ。
特にペルナちゃんの治療の都合も考えると、どうした方がいいのか悩ましい。
「とりあえず、今からペートを雇ってくれる人のところに紹介しに行くから……の前に、ペートも新しい服を買った方がいいかな?
それから、髪も少し整えた方がいいね……職場は食べ物屋だから、見た目は重要だよ」
「う~……ケインが言うなら従うよ」
渋々ながらといったペートを近くの宿屋に連れ込み――この字面だけ考えると怪し過ぎるが――裏庭と鋏を借りて私が簡単に散髪する。
しばらくの間、ジョキジョキと髪を切る鋏の独特な音が鳴り響く。
「まぁ、こんな所かな?」
「…………」
「大丈夫、その髪形も似合ってるって!」
「……そうか?」
「うん、ペートっぽいよ?」
鏡を見て、言葉をなくしたペートに慰め、もとい、言い訳……じゃなくて、新しい髪型を褒め称える。
ちょっぴり切り過ぎちゃった気もしないでもないけど、勝気そうな目つきによく似合ってると思うんだ。うん。
その後、古着屋に連れていき、今後の仕事を視野に入れ、汚れても目立ちにくい色で動きやすそう服を買わせる。
着替えが終わって、通りの屋台まで連れて行き、トルバさん(屋台のおじさんの名前)とペートを対面させる。
それから、私を混ぜた3人で明日からの新作メニューについての相談をする。
最初は緊張していたようだが、しばらく話していると、徐々に打ち解けれたようだ。
しばらくの間は試行錯誤をするだろうが、そこはトルバさんもプロの料理人だ。頑張ってもらうしかない。
上手くいけば、王都で行きつけのお店になるだろう。
ぜひ成功させてもらいたいところだ。