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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
71/146

10歳:「居住自由区の姉弟(6)」

 

 

 ペートはしばらく考え込んでいたが、ゆっくりと私に向かって口を開いた。

 

 

「お金なら、いくらだって払う。一生をかけたっていい!」

「……そのお金はどうやって稼ぐの? スリで稼いだお金なんて、欲しくないね」

「まじめに働くさ!」

「でも、私は別にお金が欲しいわけじゃないよ。

 それにペート、君がまじめに働けるなら、そもそもスリなんてやってないでしょ?」

 

 

 悔しそうに歯を食いしばる。それでも目は諦めていない。

 必死に私を納得させるための答えを考えている。

 

 

「ケイン……さんの言うことなら何でも聞く、死ねと言うなら死んだっていい」

 

 

 言い切ったなぁ。けど、もう少しだけ試させてもらおう。

 

 

「私にとって、ペートを殺すだけの価値があると思う?

 それにペートが死んだら、ペルナちゃんは悲しむでしょ? 私には、意味もなく女の子を悲しませる趣味はないね」

 

 

 私がここまでペートを試す資格があるのかと問われたら、あるとは言い切れない。

 多分、私がペルナちゃんを助けるための、最後の踏ん切りにペートを使おうとしているだけだから。

 

 

「…………」

「…………」

 

「……姉ちゃんの目が悪くなったのは、おれのせいなんだ。

 自分がろくに食べずに、おれにゆずってばっかりで……

 だから……姉ちゃんを……

 ……おねがいじまず! 姉ぢゃんの目を治じでぐだざいっ!!」

 

「うん、分かった。私ができるだけの協力を約束しよう」

 

 

 私の軽い返事にペートが呆気に取られた顔になる。その顔は涙とか鼻水とかでグチャグチャになっていた。

 ちょっと意地悪しすぎちゃったかもしれない。

 

 

「もちろん、ペートがスリをやめて真面目に働くのも条件だよ。

 仕事に関しては、ちょっと試してみたいことがあるので、うまくいったら仕事を紹介できるかもしれない。失敗する可能性もあるから、そんなに期待はしないで欲しいんだけどね。

 それと、これだけあれば、数日は持つでしょ?

 しばらくの間、ゆっくり考えを整えた方がいい……そもそも、私のことを本当に信頼していいのかも含めてね」

 

 

 ペートの手に小金貨を2枚を手渡す。

 

 

「…………なんで、こんなに、おれたちに良くしてくれるんだ?」

 

 

 ずずっと鼻をすすって不思議そうな声を漏らした。その疑問はもっともだろう。

 

 

「しいて言うなら、自己満足かな。それと私は子供が好きで、子供を見捨てる大人が大嫌いだから」

「…………自分だって子供のくせに」

 

 

 ははっ、泣いたばっかりで、もう皮肉が出るのか。

 

 私には助けることができるだけの力とお金があって、気持ちだけが追いつかなかった。

 だから、助けることに大した理由があるわけじゃない。そうしたいと思えたから、ただそれだけ。

 

 親のいないペルナちゃんとペートの姉弟に前世の自分を少し重ね合わせたのも否定しない。

 うまく言葉にならないから、これ以上の説明しないけど

 

 

「さてと、そろそろペルナちゃんのところへ戻ろうか。

 ペート、今、ここで話したことはペルナちゃんには、まだ話さないでね」

「何でだよ? いや、何でです、か?」

「ぷっ……無理に丁寧な話し方をしなくてもいいよ、別に」

「……そうなのか?」

「ああ、ペートが私に恩を感じるのは自由だけど、私はそんなことは望んでいない。名前もケインって呼び捨てで構わないから。

 それとペルナちゃんに今の話をしない理由だけど、私の方で色々と準備があるから、それが整うまでは黙っていて欲しいんだ」

「ケインがそう言うなら……」

「よろしくね。ペルナちゃんに強く訊かれたら答えてもいいけど。とりあえず、戻ろうか」

 

 

 部屋に戻った私たちをペルナちゃんが、何か訊きたそうにしていたけど、あえて気づかない振りをした。

 ペートも、私に言われたことを守って静かにしている。この分なら、私の気持ちがもう少し整うまで、黙っていてくれるだろう。

 

 

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