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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
84/146

10歳:「お買い物をしよう(4)」

 

 

 クムさんの店を出て、私は一昨日していたように露店や通り沿いの店を見て回っていた。

 

 

「まいどありー」

 

 

 古着屋で昨日グイルさんたちから借りたような私の身体が丸々隠れるくらいの外套がいとうを一着購入した。

 熱い季節であるのを考慮して地は薄いが中が透けないようなつくりのものを選んだ。

 そして、店を出たときに、気になる看板を見つけた。

 

 この国では義務教育などもなく文字が読めない人が少なくない。

 もちろん、王都では文字が読める人の割合の方が多いらしいのだが、それでも文字が読めなかったり人が存在する。

 そのため、店や施設の看板には工夫がされている。

 

 まず、暗黙のうちに連盟ごとに基本となる看板の形が決まっている。

 

 商人連盟ならば硬貨を表す「円形」、職人連盟は作業台を表す「台形」、学者連盟ならば調和を表す「六芒星(三角形を2つ重ね合わせた星型)」、冒険者連盟は武勇を意味する「菱形トランプのダイヤ」だ。

 国の施設などはシンプルに「長方形」の看板となる。

 

 罪人連盟のことはよく分からないので置いておく、そもそも看板を出すような施設があるとは思わないけど。

 

 

 それから、看板にはそれぞれの店の店名や扱っている商品などの絵が描かれる。

 

 例えば、『セールテクト輝石店』では、円形の木板に「セールテクト輝石店」という店名と宝石や石の絵が描かれた看板を店の入り口に吊り下げている。

 『クムの細工店』の看板は、台形の小さな木板に店名の「クムの細工店」と落書きみたいな指輪(腕輪?)と細工道具のノミが描かれている。

 

 武器屋を探す場合は、菱形で剣や槍、盾や鎧などが描かれた看板を探せばいい。

 

 また露店の場合は、店と違い看板を下げる店は少なく、主に布でできたのぼりを看板の代わりにしている店が多い。

 

 例えば、串焼き屋の屋台の場合、「○串焼き」と串焼きの絵が描かれたのぼりが掲げられている。

 一番上の「○」は、商人連盟、この場合は料理人組合に所属しているというアピールであり、信用の目安になる。

 

 もちろん、連盟やその組合に所属していない場合は、それらのマークを乗せることはできない。所属していないのにも関わらず、不正にマークを利用していた場合は該当の組織から罰則金などを請求される。

 

 さて、問題の看板だが、台形の木板に花とガラス瓶の絵が描かれている。店名は『ルララルラ調香店』となっていた。

 

 調香ってことは、香水の店かな?

 気になってその店に入ると、店内は甘い香りが充満していた。

 

 

「いらっしゃいませ~。お坊ちゃま、何をお探しでしょうか~?」

 

 

 店員と思わしき間延びした口調の女性が、私に近寄ってくる。

 濡れるようなオレンジ色の長い髪とパッチリとした髪と同じ色をした眼、さらに耳の辺りに熱帯魚のような美しい黄色のヒレを持ったマーマンの女性だ。

 

 

「女性へのプレゼントでしょうか~? 気になるあの人へ、な~んて~」

 

 

 ニコニコと私の接客を始める女性の店員。

 なんだろう、お母様と仲良くなれそうな感じがするよ、この人。

 

 

「えっと、通りを歩いていて、ちょっと看板が気になったので入ってきただけです」

「冷やかしですか~?」

「……気に入ったものがあれば買って帰ります。この店は香水のお店ですか?」

「はい~。香水が中心として、ポプリや洗髪料なんかも扱っていますよ~。

 丁度新作の香水ができたところだったのです~。よかったら嗅いでみてください~」

 

 

 そう言うと女性の店員は、青と緑のガラス瓶を2本取り出して、私に手渡した。

 

 せっかくなので、瓶の口に鼻を近づけて嗅いで見る。

 

 青の瓶の方は、サッパリとした感じで、爽やかな石鹸せっけんみたいなよい香りがする。

 緑の瓶の方は、野草っぽい感じで、ウェステッド村にいた頃に摘んだ小さな花のような匂いがした。

 

 

「青い方は清潔感のある爽やかな香りですね。緑の方は野生の花に近いような感じがします」

「ふふふ~。青い方は〈星空の風〉という名前で大人の女性をイメージしています~。

 逆に緑の方は〈新緑の春花〉という名前で少女をイメージしたものです~」

 

 

 店員の解説で、私の脳裏に2人の女性の姿が思い浮かぶ。

 

 ふむ。せっかくだから、お土産に買っていこうかな?

 

 

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