10歳:「王都を歩こう(4)」
「もちろん王国がつけた公式な組織名じゃなくて皮肉を効かせた自称だけどな。ちょっとした有識者なら、誰でも知ってるくらい巨大な組織だ。
そもそも必要悪みたいなもんで王宮議会も潰すに潰せず、ほどよく共生している。そして、その下位組織に掏り師組合っていう、まんまな団体があってな。
例の少年が、そこに所属しているなら小袋位は取り戻せるかもしれないが……それはそれで面倒なんだよ」
ハンスさんが難しい顔をする。
ん~、つまりはマフィアとか暴力団みたいなのの親玉って感じか。悪人には悪人の秩序があるから、その均衡を下手に崩すと蜂の巣を突付いたような事態を引き起こすってことだな。
「その罪人連盟には、ほかにどんな組合があるんですか?」
「はっきりと分かってないが、荒事師組合、泥棒組合、諜報員組合、闇商人組合あたりは有名だな。
噂だと暗殺者組合ってのもあるって言われているが、これは真偽は不明だ」
「仮にあの少年がその罪人連盟に所属しているとして、少年を捕まえて取り返した場合、その連盟はどうでます?」
「ああ、別に犯罪者を捕まえたからといって、抗争が起こったりはしないさ。それが下っ端であれば特にな。
罪人連盟にとって、王国軍に捕まるような構成員は本人の腕が悪いってことになっているからな。別に罪人連盟は、国家の転覆や支配を狙っているわけじゃない。
変な話だが、王国が平和だからこそ、罪人連盟なんて名乗っていられると言うわけだ。
もちろん、連盟の幹部クラスを捕まえようとすると、かなり大変なことになるらしいがな。
その少年が罪人連盟にものすごい貢献をしている場合、裏で減刑の手回しとかをしてくる可能性はあるが、たかだか下町のスリ少年だしなぁ」
少し人事のように言っているが、まぁ、管轄が違うのかもしれない。たまに見ていた刑事ドラマのマル暴みたいな部署があるのだろう、きっと。
こうなると、小袋は直接取り戻したほうが早いか。
「それで、ユリアちゃんどうする?」
「あ、ハンスさんも、この姿のときはケインって呼んでください。一応、お忍びなのです」
「ぷっ、りょーかい」
「で、まぁ、今日はもう帰ります。弟たちへのお土産がありますから」
「今日は、か……ケイン、1人でスリ少年を捕まえようとか思ってないよな?」
うわっ、ハンスさんのくせに鋭い。
そんな勘はもっと女心を知るために使えばいいのに。まぁ、私も女心なんてよく分からないけどな。
「捕まえようだなんて思っていません。今回のことはいい勉強だったと思っている、って言ったじゃないですか」
「ふむ……ならいいけどな」
「…………ケイン君、あのさ、捕まえないけど、自分で小袋を取り戻そうと思ってるとか?」
「げっ……」
グイルさんめー、余計なことをー。
「ケイン、女の子が『げっ』とか言わない……で、グイルの言ってることは当たりなんだな」
「まぁ、ちょっと会ってお話し合いで解決できればいいなー、とか」
「でもどうやってあの少年を見つけ…………ああ、魔術か」
はい、正解ー。
小袋は元々私のものなので、多分探知の魔術の対象になると思うんだよな。
今試してもいいけど、荷物があるから今日は家に帰って、明日にでも改めて探すつもりだった。
「ケイン、このことをお父様に報告してほしくなければ、その少年に会いに行くときにグイルを連れて行くこと」
「えっ? そんなグイルさんのお仕事の邪魔は……」
「平気平気。ケイン君、治安維持はオレらの仕事だって言っただろ?」
「そういうこと。約束できるか?」
2人が私を見る目が、何だろう、こう、「しょうがない子だなぁ」っていう目だ。
ここで約束しないと両親に全て暴露されて、今後の活動に支障が出ることは間違いない。内緒にしたいのも変に心配させたくもないからだ。
「う~……約束、します」
「よし、いい子だ」
ハンスさんがガシガシと私の頭をなでる。完全に子ども扱いだよな。
いや、私は子供なんだからハンスさんの対応は間違えてない。私がハンスさんの立場でも同じようにやるはず。
最近、ちょっと自分が子供だということを忘れがちだ。気をつけねば、うん。
さて、可愛い弟妹とワンコが待つ我が家に帰ろうか。