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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
76/146

10歳:「お父様の事情(1)」

 

 

「ところで、シズネさん。王都には【霊獣の加護】持ちが何人かいるんですよね? その中で、私と同じ年頃の男の子って知ってますか?」

 

 

 すっかり冷めたお茶を飲みながら、私はシズネさんにフェルのことを訊いてみた。

 

 お父様は書斎に、お母様は双子を寝かし付けに、アイラさんとロイズさんは晩ご飯の後片付けにいっており、食堂にはちょうど私とシズネさんだけが残っていた。

 一応、ジルもいるが、テーブルに突っ伏して眠っている。……後で、起こすか、ロイズさんに部屋まで運んでもらおう。

 

 

「“真白の司ましろのつかさ”のことか? いきなりどうしたんだ?」

「ええと、外に出かけたときに、少し話を聞いたので気になって……。その“真白の司”って何ですか?」

 

 

 シズネさんが不思議そうに顔をしたので、咄嗟に誤魔化す。嘘はついてない……出かけているのが夜で、本人から聞いたということを言葉にしていないだけだ。

 

 

「ああ、【霊獣の加護】持ちは国に認定されると、能力に応じた通り名のようなものをもらうんだ。大体が“~のつかさ”で揃うようになってる

 本名はフェルネ・ザールバリン、確か3年前だったか? この国でもっとも新しく【霊獣の加護】持ちであることが判明した少年だな。

 なんでも相手の嘘を見抜くチカラを授かっているらしい」

 

 

 あ、世間的にはそういうことになっているのか。

 確かに嘘は何かを隠すために起こす行動だから、客観的には嘘を見抜いているように見えるのかもしれないな。

 

 

「そのザールバリン家って有名なんですか?」

「有名っちゃ有名だな。ここ数年の話だけどね。

 当主でフェルネ・ザールバリンの父親、フェクス・ガーウェ・ザールバリンは元々商人だったけど、短い期間で一気にガーウェまで成り上がった男だね。

 その成り上がりには“真白の司”の影響が大きいと言われているし、それは事実だろう」

 

「家族に【霊獣の加護】持ちがいると、そんな簡単に称号がもらえるものなのですか?」

「【霊獣の加護】持ちの場合は、国に忠誠を誓った時点で、ガーロォの称号をもらうか、それに準じる待遇で迎え入れられる。

 それと【霊獣の加護】持ちが未成人の場合、称号は後見人である親に与えられることが多い……ただ、それでもガーウェになったのには、ガーウェ・ザールバリンは交渉事に関する才に長けていたんだろう。

 あたしは噂を全部を信じるわけじゃないが、ガーウェ・ザールバリンには良くない噂が多いけどな」

 

 

 あんまり聞かせたい話じゃないから、とそれ以上は話してくれなかった。

 まぁ、フェルから聞いた話と今のシズネさんの話をまとめるに、聞いて面白い話ではないのは確かだ。

 

 

「ところで、ガーロォ・バーレンシアは何かあったのか?」

「あー……やっぱり、気になりましたか?」

「最初は、仕事で疲れているのかと思ったが、時折な思いつめたような表情をするから、なんとなくな」

 

 

 流石だよな。【野兎の加護】とか関係なく、鋭い観察眼みたいなものはシズネさん自身の特質なんだろう。正直、フェルよりシズネさん相手の方が隠し事をできる気がしない。

 ここで、お祖父様やリックの話をするかどうか、少しばかり躊躇ためらいもあったが、結局話すことにした。

 バーレンシア本家であった食事の話、リックの気持ちと、私の推測も一緒に全部を語る。

 

 

「なるほどね。厄介な話だ……」

「シズネさんは、お父様やお祖父様のことは何か知っているんですか?」

「あたしもバーレンシア家とは、関係浅からぬってところだからね。当人たちの気持ちは別として、知っていることもいくつかあるが……

 それをユリアちゃんに教えていいものか、悩むところだね」

 

 

 私とシズネさんの間に、僅かな緊張感が漂う。

 空っぽになったカップをテーブルにおいて、お茶請けとして出されていた干しブドウを3粒口に入れて、よく噛む。

 私が干しブドウを呑み込む音が静かな食堂に響いた。

 

 

「シズネさんが、さっきの話を聞いて、私が知るべきことじゃないと思うなら聞きません。

 少しでも知っておいた方がいいと思うなら、ぜひ教えて下さい」

「まぁ、ユリアちゃんを見た目通りの10歳の子供として扱うのは間違えだよな。

 一応先に言っておくが、あたしはできるだけ主観を交えずに話すつもりだ。ただ、どうしても、あたしの感情が混じると思うから、そう思って聞いとくれ。

 

 あたしは、ガーロォ・バーレンシアの母親とは幼馴染でね。同じ学院にも一緒に通ったんだよ。

 元々彼女は体が強い方じゃなくてね。ガーロォ・バーレンシアが物心つく前に病気で亡くなっているんだ」

 

「でも、お祖母様とはこの間お会いしましたけど……」

「それは、ガーロォ・バーレンシアの母親が亡くなってから、迎えた後妻さんだね。

 人当たりが良くて優しい人だし、ガーロォ・バーレンシアを実の息子と同様に可愛がっていたらしい。性格的には問題はないんだけどね。

 問題なのは、結婚する時に連れ子がいたということさ」

「あんなにそっくりなのに伯父様とお父様は血がつながってないのですか?」

「いや、つながっているさ、半分はね」

 

 

 半分……? それは、つまり……そういうことなのか?

 

 

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