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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
82/146

10歳:「お買い物をしよう(2)」

 

 

 店の中に入ると、中は店というよりも作業場にテーブルと椅子が置いてあると表現した方が正しい雰囲気だった。

 部屋の中央にはドーンと大きいが高さのない作業台が鎮座ちんざしており、その上に様々な道具や材料らしき金属や鉱石が転がっている。

 壁際にはたくさんの引出しがついたタンスがずらりと並んでいる。

 

 

「えーと、この部屋はお店……なんですか? なんか工房みたいに見えるんですが」

「うん、オイラの作業室兼お店だから問題なし!

 作業に集中したい時は、表の扉を閉めてるし、開いてる時はお店だから、誰でも勝手に入ってきてオッケーなんだよ」

「へ~……」

「ま、普通のお客さんは滅多に来ないけどね。大体どこかのお店の人が下請けの依頼も来たり、たまに常連さんが来るくらいかな?

 あとは、お嬢ちゃんみたいに誰かの紹介ってことが多いね」

 

 

 ポックルの年齢は、見た目からは分からないと本に書いてあったが、まさにその通りだった。

 目の前にいるクムさんは、外見だけならリックと同じくらいに見えるし、セリフだけなら子供っぽく感じる。

 そのあたりは種族の特徴もあるだろう。

 

 それとこの部屋に入った辺りから、不思議なプレッシャーを感じていた。決して不愉快ではなく、神社や寺院の境内のような神妙な場に入り込んだ時に感じるのと同じものだ。

 

 何となくだけど、お父様の書斎の空気にも似ている?


 ……ああ、そうか、これはきっと仕事場の空気なんだ。

 

 テーブルの上に置かれた道具はどれも「ただ古い」というより「使い込まれた」という言葉がしっくり合うし、クムさんが作ったと思わしき指輪はどれも見事な細工が施されている。

 部屋を見れば、その人となりが分かるというが、クムさんは見た目とは違って、実直な職人である印象を部屋から受ける。

 

 

「ねぇねぇ、お嬢ちゃん、良かったらこっちに座ってお茶飲まない?」

「え? あ、はい、いただきます」

 

 

 部屋の様子に見蕩れていた間に、お茶を淹れてくれていたらしい。

 私は遠慮なく、椅子に座ってお茶のコップを受け取った。

 

 

「うっ……このお茶って〈ラルシャの葉〉が入ってますか?」

「へ~、よく分かったね?」

「この独特の香りはすぐに分かります……」

 

 

 〈ラルシャの葉〉は煎じると生に比べれば格段に苦味が減るものの元々の苦味がものすごいため、少し混ぜるだけでも薬みたいな味になる。

 それなのに、このお茶からは〈ラルシャの葉〉の香りが強烈にするんですけど……。

 

 

「身体に良いんだよー。ほら、飲んで飲んで」

「うう~……ごく、っん……苦っ!? 甘っ!?」

 

 

 なにこれ、苦くて甘いんですけど。

 苦いのは覚悟していたけど、予想外の甘さに吹き出しそうになったのを慌てて飲み込んだ。

 

 どっきり? いたずら? 嫌がらせ?

 

 ……かと思ったら、クムさんは普通に飲んでるし……。

 

 

「なんでこんなに甘いんですか、これ?」

「そのままだと苦いから、ハチミツと砂糖をたっぷり入れてるんだ」

 

 

 ポックルって人間と味覚が違うの? それとも、クムさんが変なだけ? そこはかとなく後者な気がする。

 

 

「すみません、お水をもらえませんか?」

「はい、どうぞ。

 お嬢ちゃんもダメだったかぁ。なんで皆飲めないのかなぁ。こんなに美味しいのに……」

 

 

 ……いやさ、お水がすでに用意してあるのって、どうよ? クムさんはこの特製茶によって数多く犠牲者の出してきたに違いない、絶対。

 

 

「それで、お嬢ちゃんが欲しいのは何かな? 指輪? 腕輪? それとも髪飾り?」

「はい、えっとですね……あれ?」

 

 

 さっきからずっと“お嬢ちゃん”て呼ばれてないか?

 あまりに自然だったからスルーしてたな。

 

 

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