10歳:「お買い物をしよう(1)」
「お待たせしました。今回の査定額は合わせて7,500シリルとなります。
詳細としましては、粒の小さいなモノが合わせて1,300シリル、〈泉乙女の紫水晶〉が1,200シリル、〈星紅玉石〉が5,000シリルとなっております。
こちらは前回同様に一部で小銭で用意いたしましたが、よろしかったでしょうか?」
「お気遣いありがとうございます」
ホランさんから今回分の代金として、軽銀貨が10枚、半銀貨が2枚、銀貨が3枚、小金貨が7枚を受け取る。
財布代わりの小袋に硬貨をしまう。
一応、前回の反省を踏まえて、小袋はズボンと紐でつなげて、いざというときのために前もって魔術も掛けていた。
「ところで、例のものはどうなりましたか?」
「はい、売却を当店にお任せ頂けるということでしたので、オークションにかけさせてもらうことにしました。
そのため事前に魔術組合の保証書を用意させてもらう予定ですが、よろしかったでしょうか?」
「その辺りはお任せします」
「畏まりました」
「ところで、そのオークションって、いつ、どこで行なわれるのですか?」
「1巡り後に宝環通りにあります『グラフィーム競売場』にて出品いたします」
「それって見学できますか?」
「入場料として100シリルを払えば、見学することは可能です。ただし、その場合は見学のみで落札はできません」
見学だけで100シリルというのが、安いのか高いのかちょっと分かりにくいな。
娯楽の一種だと思えば、それなりの値段か?
私としては、見学はしてみたいけど、お金を払うとなると少し抵抗感はある。
「見学できるのは分かりましたが、落札したい場合は?」
「『グラフィーム競売場』のように一流の競売場となりますと、出展者は最低限商人連盟に所属している者、落札者はその競売場に年会費を払っている会員でないといけません。
ただ、商品1つ2つ落札するために会員になるのは面倒ですので、その場合は、会員の誰かに代理で落札してもらうことも多いです。中には、代理落札のためだけに会員になっている者もおります」
「なるほど」
たまたまかもしれないが、『グロリス・ワールド』でもオークションに参加するために〈オークション会員証〉という特殊なアイテムが必要だった。
「それともう一つお聞きしたいことが、ホランさんが着けている片眼鏡は、どちらで扱っているのですか?」
「こちらは『クムの細工店』という店で扱っております。当店と懇意にしている店でして、必要でしたら店の者に案内をさせましょうか?」
「あ、いえ、大体の場所を教えてもらえれば、それでも」
「口頭では説明しにくい隠れた名店でして……おおい、誰か手の空いている人はいますかー?」
ホランさんの呼び声で、若い男性の店員がハーイと手を上げる。
確か、一昨日この店で最初に取り合ってくれた店員さんのような気がする。
近づいてきた店員にホランさんが二言、三言ほど話し、店員もその言葉にうなづいていた。
「では、ケイン様、このものに案内させますので」
「あ、ありがとうございます。では、今日はこれで」
「はい、またのご来店をお待ちしております」
『セールテクト輝石店』の店員は、私の歩幅に合わせて案内をしてくれた。
店を出てから馬車街道を少し歩き、細い道に入り、そこから2回ほど曲がって、3回目に曲がって入った細い路地の中に『クムの細工店』の入り口があった。
確かに口頭で説明されただけでは、この店には到着できなかっただろう。
「失礼します。クムさんいらっしゃいますかー? 『セールテクト輝石店』の者ですがー」
「はいは~い? ごめん、今日って何かの納品だったっけ?」
その店員の呼びかけに応じて、店の奥から私よりも背が低い少年がひょっこりと顔を出してきた。
子供のように見えるが、人間とは少し違う真ん丸な耳をしている。
クムさんの種族はどうやらポックルのようだ。
「いえ、納品の催促ではありません。
今日はうちの店長から、重要なお客様をクムさんの店まで案内するように申し付かってきまして……ええと、ケイン様、こちらが細工師のクムさんです」
「初めましてケインと申します」
「クムです」
「それじゃあ、私はこれで」
「あ、はい、ありがとうございました。ホランさんにもよろしく言っておいて下さい」
私とクムさんの挨拶が終わり、顔合わせが済んだのを見届けて、店員の人は店に戻っていった。