10歳:「虹色石の瞳を持つ少年(3)」
フェルに言われるがまま、ベランダに備え付けられたテーブルの椅子に向かい合わせで座る。
「ところで、さっき暗殺とか言ってたけど……いいの、私みたいな怪しい人物と一緒にいて」
「構わない。暗殺というのも軽い冗談だ、もっともいつ起こってもおかしくはないと思っているがな」
うーん、なんだろう。
10歳にしては貫禄がありすぎるというか、性格が渋いというか、……ああ、枯れてる、が一番しっくりくるな。
「それで? 友達になるのはいいけど、何がしたいのかな?」
「そうだな……まずは、お互いのことについて質問するというのはどうだ? もちろん、質問に拒否をしてもいい、その場合は別の質問をする」
お見合いか、これ?
いや、お互いのことを教え合うというのは、対人関係の基本だし、お見合いに似てくるのかもしれないけど。
「それじゃあね……」
「待った。ボクのチカラを教えたんだ。こっちに先に質問をさせてくれ」
「それもそうか。何が知りたいの?」
「さっき空中浮遊といい、姿隠しといい、ユーリは魔術師なのか?」
「魔術を使えるのが魔術師と言うなら、私は魔術師だよ」
うん、ここが微妙なんだよな。ラシク王国には、職業としての魔術師がある。
分類としては「限定魔術師」と「公認魔術師」の2種類に分かれる。両方とも一定以上の魔術的な技能を有し、魔術師組合に所属していることが条件だ。
両者の違いは何かというと、簡単に言えば〈発動具〉の所持の有無となる。
前者は自前の〈発動具〉を持っておらず、国や組合などの団体と契約して所属することで〈発動具〉を借りて業務に就く。そのため、契約をしている団体に対する強い義務や制限が色々と発生する。
逆に後者は、自前の〈発動具〉を持っており、魔術師組合には籍を置いているだけの魔術師だ。必ず魔術師組合に所属する必要はないが、所属をしている方が何かと便利らしい。特に身分や身元の証明になる。
公認魔術師でも限定魔術師のように国や組合と契約して業務についている場合が多い。
ただ、限定魔術師よりも公認魔術師の方が自由度が高く、また条件も良いので、多くの魔術師は自分の〈発動具〉を手に入れることを目標とするそうだ。デメリットは自前の〈発動具〉を壊したり紛失した場合、全てが個人の負担になってしまう点にある。
そして、私のような魔術を使えるが、魔術師組合に所属していない者は「魔術使い」と呼ばれるらしい。
魔術師組合に所属しないのは、別に違法ではないが、所属していない魔術師は無法者や厄介者という目で見られがちである。実際にそういう魔術師が多いのでも事実で、「魔術使い」というのは蔑称に近い。
ちなみに、魔術を習っている身分は、ただ単に「魔術師見習い」と呼ばれる。
「少し含みがある言い方だな」
「じゃあ、次は私の番だね……えっと、好きな食べ物は何かな?」
「……なんだ、それは?」
「え? やっぱりここは、ご趣味は? とか聞いたほうが良かった?」
フェルからの追求を誤魔化すために、思わず適当な質問をしたが、変人を見る目をされてしまった。お約束は通じなかったか。
まぁ、なんだか、長い付き合いになりそうだし、別にいいじゃん。
「答えてくれないの? それともこの質問は拒否?」
「特に好きな食べ物はない、あえて言うなら飲み物だが香草茶が好きだ。趣味は魔術学」
と思ってたら、律儀に返答してくれた。
趣味は魔術学か。それもあって、魔術師である私に興味を持ったのか?
「次はボクからだな。ユーリの好きな食べ物と趣味は?」
「おおっ、質問返しをされた。好きな食べ物は、お肉とお菓子。小人牛のステーキとかプリンが特に好きだね。
趣味は魔術と剣術と料理を少々?」
「いや、ユーリの魔術って趣味なのか? それとプリンって?」
「さりげなく質問を増やしてない? 次は私の番だよね?」
「面倒になった。普通に話をしよう」
「…………まぁ、いいけど。
魔術については、別に魔術でお金を稼ごうとは思っていないから、そういうのを趣味って呼ぶんじゃない?
ちなみにプリンっていうのは、ミルクと卵と砂糖を混ぜて加熱したお菓子のことだよ」
フェルとは半刻(約1時間)ほど話したが、なんだかんだで盛り上がった。結構楽しかったのかもしれない。
特にフェルのこの世界の魔術に関する知識は、大人顔負けで、ためになる。私の知識は、なんていうか、解答本を見て答えだけが分かっている状態なので、常識的な情報は重要だ。
その後、フェルの都合に合わせて2日後に再び会う約束を交わして、私は家に戻った。
どうやら、抜け出したのはバレていなかったようだ。
翌朝になっても何も言われなかった。