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【未完旧作】攻撃魔術の使えない魔術師  作者: 絹野帽子
王都ラシクリウス編
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10歳:「活動資金を稼ごう(1)」

 

 

「ふぁ~……、んんっ!」

 

 

 あくびをもたらした眠気を、背伸びで追い払う。

 

 昨夜はフェルとの3度目の密会だった。お互いに慣れてきたのか、フェルが用意してくれたお菓子をつまみながら、最初から最後までダラダラと色々な話をしていた。

 バタークッキーのようなお菓子で、木の実の粉が練り込まれているため、とても香ばしくサクサクで美味しかった。

 

 今回の密会で一番印象に残っているのが、あの屋敷が言葉どおりの意味で、フェルの物であることだ。

 両親は貴族街にある屋敷に住んでおり、つまりはフェルは一人暮らしというか、隔離されているらしい。

 

 原因は多分【夢夜兎の加護】のせいだろう。

 人は生きている中で大なり小なり嘘をつくし、隠し事をする。例えそれが血のつながった親兄弟でも話したくない、隠したいことはある。

 

 【夢夜兎の加護】は、隠そうと強く思えば思うほど、そのことがはっきり分かってしまうものらしい。

 結果として、フェルの両親は「【霊獣の加護】持ちの親」というステータスを大事にしながら、フェルを飼い殺すようにあの家に閉じ込めているというわけだ。

 その親はさらに報酬をもらって、フェルの能力を使っているとも聞いた。

 最近では、様々な人物の秘密を暴くことも少なくないそうだ。

 フェルが大人びてしまった理由が分かってきたかもしれない。と言って、2日に1度の話し相手になるくらいしか、私が彼にできることはないけど。

 

 

 そして今、私は王都の雑踏の中にいた。

 

 数度に渡るおねだりの結果、やっと屋敷の外に出る許可をもらえた。門限付きだが、お供もなしに1人で王都を自由に散策している。

 私は上質な男物の服を着ており、腰には短めのショートソードを差している。一見するとどこか貴族の子息に見えるはずだ。

 この外見なら、よほどの相手でなければ、なめられることもないという考えもある。念のため外見の印象を変える魔術もかけている。

 

 王都を上空から見ると、上を北として『♀』のように大きな道が走っている。上の丸い部分の中に王城をはじめとした行政施設や貴族街があり、壁で囲まれその周りに横幅が平均40メルチ(=約40メートル)の道がぐるりと周回している。

 下の十字の部分は王都を突き抜ける大きな街道であり、横幅が平均70メルチ(=約70メートル)ある。

 貴族街の周りにある道が宝環ほうかん通り、東西に走る道が馬車街道ばしゃかいどう、貴族街から南に走る道が王湖街道おうこかいどうと呼ばれる。

 

 道の中央は馬車が行き交っており、道の端には主に商店や工房、真っ当な宿屋が軒を連ねている。道の幅が広がる場所は広場のようになっており、露店が構えている。

 店のランク的には、宝環通りにある店は貴族や豪商などの富裕階級向けの店が多く、王城から離れるほど徐々に庶民向けの店になっていく。


 ただし、馬車街道と王湖街道が交わる十字から宝環通りまでの道は王湖街道の一部だが、そこが最も王都で高級な一角とされており、宿屋や衣服商、装飾具商、レストランなど、それぞれの分野での一流店のみが店を構えることができる場所になっていた。

 

 

 さてと、まずは鉱石商かな?

 以前の屋敷で、鉱石のなかでも輝石に分類される翡翠や水晶などを集めていた。機会があれば、ぜひ換金しようと思っていたのだ。

 魔術のおかげで、輝石そのものは簡単に見つかったので、その中でいくつかを見繕みつくろって持ってきていた。残りは私室のチェストの中だ。

 親におねだりすれば、お小遣いをもらえそうだが、自分で見つけた石を売ったお金の方が気兼ねなく使えるしな。

 

 目的の店はすぐに見つかった。一見して店内は清潔感があり、そこそこに儲かっていそうな店を選んだ。

 

 

「失礼、どなたかいらっしゃいますか?」

「はい……お客様、本日は何をお探しで?」

「いや、この店は石の買取りはやっていますか? いくつか売りたいのですが」

「やっております。こちらにおかけになってお待ちください」

 

 

 服のおかげか、店員の私に対する態度も悪くない。店員が奥に入って、しばらくすると片眼鏡を着けた男が私の前にやってきた。

 

 

「本日は石をお売り頂けるということですが」

「ええ、こちらです……」

 

 

 ポケットから取り出した小袋の口を広げて、中に入っていた石をテーブルの上に広げる。

 

 

「拝見いたします」

 

 

 片眼鏡の男は、石をひとつずつとって丁寧に眺めていく。

 私はその顔をじっと見つめていた。ある石を見たときに男の動きが一瞬だけ止まった。よく見ていなければ気づかなかったくらいの反応だ。

 

 

「ありがとうございました。それで、いかほどでお売りいただけるのですか?」

「なにぶん、私はこの手の相場に関しては素人も同然ですので、そちらの、えっと……」

「ああ、これは申し遅れました。『セールテクト輝石店』の店主をしております。ホラン・セールテクトと申します」

「ご丁寧にどうも。私のことはケインとお呼びください。

 値段について、ホランさんの査定額をお聞きしてもよいですか?」

「畏まりました。粒の小さな翡翠と水晶は1個100シリルとして、6個で600シリル。こちらの〈花乙女の翡翠〉は2個で1,500シリル。〈泉乙女の紫水晶〉は3個で5千シリルでいかがでしょうか?」

「ええと、これは?」

 

 

 今の話の中で値段を指定されなかった赤い色の石を指差した。

 

 

「真に申し訳ありませんが、そちらは当店で買い取ることが難しく、今回はご遠慮ください」

 

 

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