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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
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10歳:「お買い物をしよう(3)」

 

 

「あのすみません、さっきから、私のことを“お嬢ちゃん”と呼んでいますが……」

「ん? あ! ごめんごめん!

 お嬢ちゃんじゃなくて、お嬢さんって呼んで欲しいんだね?」

「いえ、そうでなくて」

「お嬢様?」

「そうでもなくて……なんで、私が女性だって知ってるんですか?」

「え、だって、女の子でしょ? そうだね、歳は12歳くらい? ちょっと大人っぽくなりたい年頃だよね」

 

 

 うんうんと自分の言葉に大きくうなづいている。

 

 年齢こそ2歳年上に間違われているが、私が女性であることを一目で見破ったようだ。

 元々の私を知っていて、私の方から声をかけたグイルさん以外にはバレていなかったのに。

 

 

「……クムさんて、【先天性加護】持ちなんですか?」

「へ? なんで? そんなもの持ってないよ?」

 

 

 質問の意味が分からない、というキョトンとした顔をされてしまった。

 魔術でも誤魔化しているとは言え、通じない人には通じないのかな。

 何事も過信しすぎは良くないってことか。

 

 

「お嬢ちゃんで構いません……それで、作ってもらいたいものなんですが、眼鏡を作って欲しいんです」

「眼鏡? お嬢ちゃんは、目が悪いの?」

「そうじゃなくて、えーと、伊達眼鏡って分かりますか?

 それとレンズの代わりに薄く削った〈軟水晶なんすいしょう〉をはめて欲しいんです」

「ふむ……? 伊達眼鏡って言うと、レンズの部分が平らで曲面になってない眼鏡のことだね。

 ガラスを使わずに〈軟水晶〉を使う理由ってあるのかな?」

 

 

 私の注文に鋭い目つきで、今度はクムさんの方から質問をしてきた。

 

 

「伊達眼鏡なら、レンズのように精密な曲面が必要ではないので〈軟水晶〉でも十分ですし、その分ガラスを使うよりずっと軽い眼鏡が作れるからです。

 あと〈軟水晶〉は、魔力との親和性が高いので、そこも重要なんです」

「ふ~む。パッと聞いた感じだと、結構お金が掛かりそうだよ? お嬢ちゃんが払えるのかな?」

 

 

 クムさんがちょっと考えて、わたしの顔を見ながら悩ましげに提案をしてきた。

 ホランさんの店でこっそり確認したところ、〈軟水晶〉は普通の水晶と比べて安いか同じくらいの価格で手に入る素材みたいだから、多分、それほどではないと思っていたけど。

 

 

「ええと、いくらくらいになりますか?」

「実際に材料を集めてみないと分からないけど、〈軟水晶〉をレンズ代わりにするとして……最低でも2千シリルから、予想だと4千シリルは必要かな?」

 

 〈宝魔石〉の売却を待たずに、何とか手持ちの資金だけで払えそうだな。

 

「分かりました、ひとまず4千シリルなら払えますから、お願いします。

 それと眼鏡の設計に関して、こんな感じの機構は作れますか?

 鼻当ての部分をこんな感じにして……ここには緩衝材として、樹脂を固めたものをつけて……」

「ほう……ふむ……」

 

 

 私が家で書いてきた眼鏡のイラストをみせ、簡単に説明をする。

 別に特別な仕組みではなく、鼻当ての部分に前世の知識を流用して、耳に掛けて鼻当てで支えるタイプの眼鏡の構造を提案しているだけだ。

 

 

「なかなか面白いね。

 別に突飛な発想っていうわけじゃないけど、この絵の眼鏡の仕組みは上手くできてるよ」

「それで? いつぐらいにできあがりますか?」

「今から作業を始めれば、明日の今ぐらいには試作品ができそうだな。また明日来てもらっていいかい? それと、この絵はもらっていいのかな?」

「それは大丈夫ですけど……えっと、前金とか必要ですか?」

「いや、この依頼に関しては、後で一括で払ってくれればいいよ。久々に面白いものが作れそうだしね」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、悪いけど、今日はもうお店を閉めるから。また明日ね」

 

 

 そう宣言するが早いか、クムさんは、私から眼鏡の絵を受け取ると、作業台に向かって何やらごそごそと作業をし始めた。

 

 しばらく様子を見ていたが、どうやら作業に熱中しているらしく、私の方を一瞥いちべつもしない。

 

 

 クムさんの仕事の邪魔にならないよう、私はこっそり店を後にした。

 

 

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