10歳:「ユリアの料理(2)」
ラシク国では、料理の技法は「焼く」「炒める」「茹でる」「煮る」の4種類が一般的だ。
「焼く」は、主に鉄板、網、串、オーブンなどを使って調理される。
「炒める」は、主に〈曲がり底鍋〉と呼ばれる、前世でいう中華鍋みたいな器具を使って調理される。
「茹でる」と「煮る」は似ている。違いとしては「茹でる」が水で食材を加熱するだけなのに対して、「煮る」は液体で加熱する際、液体に味をつけたるところだ。例外として、「塩茹で」なんていう技法もあるけど。
他にも「揚げ」て作る料理もあるにはあるが、〈揚げ芋〉という芋を一口サイズに切って揚げたフライドポテトみたいな料理とか、ほとんどが「素揚げ」である。
私が知っている限り、まだこの世界で「蒸す」料理は見ていない。
ついでに調味料の話をすると、この国では塩や砂糖はわりと豊富に流通していると思われる。
前世の価格比と考えると食材の値段に対して調味料は若干割高ではあるが、一般的な家庭でも普通に購入できる価格だ。
子供のちょっと贅沢なおやつとして飴やジャムなんかが出される位、だと考えれば分かりやすいか?
香辛料について、胡椒や辛子などは外国から輸入に頼らざるを得ないらしく、かなり高価だ。魔術を使って、国内で栽培も試みられているが上手くいってないらしい。
ニンニクやショウガ、ハーブ類の一部は国内でも作っており、砂糖や塩と同じ程度には手に入る。
閑話休題。
「お嬢様、今夜のメニューは串焼きですか?」
「ちょっと違うんだ。まぁ、できてからのお楽しみで」
アイラさんに手伝ってもらいながら、晩ご飯の準備をしている。
2人で一口サイズに切って下味をつけた〈グラススネイル〉の肉とタマネギを交互に串に刺していく。
それ以外にも、魚の切り身や野菜だけが刺さった串も用意する予定だ。
「でもって、小麦粉に溶いた卵と水を入れて……」
フォークを使って混ぜて、大きめのボウルにねっとりとした泥みたいなモノができる。
水を少しずつ足して、程よい固さになるように調整する。
「お嬢様? パンケーキを作るなら、もっと水は少なめじゃないと」
「大丈夫、これはこれでいいの……ん、こんなもんかな?
で、これをさっきの串につけて、前もって用意しておいたパン粉をまぶす」
「なんか、ボコボコしてて、変わった形になりましたね。コレが料理なんですか? 肉とか野菜は、まだ生のような」
「もちろん、この後で熱を通すよ。私が串にこれをつけるから、アイラさんは、こんな感じにパン粉をまぶしてくれる?」
「分かりました……こんな感じでよろしいですか?」
「うん、いい感じ。用意した串を全部、コレをやるからよろしくね」
「はい」
しばらくの間、黙々と串に“衣”をつける作業をする。
ここまで来るとあとは揚げるだけなんだけど……。
「ひとまず、下準備はコレくらいかな?
この料理はできたてを食べて欲しいから、先に他の料理と食堂の準備をしよう」
「分かりました」
お父様も先ほど帰ってきて、お母様や双子と一緒にシズネさんと歓談中だ。
“衣”をつけた後は、あまり時間を置きたくないので、食堂の用意が整いしだい移動してもらおう。
アイラさんは、事前に作っていたシチューの鍋を竈に乗せて温め直す。
私は、パンやチーズを適当な大きさに切って食堂のテーブルの上に運ぶ。
一通りの準備が整ったら、竈に鍋を乗せて、たっぷりの油を入れる。
ここからは火傷に注意しないとな。火傷をしても魔術で直せるけど、わざわざ痛い思いをしたいわけじゃない。
あ、そうか、魔術で火傷をしないように保護すればいいのか。念のため、身体が高熱によって怪我をしなくなる魔術を使っておく。
「お嬢様、今日の料理は揚げるのですか?」
「うん、串揚げって言う料理だよ」
確か関東だと串揚げ、関西だと串カツって呼ぶんだよな。
カツの語源は英語だし、多分、こっちの方が直感的に分かりやすいだろう。