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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
77/146

10歳:「お父様の事情(2)」

 

 

「ガースェ・バーレンシアは、当時まだガーウェでね。ケネア……ああ、ガーロォ・バーレンシアの産みの母親の名前だよ。

 ケネアの父親が当時のガースェ・バーレンシアの上司だったんだ。で、当時の出世頭であったガースェ・バーレンシアに娘を嫁がせた。確かに昔から仕事ができる人だったからね」

「そのケネアお祖母様? のご実家は?」

 

 

 ある意味で政略結婚と言えるのかな、そういうのも。

 シズネさんが冗談っぽく「少し年寄りの長話を付き合ってもらおうか」と言って話を続けた。

 

 

「結婚してしばらくしてケネアの家族はケネア以外は全員、事故にあって亡くなってね。

 唯一生き残った血縁者がケネアのみで、ガースェ・バーレンシアがケネアの実家の称号を引き継ぐ形でガースェになったんだ。元々ガーウェだったし、ケネアの配偶者だったから条件は良かったんだよね。

 

 当時は色々言われたみたいだよ。ただ純然たる事故であることがきちんと調査されていたし、そもそもガースェ・バーレンシアは、その手のやっかみを跳ね除けられるだけの実力のある人だった。

 ただケネアの落ち込みようったらすごかったよ。幸い、お腹にガーロォ・バーレンシアがいることが判明して、それを希望に立ち直ってくれたんだけどね……。

 

 

 そして、ガーロォ・バーレンシアが産まれから、ケネアは体調を崩してね。元々線の細い子だったけど、一日のほとんどを寝室で過ごすような状態になってたんだ。

 その頃、すでに王国立中央病院に勤めていた私は上司の往診に付き合って、何度も彼女に会いに行ったよ。徐々に彼女は容態は悪くなっていき、魔術を使った治療をもってしてでも回復しなくてね。

 美人薄命とはよく言ったもんだ。ガーロォ・バーレンシアを産んで2年ほどで亡くなった。

 

 ケネアが亡くなってすぐだったかね。ガースェ・バーレンシア夫人を後妻に迎えたのは……しかも、ガーロォ・バーレンシアよりも3つも年上の子供がいるっていうじゃないか。

 

 当時、その話を聞いた、あたしは悔しくってね。

 まるでケネアがいなくなっても、すぐに代わりがいるような気がして……仕事のことがなかったら、ガースェ・バーレンシアの屋敷に怒鳴り込んでいたかもしれないよ。

 

 今なら、幼かったガーロォ・バーレンシアにとっては、母親は必要だったのは認めるし、ガーロォ・バーレンシアも後妻さんに懐いていたみたいだしね。

 結果だけを見れば良かったんだろうと思えるけどさ」

 

 

 整理をすると……。

 

 お父様には、今のお祖母様ではない、産みのお母ケネアさんがいてお父様が物心がつく前に亡くなっている。

 後妻の連れ子である伯父様とお父様は、半分血がつながっているということは2人ともお祖父様の実の子供であり、異母兄弟となる。

 

 しかも、後妻のはずのお祖母様の子供である伯父様の方が3歳ほど年上ということは、お父様が生まれる前に、今のお祖母様と関係を持っていたということになる。

 もしかすると、お父様の母親と結婚する前の話だったのかな? そこは、結婚して何年目にお父様が生まれたかによって変わってくるか。

 

 

「しかし、まるで昼ドラみたいな話だ……」

「ヒルドラ? 戯曲か何かかい?」

「え? あ~~、そんな感じです。つまり、今のお祖母様は、お父様が産まれる前にお祖父様が子供を産ませていた女性というわけですね?

 ……あれ? でも、そうなると、お祖母様に子供を産ませたけど、お祖父様とは結婚しなかったのですか?」

 

 

 む、ちょっとこの辺りの貞操観念みたいなのが、今一分からないんだよな。

 できちゃった結婚みたいなのはないのだろうか?

 

 

「ケネアが亡くなってからは、バーレンシア家とは疎遠になっていたから、その辺りの詳しい事情は知らないんだ。噂には色々と聞いたけどね。分かるとすれば、コーズレイト殿が知っているかもしれないね。

 

 ああ、一応補足をしておくと、結婚生活はケネアにとっては幸せなものだったと思うよ。

 一日のほとんど寝たきりだった時でも、ガーロォ・バーレンシアに母乳を与えているケネアの顔は幸せそのものだったからね。

 それに彼女の口からガースェ・バーレンシアの悪口を聞いた覚えはない。惚気みたいな愚痴は聞いたことはあるけどね」

 

 

 一応、話を聞く限りだと、不幸になった人は――ケネアお祖母様の家族の事故は別として――いそうにないんだよな。

 だとすると、お父様がどうして、あそこまでお祖父様を嫌っているかだけど……うーん???

 

 ロイズさんにも話を聞いてみるべきかな、と言っても、私にできることなんてないような気もするんだけど。

 リックのためだと、割り切って、少し調べてみるべきだな。

 と、話が一区切りついたところで、お母様が食堂に戻ってきた。

 

 

「あ、おかえりなさいませ、お母様。2人はちゃんと眠りましたか?」

「ええ、良い子で眠りましたよ。ユリィちゃんも、そろそろ眠りなさい。

 それとシズネさん、席を離れてしまって申し訳ありません。今日はこのまま泊まられますか? もし、お帰りになるようでしたら、ロイズさんに馬車を連れてきてもらいますが」

「こちらこそ長居をしてしまって申し訳ないね。コーズレイト殿には悪いけど、馬車を用意してもらっていいかな?」

「はい」

 

 

 短く返事を返して、ロイズさんを呼びにお母様は出て行った。

 シズネさんが、私の方に笑顔を向けて、

 

 

「まぁ、ユリアちゃんも頑張りな。あたしもできることなら応援するし、期待をしているからね」

 

 

 ……期待、されてますか?

 

 

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