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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
68/146

10歳:「居住自由区の姉弟(3)」

 

 

 参ったな……というのが、正直な感想だ。

 

 例えて言うなら、学校の帰り道に川原でダンボールに入った子猫を見つけてしまった時と同じ気分だ。

 無認可の愛玩動物類の放棄は条例に引っかかるから面倒だ、とか、そういう方向ではなく。主に感情的な面で。

 

 科学技術が進歩し文明が発展した前世の世界でも、人から情というものが無くなることはなかった。

 感情操作なんていうのは、漫画や映画だけの話であって、日々を平和に暮らしている人間ならば「川原で見つけた子猫に情が移る」という状態になるのだ。

 結局、施設に連れて帰って皆で里親を探したんだっけかな。

 

 

「あの、ケインさん?」

「え?」

「急に静かになりましたけど、その、やっぱり……ペート君は危険な仕事を……」

「ごめんなさい。その、ちょっと、考え事をしてしまいまして」

 

 

 うっかり前世の思い出に没頭してしまっていた。

 ペルナちゃんは、私の沈黙を悪い意味で受け取ったらしく、ものすごく悲しそうな顔をしている。

 

 

「ペート君の仕事ですが……実は、私のほうも詳しくは知らないのですよ。

 その、昨日初めて、彼の仕事場で会ったばかりなので」

 

 

 できるだけ曖昧あいまいな言葉で、質問をはぐらかす。

 ここで「弟さんはスリをしています」とか、物事をキッパリ言えない日本人の心は、まだ私の中に元気に生き残っている。

 

 

「そう、ですか……すみません、変なことを訊いてしまって」

「いえ、私の方こそ、ごめんなさい」

 

 

 その謝罪に二重の意味を込める。

 一つはペート君のことをよく知らないこと、もう一つは彼女の目のことだ。

 

 私が魔術を使えば、ペルナちゃんの目は、治療することができるかもしれない。

 けれど、その治療を施すことを、私は即断できないでいる。

 

 寝ていれば治るただの怪我や病気ならば、何も感じずに放っておけた。

 家族が失明したならば、私は迷わずに魔術を使っただろう。

 

 けれど、ペルナちゃんは違う。どれだけ月日が経とうがその目は光を映さないし、今さっき知り合ったばかりの友達ですらない。

 第一印象としては悪くはないし、少し話しただけでも彼女のことはかなり気に入っている。

 

 もし、私が彼女の治療をしたとしよう。彼女は、そのことを感謝するだろう。秘密にしてくれと頼めば、秘密にしてくれるかもしれない。

 ただ、私は今後、彼女と同じような少女を見かけるたびに同じことができるのか? と思うとためらってしまうのだ。

 

 いずれも、IFが付く可能性の話だが。

 

 そもそも……私がここにきたのは、お母様が作ってくれた小袋を取り戻しにきただけのはずだったのに……。

 

 

「あの、また私から訊いていいかな?」

「はい……なんでしょう?」

「昨日さ、ぺート君が小さな布の袋を持って帰ってこなかった?」

「あ、はい! お土産にって、わたしは分からないのですが、とってもキレイな色の袋だよって、教えてくれました。

 それがどうかしましたか?」

 

 

 …………諦めよう。グイルさんが帰ってきたら、小袋のことは忘れて今日は帰ろう。

 

 こうね、見た目は年下なエルフの美少女(幼女?)が、ちょっと大人びた雰囲気を漂わせながら、男(ただし弟)からのプレゼントに、照れくさそうな笑みを浮かべている。

 そこに「その小袋は私のもので返してください」と、せまれるほど空気が読めない私じゃありません。

 

 と、私が色々と決心をした時、部屋の扉が開いて、

 

 

「姉ちゃん、ただいまー……あれ? お客さん?」

「おかえりなさい。ペート君のお知り合いが来て待っているの」

「……昨日はどうも」

 

 内心で小さくため息をついて椅子から立って、軽く会釈をした。

 

「えっ……?」

 

 

 私が昨日の仕事相手だったことに気づいたのか、ペート君の顔に動揺が走った。

 

 どうやら記憶力は悪くないようだ……タイミングは最高に悪いが。

 

 

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