10歳:「王都を歩こう(2)」
「毎度あり~」
「どもー。さて、こんな所かな」
代金を払って、紐で括って繋げられた干し肉を受け取る。これはジルへのお土産だ。
いくつか露店を見て回った結果、土いじりが好きなリックにはハーブの苗を、おしゃれに興味がでてきたリリアにはリボンを買って帰ることにした。
それほど大きな買い物はしなかったので、今日売り払った輝石の代金は、ほとんど残っている。
さて、そろそろ帰ろうかなと考えていると、見覚えのある耳と尻尾を見つけた。
「グイルさん、こんにちわ」
「ん? ……もしかして、ユリアちゃん?」
「正解です。よく分かりましたね?」
私の姿を見て一瞬悩むような顔をしたが、すぐに私だと分かったようだ。
「いや、雰囲気が全然違うから自信はなかったんだけど、声の質とかで何となくかな。
そんな格好をして何してるの?」
「お買い物とお散歩です。そういうグイルさんは? お仕事中ですか?」
グイルさんの服装は、旅行中のラフな格好とは違い、かっちりとした堅い感じの服を来ている。
多分、王国軍の制服、軍服ってヤツだろう。
「ああ、オレの方は巡回中でな。オレやハンス副長が所属する地軍は、こうした王都の治安維持も仕事の一環だから。
この付近は十二番隊の担当地区なんだ」
グイルさんて、口調や軍人をしている割には人の良さそうなオーラが出ているんだよな。大人しい大型犬というか
……あっ、犬のおまわりさん! 軍人とか警察官というより、おまわりさんだ!
個人的に、すごく納得してしまった。
「まぁ、ユリアちゃんなら大丈夫だとは思うが……裏通りとか、あんま危険な場所には行かないようにな。
いくら腕に自信があるといっても、まだまだ小さいんだし、それに“魔術”は秘密なんだろ?」
「もちろんです」
本当に心配そうな顔をされては、下手に反論もできない。
実は、グイルさんより私の方が強いんだけどな。
王都までの旅の途中に、ロイズさんの提案でグイルさんにも稽古の相手をしてもらったのだが、魔術なしで引き分けくらい、魔術ありなら私の圧勝だった。
前の屋敷では稽古の相手になるのが、ロイズさんとイアンしかいなかったから、今一分からなかったけど、私は新米の一般兵並には素でも戦えるようだ。
ちなみに、ハンスさんには魔術なしには勝てず、強化系の魔術を2つほど使って引き分けくらい。
ロイズさんとは、かなり卑怯っぽい魔術を使わない限り1撃も与えられないほどの実力差がある。
「あ、グイルさんこの格好の時に街でであったら、ケインと呼んで下さい」
「ケイン? ……了解。ケイン君は、これからどこに行くんだ?」
ノリがいいというか、子供のお遊びに付き合ってくれている感じか。
「ん、もう帰ろうかと思っていたところでした。それじゃあ、グイルさん、お仕事頑張って下さい」
「気を付けて帰るんだぞ」
そう告げて、グイルさんと別れようとした時、
「わっ!」「おっと」
「っと、お兄さんゴメンなさいー!」
私より少し小柄な少年とぶつかってしまい、倒れそうになった私をグイルさんが慌てて支えてくれた。
「ユ……じゃない、ケイン君、大丈夫か?」
「ええ、お蔭様で転ばずにすみました。ありがとうございます」
「怪我はなくてよかったけど、そうじゃなくて……今のってスリじゃ?」
「…………えっ? ああっ」
硬貨を入れた小袋が、ズボンのポケットから煙のようになくなっていた。