表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
69/146

10歳:「居住自由区の姉弟(4)」

 

 

「ペート君、昨日の仕事について、少し話があったんで寄らせてもらったんだ。

 突然訪問して、ごめんね」

 

 

 私の存在に気づいて戸惑うペート君の先制を取り、争う意思はないことを伝えようとしたが、無理かなぁ。

 まぁ、このまま押し切るか。

 

 

「ぺルナちゃん、申し訳ないけど、彼と重要な話があるから、ちょっと彼を連れていくけど、いいかな?」

「あ、はい! 弟をよろしくお願いします!」

「じゃあ、ペート君、下で話そうか」

 

 

 私はペート君が持ち直す前に彼の片手を掴むと、部屋から出て、階下に向かう。

 彼は私に引きずられるまま、おとなしく付いてきた。

 階段を下りて、そのまま一階の適当な部屋に入る。

 

 

「…………」

「さて、まずは自己紹介をしようか。私のことはケインと呼んで欲しいな。君の事は、ペートと呼んでいいかな?」

「……好きにすれば? それで、金を取り返しにきたのか?」

 

 

 少し事情が理解できたのか、私に剥き出しの敵意をぶつけてくる。

 けど、まだ理解が足りないな。

 

 

「んー、まぁ、最初はそういうつもりだったんだけどね。諦めて帰ろうかなって、思っていたところかな」

「どういうつもりだ!?」

「ペート、私が君に説明する必要はあるかな?」

「っ!!」

 

 

 私は生きていくためにお金を奪うことは「純粋な悪」だとは思わない。

 何らかの理由で、そうせざるを得なかった結果ならば、の話だ。

 

 「カルネアデスの板」と言う話がある。古代の哲学者カルネアデスが出した問題だ。

 船が難破し、1人の男が溺れないように板切れに掴まっている所に、溺れている別の男が近づいてきて、同じ板にしがみつこうとする。しかし、その板に2人がしがみついたら、板が耐えれずに2人とも溺れてしまう可能性が高いとする。

 その場合、元々板に掴まっている男が、近づいてきた男の手を振り払い、結果として近づいてきた男が溺れ死んでしまっても、罪にはならない、と言う話だ。

 確か、これは前世の日本でも法律で保護されていた行動だと思う。

 

 ペートの話と「カルネアデスの板」は厳密には違うのだが……。

 

 

「ぺルナちゃんには、仕事のことを話してないんだって? 君のこと、すごく心配していたよ?」

「別に、それこそお前には関係ない話だろ!!」

「そうだね。本来なら、関係のない話だったと思うよ……でも、私はぺルナちゃんのことが気に入ったからね。

 ぺートとぺルナちゃんだったら、彼女の味方をするよ」

「姉ちゃんに、スリのことをバラすつもりか?

 それとも姉ちゃんを気にいったから、メカケにする気か? ガキのクセに、これだから金持ちは!!」

 

 

 声を荒げて威嚇いかくしてくるが、乱暴してくる様子はない。

 多分、私が腰に差している剣を警戒しているのだ。ペートの視線が時折、腰の辺りを向いている。

 

 しかし、ペルナちゃんをめかけにするには、お互いにちょっと歳が足りてないよねぇ。

 ああ、今から私好みのレディに育てるとか? 私がそれをやるのは、かなり悪趣味っぽい気がするけど。もちろん、冗談だ。

 

 

「言葉づかいに気をつけたほうがいいと思うよ?

 私を怒らせても、君は何も得をしない。それどころか、危険な目に合うかもしれないね」

「お、おどす気か?」

「安心して……。心優しいぺルナちゃんに免じて、2人の害になるようなことをするつもりはない。

 ここに来たのもお金じゃなくて、布の小袋だけを返してもらおうかと思ってたんだ。

 でも、それはぺルナちゃんの手元にあるらしいし、無理に取り返すつもりも無くなったからね」

「はっ……お情けありがとうございます。とでも答えれば満足かよ」

 

 

 うーん、嫌われてるなぁ。まぁ、当たり前か。

 自分がちょっと悪役っぽいことを言っている自覚はある。

 

 

「忠告するけど、今回は私だったから良かったようなものの、スリを続けるといつか辛い目にあることになるよ?」

「うるさい、余計なお世話だっ!!」

「もっときちんとした職を探すか、孤児院にお世話になったりするつもりはないの?」

「はっ、分かったような口を利くなよな。おれみたいな子供がまともな職を見つけられるわけないだろ!

 それにおれと姉ちゃんは、孤児院から逃げ出してきたんだよ!」

 

 

 うわ、なんだろう……、泥沼にハマった気がする。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ