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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
67/146

10歳:「居住自由区の姉弟(2)」

 

 

 ペート君というのは、例のスリの少年の名前だろうな、多分。

 

 

「私はペート君とは友達というか、知り合いだよ。昨日の仕事の件で、少し話したいことがあってね」

 

 さも以前から彼の名前を知っていましたよ、という雰囲気をにじまえて曖昧に答えた。

 

「……お仕事先の方ですか?」

「ん、まぁ、仕事先で知り合ったという感じ、かな? ペート君は?」

「今日は朝からお買い物に行ってて、多分、お昼になるまで帰ってきません……その、えっと……」

 

 

 扉の向こうで、何かためらっているような感じがした。

 グイルさんが私に「どうする?」という視線を送ってきたので、軽く右手を広げて「少し待って」という合図を返す。

 と、そこで少し扉が開いて、1人の少女がその隙間からこちらを覗いてきた。

 

 茶色の長い髪と美しい緑の目をしており、歳は私より年下に見える。グイルさんが見たスリの少年と容貌が部分的に一致する。多分、肉親だろうか?

 ただ、その瞳を私とは合わせようとしない。

 

 

「お初にお目にかかります、お嬢様。私のことはケイン、連れはグイルと呼んで下さい」

「どうぞよろしく」

 

 

 私の挨拶に合わせ、廃屋に入ってきて初めてグイルさんが声を出す。

 そこで初めて私の横に立っているグイルさんの存在に気づいたのか、少女の方がビクリと少し震えた。

 

 

「安心して下さい。私たちは別に貴女とペート君を害するつもりはありません。お嬢様のお名前をお聞きしても?」

「ペルナです。……ケインさんとグイルさん? その、ペート君が帰ってくるまで、中で待っていますか?」

 

 

 いくら相手が丁寧な物腰で接してきたとしても、無用心だなぁ……ペルナちゃんの行動に、思わず心配をしてしまう。いや、私が言うことじゃないけど。

 まぁ、ペート君とやらとは、少々お話し合いがしたいし、ここは遠慮なく中で待たせてもらおう。

 

 そして、扉を開けて、その姿を見せたペルナちゃんは、服や顔は少々薄汚れているが、なかなかに愛らしい容姿をしている。磨けばうちのリリアに負けないくらいの美少女になるだろう。

 そして、特徴的なのは細長い耳。ペルナちゃんの種族は、どうやらエルフのようだ。

 

 

「どうぞ……」

「お邪魔します」「失礼します」

 

 

 グイルさんと一緒に部屋の中に入る。

 部屋の外に比べて、中は幾分かモノが整っており、人が住んでいる生活感があった。ペルナちゃんとペート君、その両親が暮らしているのだろうか。

 

 

「え、ええっと、そ、その辺りに腰をお掛けください。あの、飲み物はいかがですか? その、水しかありませんけど……」

「お構いなく……そうだ、グイルさん、しばらく待つみたいですし、飲み物を買ってきてくれません?」

「ん、了解」

 

 

 私は財布から軽銀貨を取り出して渡そうとしたが、「それくらいオレが出す」と、断られてしまった。

 

 そして、グイルさんが出て行くと、部屋の中には私とペルナちゃんが残る。

 お互いテーブルを挟んで向かい合わせに座っているのだが、先ほどから、ペルナちゃんが私の方を向いては、何かを言いかけようとして、再び顔を背ける。

 

 

「あの、ちょっと聞いていいかな?」

「は、はいっ!」

「ペルナちゃん。ペルナちゃんとペート君以外に、ここに住んでいるのは? ご両親もお仕事かな?」

「ペート君とわたしの2人だけ……です。その親は……いません」

 

 

 やばっ、地雷を踏んじゃったかも。

 

 

「ごめんなさい。悪いことを聞いちゃったね」

「ううん、いいんです。あの、わたしからも訊いていいですか?」

「何?」

「ペート君は、どんな仕事をしているんですか? 何か危ない仕事をしていませんか?

 本当なら、姉であるわたしがペート君の面倒を見てあげないといけないのに、その、わたしがこんなだから……」

 

 

 ペルナちゃんが、自分の力足らずを悔やむような、ペート君を心配しつつ悲しむような表情を浮かべる。

 ……その彼女の目は光を映していなかった。

 

 

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