10歳:「王都を歩こう(3)」
「で、グイルは、その掏られたのを黙って見逃したと」
「ううっ……面目ない」
「ハンスさん、それは倒れそうになった私を助けようとしてくれたから!」
と、ハンスさんのからかいに本気で項垂れるグイルさんのフォローをしておく。
スリの少年を追いかけようにも、人ゴミにまぎれてあっという間に見えなくなってしまった。
それからグイルさんの提案で、私はグイルさんと一緒に地軍の詰め所にやってきた。
ちょうどハンスさんが待機中だったので、詰め所の個室を借りて、現状の説明をしたところだ。
「で、被害はどのくらいなんだ?」
「んー、硬貨で800シリル位と小袋が1つかな……お金のほうはいいですけど、小袋はお母様に作ってもらったやつなので取り戻したいです」
「……800シリルかぁ、おれらが動くにはちょっと微妙な額だな。もちろん、ユリアちゃんのお小遣いとしてはすごい額なんだけどさ」
「ん? お小遣いじゃないですよ? 私が見つけた輝石を売ったお金ですから、ある意味自分で稼いだお金です」
「ほ~……一応、その少年の特徴を聞いておこうか」
ハンスさんは、机の引き出しから紙を取り出すと、ペンをインク壷につけながらさらさらと書き出した。
事情調書みたいなものか?
「少年で私より少し背が低いくらい、それ以外はよく分かりません」
「オレが見た感じだと身長は大体130イルチ、やや細身で、髪は茶色で肩下くらいの長さ、人間にしては珍しい透き通るような緑の眼をしていました。
言い訳っぽいですけど、あっという間に裏道に逃げ込んだのを見るに、それなりに土地勘がある常習犯かもしれません。
服はあまり綺麗ではなかったので、街頭孤児の可能性が高いかと」
「孤児ね……一応、軽犯罪対策班に連絡を入れとくか」
「……ハンスさん、この場合の罪ってどのくらいの罰になるんですか?」
「金銭の窃盗は総額1万シリル以下なら額に応じた鞭打ち、1万を超えていると強制労働所送りだな。
まぁ、被害額なんか結構曖昧だったりするから、裁判官の酌量によって変わる部分も大きいが」
政治と商売に関する法律は読んでいたけど、刑罰の部分は読み飛ばしてたんだよ。しかし鞭打ちか。
「それじゃあ、今回の私の分はなかったことにしておいてもらえます?」
「……いいのかい、それで?」
「どうせお金は戻ってこない可能性が高いでしょうし、私もいい勉強になったと思えば安くついた方です」
「相変わらずユリアちゃんは考え方が子供離れしてるなぁ」
「ハンスさんは、30歳には見えないくらい子供っぽいですね」
「……ユリアちゃん、それ褒めてないぞ」
別に褒めてないからな!
まぁ、別のポケットに入れておいた小金貨は無事だったし、〈宝魔石〉が上手く売れれば、かなりの収入が見込める。
遊ぶ金ほしさではなく、生きるための行為だと思うとあまり責めたいとは思わない。
もちろん、前世の道徳観と自分が裕福だからこその偽善かもしれないが。
「しかし、あの手際だと組合所属でしょうか?」
「所属しているにしても、してないにしても面倒な話だけどな」
「組合? 何の話ですか?」
「ん、まぁ、ユリアちゃんならいいか。ユリアちゃんは、連盟って分かるか?」
少し王国内の組織について、勢力別に大きく分けると3種類の団体がある。
1つが、王宮議会、王をトップとする代表貴族による団体で王国の統治を司っている。王国軍もここに所属していて、もちろん国で一番力がある組織と言っていいだろう。
2つめが、宗教関係で大きな団体が5つ。四大精霊王を信仰する各教に、眠れる神を信仰する唯神教だ。
いずれも国に縛られず、勢力を大陸全土に広がる組織である。
もちろん、ラシク王国の支配下の地にある精霊院や教会は、名目上だがラシク王国の認可を受けているという立場にある。
3つめが、連盟と呼ばれる各分野によって分かれる王国内の職業組合の集まりだ。
これは王国の保護下にある組織とされるが、連盟の幹部に与えられる権力は下級貴族のそれを上回る。
そのため、自身の関係者を連盟の幹部にしようと画策する貴族も少なくはないらしい。
「えっと、商人連盟、職人連盟、学者連盟、冒険者連盟の4つのことですよね?」
例えば、商人連盟ならば行商組合や鉱石商組合、冒険者連盟ならば探索者組合や護衛組合を傘下にしている。
私に一番関係がありそうな魔術師組合は学者連盟の下位組織となる。
ちなみに1人の人が複数の組合に所属することは問題なく、各組合の所属条件にさえクリアすればいいらしい。
この連盟と組合は、ラシク王国で生まれた社会的なシステムであるため『グロリス・ワールド』の設定にはなかった。冒険者連盟とか、ゲーマーとしては、すごい心惹かれる名前なんだけどな。
「そう表向きはその4つだな。ただ、王国には5つ目の連盟と呼ばれる組織があって……通称、罪人連盟と言うんだ」